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2010年1月 5日 (火)

高いお米、安いご飯

お米は高いのか安いのか、どのくらいの値段が妥当なのだろうか、ということについて少し考えてみました。

ある商品の購入量は、消費者が置かれている経済環境と、この商品だったらこれくらいの値段までは高くなっても特には気にしないという消費者のお値段感覚と、代替品(たとえば、珈琲に対して紅茶)との価格差や両者の相対的な価格比で決まってきます。

以前から、お米の値段が下がればお米の需要が増えるというストレートな意見があり、それについてとくに異議を唱える人もいないようですが、僕は、僕自身の「虫の眼」感覚からそのような意見に違和感を覚えていました。

パン食等の食生活の洋風化で日本のお米に対する需要が減少したのは事実だとしても、これほどお米の需要が減少したのは、日本のお米の値段が高かったからだ・高いからだ、というものです。だから、米価を下げたら、お米の需要は増大する、と続きます。

お米の値段が政策的に高価格に維持されてきたために、農地規模をどうするかという政策を含む農業生産インフラの性格が、対消費という意味ではボンヤリとしていました。その結果、食べ物の消費スタイルの変化に追いつけなくて、あるいは置いてきぼりにされて、そのような農業生産インフラが日本の食糧自給率の低下を招いたというのはその通りだと思います。しかし、お米の値段を下げたら、ご飯としてのお米の需要が増えるというのは、他に何か大きな状況の変化がない限りありえないのではないか、と感じています。何か大きな状況の変化とは、たとえば、小麦の値段が急騰して高止まりするとか、お米パスタやお米パンのような小麦の代替としてお米を使う食品が人気を得て急速に市場に浸透していくといったことです。

お米の価格に関して気がつくことをいくつか並べてみます。

(1)普段、僕たちが家庭で食べているお米の値段が20%安くなっても、毎日食べるご飯の量が20%増えることはない。お米を食べる量はほとんど変わらない。

(2)高品質の有機栽培米や高級ブランド米は価格が下がれば需要は拡大するが、それは新規顧客需要であり、そちらに引き寄せられた消費者は今まで食べていたお米から乗り換えるだけなので、全体の需要量は変化しない。ただし、販売者は、顧客に人気の高い付加価値米の値段をわざわざ下げるなどという自己否定的なことは普通はしない。

(3)お米の需要量が変化するとしたら、お米の値段が今の倍になって高すぎるのでお米を食べなくなるとか、パンやパスタやうどんなどの小麦関連食品の値段が倍になって小麦離れを起こし、逆にお米をどんどん食べ始めるとか、という場合である。

(4)お米の値段は、高くて、同時に安い。国産のお米の値段は、他の国のお米の値段よりも、数10%か、あるいは何倍も高い。しかし、代替品・代替食品の値段とはあまり差がないか、代替品よりも安い。

上述を踏まえて、以下の3つを考えます。

(A) 日本の米の値段は、世界で一番高い。
(B) 材料としての米は小麦より高いが、小麦粉と比べると実質的な差は少ない。
(C) ご飯は、小麦加工食材・食品よりも、安い。

(A) 日本の米の値段は、世界で一番高い。

日本のお米の60キログラム(1俵)あたりの平均的な落札価格(指標価格、いわゆる米価)は1万5000円くらいですが、他の国の種類の違うお米(たとえばタイの一般的な米)の値段は3550円~4150円(タイ輸出価格に輸入関連費用をおおまかに加算したもの、註②参照)くらいで、とても安いです。しかし、他の国の、似たような品質のお米(たとえば中国産の良質米)は、今は高くなって、その輸入価格(関税前)は1万円くらいです。(現地取材レポートなどによれば、中国産良質米の中国国内での消費者価格が邦貨換算で8000円から9000円。)

タイのお米をインディカ米とすると、食味や調理方法の違いで通常は競合品にはならないので、その価格はとても食べ物に困ったときの参考にはなりますが、現実的な価格比較には、中国良質米の1万円と国内米の1万5000円を比べる方が妥当です。

ちなみに、1万5000円(60kgあたり)とは指標価格なので、スーパーなどでの消費者向け店頭価格は、おいしいといわれるお米が10キログラム袋で4000円から4500円くらいです。

(B) 材料としての米は小麦より高いが、小麦粉と比べると実質的な差は少ない。

次に、パンやうどんの原料、パスタやラーメンの原料である「小麦」と比較してみます。原料としての小麦は、ほとんどが輸入品ですが、最近の政府売り渡し価格を見ると(比較をわかりやすくするために60キログラムあたりに換算)パンやラーメンやお菓子用の平均値が3885円です。安いです。しかし、「小麦」ではなく、「小麦粉」の実勢取引価格(卸売価格)を見ると、これも60キログラム換算で、最近は、パスタ用や中華麺用やうどん用や菓子用の単純平均値が1万円です。この方が比較の対象としては適切かもしれません。小麦粉が1万円、米が1万5000円、です。

お米は炊飯器で米磨ぎなどの準備も入れて1時間ほどでご飯が炊き上がりますが、小麦粉を買ってきても、自家製パンや自家製パスタや自家製麺は1時間くらいではでき上がりません。我が家では、最近はパンやパイくらいしか作りませんが、以前はパスタ作りの手伝いをさせられたこともあって、米磨ぎと、たとえば生スパゲティー制作とでは、手間ひまがうんざりするくらい違います。生パスタが完成した段階と、米磨ぎが終わった段階がいわば同じスタートラインなので、それまでの作業時間を考えると両者の実質的な価格差は縮小するということになります。

もっとも最近は、パスタをこねる機械やホームベーカリーがあるので、材料価格差はそれなりにあるというにとどめておきます。

(C)ご飯は、小麦加工食材・食品よりも、安い。

今度は、材料比較ではなく、小麦加工食品とお米との比較ですが、小麦加工食品とは、パスタやラーメンやうどん等を指します。消費者向けにパッケージされた白米は、「磨いで浸して炊飯器」という簡単プロセスでご飯になるので半ば加工食品ですし、無洗米になると、値段は若干高くなりますが、米磨ぎが不要なのでお米は、湯に入れる前の乾燥パスタ・乾麺とほぼ同じ状態です。

そのままむしゃむしゃと食べられる主食系の小麦加工食品の代表はパンです。パンは食べられるまでの準備作業がないので、その分だけ値段が高くてもフェアな価格付けといえそうですが、パン価格は、パンにもいろいろありますが、その差額分を越えた高い値札をつけているようです。

そのままむしゃむしゃということなら、おにぎりはパンのようなものだともいえます。コンビニのおにぎりがよく売れるのはそのためだと思います。我が家でも、僕の朝があわただしいときには、前の晩のご飯の残りでおにぎりを作り置きしてもらい、それと味噌汁類や冬だとケンチン汁で朝ごはんです。おいしいお米は冷えてもおいしくいただけます。

以下は、100グラム単位の価格比較表です。(価格は、某巨大スーパーでの2009年11月下旬の店頭価格で、場所は札幌です。)

なぜ、100グラムか。

100グラムのお米は丼一杯分のご飯になり、うどんやスパゲティーは100グラムが、大人一食分の分量なので、100グラムでお互いの値段を比較することは極めて公平です。もっとも、両方とも、それだけでは味気ないので、素うどんといえどもおいしいダシ汁やネギが必要ですし、パスタにはそれなりのパートナー素材、ご飯にもオカズが不可欠ですが。

Photo_3

さて、僕の米価に関する考えを要約すると以下のようになります。

*1万5000円のお米の指標価格(米価)に、消費者としては、不満はありません。(ただし、今は、ひどい不況のデフレ状態なので、全般的な物価の下落に対応という意味での価格の低下は歓迎します。)

*不満のない理由は、ご飯の値段は、パスタ、うどん、ラーメン、パンなどの小麦加工品よりも相対的に安いからです。

*お米の値段(だけ)が下がったからといって、日本人の主食のひとつとしてのお米の需要がみんなが気づくほど増えるわけではありません。しかし、お米パスタやお米パンのような小麦の代替としてお米を使う食品が人気を得て市場浸透する場合は、お米の需要は明らかに増えます。

しかし、以下の理由で、お米の値段(いわゆる米価)は1万円以下になってほしいと考えています。

* まず、農地の問題。農地面積、農耕地の広さが、農作物の収穫量を決定します。今まで、「高すぎる生産費」と「高すぎる米価」の組み合わせから、減反という不思議な政策を通して、日本の農地は50年前の約610万ヘクタールから約460万ヘクタールへと減少しました(その内訳は、水田が250万ヘクタール、畑が210万ヘクタールです)。現在の日本の食糧自給率40%~41%を100%にするためには、今ある農地を4倍にしなければならないといわれています。(註①)

* WTOに代表される、外国との自由貿易・関税交渉の問題があります。WTO  で割当てられているミニマムアクセス米などの食糧自給を阻害する要素を取り除くためには、日本で好まれる種類と質のお米(良質ジャポニカ米)に関して、外国商品との競合的な価格、つまり1万円以下にまで国内米価を下げる必要がありそうです。日本で人気のないタイプの外国産のお米についてはその価格差は気にする必要はないと思っています。なお、ミニマムアクセス米として現在受け入れている数量は年間77万トンで、2009年度のお米の年間国内生産量が847万トンと見積もられているので、その9%に相当します。

* 農地の確保、農地の拡大のために1万円の競合的な米価が必要なら、それを推進する政策に賛成です。

* そうなれば、食糧安全保障の基盤整備につながりますし、穀物価格とアジアの食糧需給の状況によっては、その価格で、特定国に向けた輸出が可能になるかもしれません。

* 農家が自身の労務費や地代も含んだいわば総生産費用が8000円~8500円なら、米価が1万円でも経常利益が15~20%になり、中国産良質米の輸入価格と問題なく競合できることになります。そしてある程度の事業規模・収穫規模が見込めるなら、そういう農業に専業・主業として取り組む農家には、短期間は政策的な後押しが必要かもしれませんが、事業継続・事業拡大のための十分な利益が残ります。そうなれば、流通マージンもその動きに同期して、今よりもスリムなものになっていると思われます。しかし、そういう風にできない農家は、この価格構造の中では、農業部分の継続がむつかしいかもしれません。

* しかし、その場合でも、現在がそうであるように、高品質の有機栽培米や高食味米は高価格が維持できます。それらを好むお客がいるからです。我が家は、有機玄米を常食にしていますが、納得する付加価値に対しては喜んでプレミアムを支払います。

以上。

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註①

2008

僕たちが穀類しか食べないとすると、日本の食糧自給率は28%程度になりますが、実際は国産の鶏肉や豚肉や牛肉やミルクやバターや魚や野菜も食べます。そして肉類はカロリーが高いので、カロリーベースの食糧自給率は2008年で41%ということになります。仮に農耕地が現在の4倍になって、小麦や大豆やトウモロコシがほとんど国内生産されるとすると日本の食糧自給率は100%を超えますし、また仮に、お米が鶏や豚や牛の飼料として大量に使われて、飼料用としての輸入トウモロコシや各種の輸入麦の需要を相当な部分置き換えると、カロリーベースの食糧自給率は100%に近いものになります。

註② タイとベトナムは、国際市場における米の価格を安定させ、両国の米の競争力を高めるために、品質が高い、白いお米に対する輸出適正価格は、1トン当たり約600米国ドル~約700米国ドルであるという見解を今年の2月に発表しているので、それに準拠。

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