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2010年1月29日 (金)

お米の自由化を考えるときに、確かめておきたいこと(6)、(あるいは最後)

7.自由化するときの国産米の価格?いくつかのオプション

わかりにくい表題のつけ方をしてしまったので、修正します。現在は60kgあたり15,000円が日本の米価ですが、これがいくらくらいになったとき安心して自由化できるのか、というのがここでのテーマです。15,000円のままでとくには問題がないという考え方があるかもしれませんし、規模拡大や費用の圧縮などを軸に生産性を高めて、その結果米価が10,000円くらいまで安くなったときが自由化に踏み出すポイントだという考え方もあります。生産費と米価の差額については、現在もある基準で農家に対する個別(戸別)所得補償制度が実施されていますが、10,000円になればそれに準じた形の補償方式が導入されることを想定しています。ここでは、農業所得補償制度という一般的な言葉を使います。

これは難しい問いですが、4つ(実際は3つ)の選択肢を考えます。

(1)現在のいわゆる米価は60kg(1俵)あたり15,000円だが、そういう状況で自由化しても大丈夫だ、というのが最初の選択肢で、その要点は以下のようになります。

コシヒカリやひとめぼれのようなレベルの高いジャポニカ米はどこの国が作ったって14,000~15,000円くらいになる。それが5kg袋や10kg袋で同じような店頭価格なら、ほとんどの日本人は国産良食味米を選ぶので輸入品について気にすることはない。農業所得補償は当面は必要だが、農家への所得補償は、その方式の種類やWTOガイドラインへの対応がうまいか下手かといった違いはあるにせよ欧米先進国ではどこでもやっていることである。

(2)新しい農業政策の導入や農業従事者のインフラ改善努力、農業生産全般にかかわる流通費の圧縮などで、生産者米価が、現在の15,000円から10,000円くらいにまで安くなったあたりで、つまり日本のコメの国際競争力が現在よりも30%ほど強くなった時点で、それに適した農業所得補償制度と組み合わせて実施というのが2番目の選択肢で、その要点は以下のようになります。

アメリカやタイからの輸出をかわしながら、中国への輸出を視野に入れる選択肢。アメリカやタイは、予想を超えた高度な生産技術の導入や、あるいは政治的な思惑で、コシヒカリやひとめぼれのようなレベルの高いジャポニカ米を、10,000円と15,000円の間の限りなく10,000円に近いあたりで日本に輸出してくる恐れがあるが、それに対抗する価格競争力をものにしていたら、国産米の中国への輸出が視野に入ってくる。

(3)生産者米価が6,500円くらいまで安くなったあたりで、というのが3番目の選択肢
(4)生産者米価が3,500~3,600円くらいまで安くなったあたりで、というのが4番目の選択肢

(3)にしろ(4)にしろ、とても実現できない価格という意味では、両者は同じ。つまり、日本のコメにそこまでの国際競争力をつけないといけないのならば、コメの自由化は論外ということ、その場合、ミニマムアクセス米のようないわばペナルティーは致し方ないとして受け入れるが、もっと使い道のある種類と品質の輸入米にしてほしい、というのが(3)(4)のポイントです。

8.どういう環境になれば、日本から、たとえば中国に、コメの輸出ができるのか

「2.世界のコメの値段をおおまかにグルーピングすると・・」のなかで次のように書きました。『乱暴ついでに、このグループの市場規模を推定してみると、中国のコメ年間消費量は1億3413万トンなので、富裕層がその0.5%を買うとすると、市場規模は67万トンで、これは日本人全体の1か月分のコメ消費量とほぼ同じです。大間の本マグロも大分の原木栽培シイタケも中国の富裕層向けに買い占められる時代なので、8,100円は特に驚く価格ではありません。』

中国の人口は13億人で、コメの年間消費量は1億3,410万トンなので、一人あたりの年間消費量は100kgです。日本でも1960年代前半は一人あたり年間110kgのコメを食べていましたが、経済成長と都市化と食の洋風化でコメ消費量は下がり続け、その量は年間60kgです(去年はわずかに増加傾向を示したようですが・・)。中国の人口は13億人なので、富裕層をその1%と考えると、その数は1300万人です。中国の急速な経済成長と都市化と食の洋風化を考えて、その人たちが現在の日本人と同じ量だけ日本産のおいしいコメを食べるとすると(つまり、中国産のコメにはジャポニカ米でも手を出さず、コメはより安心な日本産を購入すると)、日本人はコメを年間60kg食べるので、その年間消費量は78万トンということになり、これくらいを中国への日本米輸出量と想定してもいいのかなという気になります。78万トンは日本のコメ生産量の9%です(ここでは分母は農林水産省の数字を使用しました)。

日本のコメはブランド米を中心として2007年に中国に輸出され始めましたが、イベント・ドリブン風の、つまりお祭り騒ぎ的な輸出開始だったせいもあり、その量は今もってグラフ表示ができるような大きさではありません。

上海などで流通している一般庶民の日常食としての現地米の店頭価格は、10kg袋換算すると175円~265円くらいで、これは日本の安い価格帯のコメの10分の1以下です。

しかし、その一方、中国では、「コシヒカリ」や「あきたこまち」が東北部の黒竜江省や吉林省で生産されており、そのうち、黒竜江省産の「コシヒカリ」や「あきたこまち」高級品の消費者価格・店頭価格が報告されていますが、それぞれ以下のような具合です。(2009年1月の、「北京新光天地」(北京にある、日本の三越百貨店出資の合弁百貨店)での価格、ただしその報告ではそれぞれの商品が、コシヒカリかあきたこまちのどちらなのかは記載されていない)

最も高いのが、52元/1kg(有機米)、それから、40元/1kg、37元/1kgと続きます。1元=13.5円を使い、またここでは乱暴ではなく丁寧に「アメリカのコシヒカリの店頭価格」で利用したパッケージングサイズ調整係数(1kg→10kg換算の場合は係数が0.645)を適用して10kg袋の円価格を計算すると、それぞれ、4,528円、3,483円、3,225円となります。前述したアメリカ(フィラデルフィア)や札幌のコシヒカリ・ほしのゆめなどの値段と比べてみてください。ともに10kg袋の値段です。違いは、販売店が、フィラデルフィアでは日系と中国系の食品スーパー、札幌では全国展開の大きなスーパー、北京では高級百貨店、それから、北京の商品には一部有機米が含まれているということぐらいです。

値段を調べた時期が、フィラデルフィアは2009年10月、札幌が2009年11月、北京は2009年1月と違いますが、コメの国際指標価格は3つの時点でほぼ同じ、消費者価格が国際指標価格を2ヶ月くらいのタイムラグで反映すると考えてもほぼ同じです。

なお、四川省に「涼山信頼農園」という有機JAS認定(日本のJASです)のコシヒカリ(「喜徳の光」というブランド名)を生産している農園があり、中国国内の個人消費者向けに10kg単位(5kg袋を2袋)で通信販売していますが、この値段が郵送料込みで300元(国内一律価格)。13.5円=1元で円換算すると、4,050円(価格は2010年1月)。これを加えてまとめると以下のようになります。

<中国、北京>

黒竜江省産コシヒカリ/あきたこまち \4,528 (有機米)
黒竜江省産コシヒカリ/あきたこまち \3,483
黒竜江省産コシヒカリ/あきたこまち \3,225
四川省産コシヒカリ               \4,050  (有機JAS米)

<アメリカ、フィラデルフィア>         <日本、札幌> 

田牧米ゴールド(コシヒカリ) :\4,409  vs. 新潟産コシヒカリ:   \4,380
かがやき(コシヒカリ)     :\3,656  vs.  茨城産コシヒカリ:   \3,980
かがやき(コシヒカリ)      :\3,656  vs. 北海道産ほしのゆめ: \3,250
国宝ローズ(中粒種改良米) :\1,864   vs. 比較対象となる中粒種無し

丁寧に生産された日本元来種の良食味米は、どこで生産されようと、労働賃金や生産方式(労働集約か資本集約か)が違うにもかかわらず、最終消費者価格・店頭価格は、結構似かよったものになっています。こういった現象には、当該コメ商品価格に対するターゲット顧客の所得水準が関連してきますが、そういった意味では、フィラデルフィア、札幌、北京の顧客は似かよっているのかもしれません。しかし、北京新光天地でこのタイプのお米を買う顧客が、相対的な意味では、もっとも懐に余裕があるようにも見受けられます。

以上のような消費者価格・店頭価格の状況を踏まえて、日本の安心な良食味米が中国に浸透していく環境条件を大雑把に考えてみると、

(1)中国の富裕層をターゲットに、
(2)年間輸出量は最大70~80万トンで、
(3)日本からの積み出し価格が10,000円(60kg)を少し上回るくらい

ということになります。

とすると、枠内1%の輸入関税(輸入割当枠を持っている商社などを通した場合は1%、ただし、そうでない場合は65%ととても高率のようですが)と13%の付加価値税と、それから中国国内の流通コストを上乗せしても、中国産「コシヒカリ」や「あきたこまち」の高級品クラスとは価格的にも十分競合が出来るかなと思います。同時に、輸入割当枠を持っている商社は、そうではないチャネルを使った場合に必要となる65%輸入関税をちらつかせて、したたかな率の流通マージンを要求してくるだろうな、などということも結構気になりますが、ここではその方面の議論には入りません。

以上、お米の自由化に関連して、鳥の眼(生産&輸出入統計データなど)と虫の眼(実際の各地の消費者価格など)の両方から、個人的に可能な範囲で、いくつかの状況を確かめておきたいと思ったので走りながらまとめてみました。

◇◇◇

「お米の自由化を考えるときに、確かめておきたいこと」を書き始めるきっかけは、日本はお米の値段が高いので、国際競争力はまったくなく、自由化ということになったら海外から安いジャポニカ米が大量に入ってきて日本のコメ農業は壊滅状態になるという意見への違和感からでした。

「世界のコメ商品一般」と「世界のコメ顧客一般」という切り口で議論すると、その意見はもっともで、なぜなら世界のコメ一般の取引価格・卸売価格は60kgあたり約3,000円、日本の米価は60kgあたり約15,000円なので、価格差は5倍だからです。

しかし、切り口を変えて、世界のコメ生産量の15%程度であるジャポニカ種の、その中の短粒種の、その中の味と品質のよいおコメという風に商品のセグメントを絞り込んでいき、また消費者もそういう付加価値商品を好む人たちからなるセグメントという形で顧客セグメントを絞り込んでいくと、そこにあるのは、コメのニッチ市場です。

で、このニッチ市場は実際はどんな様子なのだろうかということが気になり始め、以前、カリフォルニアに赴任していたときに自宅でよく食べた「田牧米」を手がかりに調べてみるかという心境になったわけです。アメリカ産のコシヒカリやあきたこまちの現地での消費者価格は、日本産のコシヒカリやあきたこまちの日本での消費者価格とどれくらい違うのか、どれくらい安いのか、それとも逆に高いのか、あと、中国が東北地方でコシヒカリやあきたこまちを商用ベースで国内生産していると聞いているので、こちらもそれらの消費者価格は北京や上海ではどうなのか。各国でのコメ一般の取引価格・卸売価格やタイ・インディカ米の標準的な輸出価格などを基準にするのではなく、消費者価格という虫の眼で、ある程度状況を追いかけてみようというわけです。

このニッチ市場の大きさですが、日本の800万トン(これは、前述のように世界コメ市場の1.8%)、これにアメリカの65万トン~98万トン(アメリカのコメ生産量の1%~1.5%がコシヒカリやあきたこまちといった短粒種良食味米)、そして、中国の78万トン(この数字は僕の個人仮説)をくわえると、943万トン~976万トン、ざっと1,000万トン。世界コメ市場の2.3%です。現在の消費者価格に地域的な差があまりないこと(コシヒカリやあきたこまちの消費者価格はフィラデルフィアでも札幌でも北京でもそれほど変わらない)を考慮すると、この高付加価値米ニッチ市場は、コメ市場一般とは別の需要供給&価格決定メカニズムで、現在も動いているし、今後も動いていくように思います。

北海道ではコシヒカリに匹敵する良食味米の「ゆめぴりか」というお米を、2009年秋にある程度の量で、北海道の新しいフラグシップ(旗艦)米として出荷する予定でしたが、夏の長雨の影響で出荷量が激減しました。予定の6%です。物理的な収穫も予定より少なかったのですが、「ゆめぴりか」のブランド品質基準に達しない「ゆめぴりか」が結構あり、それは「ゆめぴりか」以外のグレードの下がった無名のブレンド米ということになりました。これは一例ですが、日本のコメ作りはこういう形で営まれています。おそらくカリフォルニアの「田牧米」もそうだと思うのですが、こういった品質特性を持った商品がこのニッチ市場を形成しています。したがって、日本が「10,000円」対応のコメ生産基盤に移行できれば、自由化を恐れる必要もないし、逆にその後、たとえば中国の特定消費者セグメントのコメ需給が逼迫することが予想されるので、定常化したコメ輸出ビジネスも視野に入ってくると考えています。

<「お米の自由化を考えるときに、確かめておきたいこと」の終わり>

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