« お米の輸出 | トップページ | 日本酒再発見 »

2010年1月 9日 (土)

わがままな消費者

付加価値のある、つまり丁寧に手をかけて作られた食味のよい農産物や水産・畜産加工食品などは値段が高いのがあたりまえなので、喜んでその高い値段で購入するし、付加価値に対する追加的な支払いをすることでそうした食べものを生産・製造している人々が事業を問題なく続けられるように応援する人たちがいます。同時に、そういう人たちとは別に、いわばその反対側にかたまっている人たちもいます。後者の、反対側にかたまっている人たちを、ここではわがままな消費者と呼びます。

消費者をタイプ別・類型別に分けて市場戦略・商品戦略・販売戦略を考えるというのは、マーケティングが能くするところですが、食べものの消費者分類に関して以下に引用するもの以上の見事な分類は、寡聞にして知りません。食べ物に関しては、建前と本音が乖離している、アンケートや市場調査を通した消費者の「公的な」発言と日々の購買行動を通して見られる消費者の「私的な」意思決定に大きな不一致が見られるとはよく言われることですし、そういう調査結果も目にします。

たいていの人は消費者(買う側)であると同時に生産者や流通業者(作る側、流通させる側)です。薄型テレビを設計・製造・販売している方々は、薄型テレビに関しては作る側・流通させる側ですが、その他の電気製品や衣類や自動車や食べ物(食材・食品)、あるいは散髪やレストランなどの各種サービスに関しては買う側に回ります。だから、提供する側から見た消費者のわがままというものに提供する側のそういう立場の人は気づくと思いますし、買う側に立ったときの消費者としてのわがままも、自身の購買行動を通して自覚しようと思えば自覚できるはずです。「今は買うだけ」という立場の方(お年寄りや専業主婦)も多数いらっしゃいますが、以前の経験を思い起こせば両方を理解することはたいして難しいことではありません。

その見事な分類とは、福岡都市科学研究所(現在は、福岡アジア都市研究所)が行った「福岡市民の食生活に関するアンケート」(2003年:徳野貞雄熊本大学教授が監修)で、徳野教授の著書からその調査結果の要約(「農産物消費者の4類型」)を引用します。(なお、以下の図ではごくわずかですが、表現をオリジナルより温和なものにかえてあるところがありますので、お断りしておきます。)

注目したいのは、農業や農作物の価値がわかり、あるいはよくはわからないのだけれどもなんとなく感覚的に納得し、付加価値のついた農作物に対してはプレミアム価格を支払う人の割合がとても少ないことです。つまり、無農薬や有機栽培などで育てた農作物はおいしくて安心だが、そのために農家や農業法人は相当の手間ひまをかけており、だから値段が高いのは当然だとその内容を理解し、その理解と財布からお金を取り出す行動がとぎれない流れになっている人たちは5.4%、無農薬栽培や有機栽培の内容やそのプロセスはよくわからないが、そうして育てられた野菜や米はたしかに甘いし瑞々しいし味も深くておいしいので、なるほどと納得してその付加価値にお金を払う人たちが16.5%、合わせて22%です。

4rev

次に注目したいのが、市場の中心勢力(中心セグメント)となっている消費者層です。55%の人たちがここに分類されています。市場の売れ筋商品や売れ筋価格は、基本的にこの人たちによって決定されます。この層の興味深い特質のひとつは、「アンケート調査等では『食の安全が一番』『地産地消が大切』と答えるが、実際の消費行動では、スーパーの外国産特売品に飛びつく」ということです。つまり、「意識と行動が分離しており」おそらくその結果「風評被害を起こしやすい」人たちのようです。風評被害を起こしやすいとは、ある商品やその関連商品が風評被害をこうむった場合、自身がその風評の正義感あふれる、そしておそらくその自覚のない仕掛け人のひとりになるということです。読者の皆さんの中には、食べものに限らずさまざまな製品・商品の品質問題などで顧客に頭を深く下げた経験のある方がおおぜいいらっしゃると思いますが、目の前で度を過ぎた正義感を振り回されるのは、あまりいい気分のものではありません。最初に述べたように、この人たちを、ここではわがままな消費者と呼んでいます。

23%をしめる「食に対して無関心な消費者層」は、食べものに無関心で、おなかがいっぱいになれば何でもいいわけですから、53%を占める「分裂型消費者層」が作り出したトレンドに引きずられて、おそらくはそのトレンドをより太いものにします。

僕は、性格がよくないのか、夕方にデパ地下やスーパーなどへ行く用事のある折には、食品売り場で買い物籠を手に提げたり台車に載せた熟年後期の女性や熟年前期の女性、アラウンドフォーティーの女性やアラウンドサーティーの女性、あるいは仕事を始めたばかりの年齢の女性を、この女性たちはどの類型の方たちだろうとその購買行動を、決して失礼にならないように離れたところから拝見する場合があります。野菜の選択の様子や、加工食品のパッケージを裏返して原材料などを確かめているかどうかが興味の対象です。(ひょっとして、怪しげなオジサンだと警戒されたかもしれませんが。)

スーパーの一部やデパ地下だと、たいていは野菜売り場の一角に有機野菜・特別栽培野菜や無農薬野菜のコーナーが設けられています。そこで立ち止まってそのコーナーの野菜を買い物籠に入れる女性の数は、福岡都市科学研究所の農産物消費者分類比率の正しさを物語っているようですし、また、加工食品のパッケージ裏面には原材料と食品添加物がそれぞれ重量の多い順に記載されていますが、パッケージをひっくり返す女性の数もとても少なく、その分類比率の妥当性を裏書きしているようです。

もっとも、食品添加物などまったく入っていないから必ずおいしいというわけではないのが悩ましいところで、これは、僕自身の経験ですが、添加物なしの魚の練り物や北海道産の小麦を100%使った無添加パンでひどい目にあったことがあります。控えめに言って、おいしくないのです。意地になって食べてしまいますが、再び買いたいとは思いません。こういう場合の僕は、結果としては、分類とは違った意味でわがままな消費者になっているようです。

ある施設や活動が休止や廃止に追い込まれそうになると、ないしはそういう決定が下されると急に廃止反対の声が上がることがあります。ありていに言えば、あるデパートが具合が悪くなっていくつかの支店を閉鎖するような場合、急に閉鎖反対、みんなで支援のために買い物をしようといった風がおこることがありますが、そういうのを目にすると、僕はそこには消費者としてのわがままが漂っているだけのようなちょっとしらけた気分になります。それほど大事なものなら、今までどうしてサポート(つまり、そこで売っている商品に対してお金を使うことですが)しなかったのか。

どういうものにお金を振り向けるかは難しい問題です。食費を削ってでも本を買うという若い学究もいると思いますし、食事はカップラーメンだけで給料の大半は車や輸入物スーツに消えるという若い人たちもまだ残っているかもしれません。各家庭だと、食べもののエンゲル係数をどこまで高めるか、食材の構成をどうするか、食べものの中身をどうするか、家電や車や衣類や教育や娯楽への出費と食べものへの出費をどうバランスさせるかが家計の優先順位を考える際の内容ですし、日本全体だと、農水畜産業と工業とサービス業に対する資本投資や政府支出をどういう割合で割り振るかが、今後の納得できる経済成長率や食料自給率・穀物自給率をにらんだ、優先順位論争の内容になります。

我が家の支出優先順位の1位はここ10年くらいは食べものです。食べものとは、レストランなどでのグルメ食事ではなく、家庭で満足感のあるおいしいご飯を食べるための国産の農産物・海産物やその他の食材のことです。丁寧に作った塩や酢や醤油や味噌のような基本調味料、僕の好きな、おでん種や蒲鉾や竹輪のような魚の練り物も含まれます。

日本の農業や日本の食材生産者を応援することによって日本の穀物自給率や食料自給率を上げることに僕はとても高い優先順位をつけていますが、それに個人の立場で何かをしようとすると、最もてっとり早いのは、上述の4類型だと右側の2つの類型のどちらかの消費者になることです。結局は、国産のもの、国産の付加価値のある食材に対してそれにふさわしい額のお金を、可能な範囲で、実際に払うという消費行動でそういう生産者をサポートしていくのが着実です。

□□□

人気ブログランキングへ

|

« お米の輸出 | トップページ | 日本酒再発見 »

経営とマーケティング」カテゴリの記事

食べもの」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1317632/32906165

この記事へのトラックバック一覧です: わがままな消費者:

« お米の輸出 | トップページ | 日本酒再発見 »