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2010年1月28日 (木)

お米の自由化を考えるときに、確かめておきたいこと(5)

6.その時の、それらの国からの輸出価格(日本にとっては輸入価格)はどれくらい?

まず、アメリカです。

前項で、カリフォルニア産コシヒカリのフィラデルフィアでの店頭価格は、国産コシヒカリや北海道米の札幌での店頭価格がほぼ同じということがわかりました。(ただし、南魚沼産コシヒカリのようなブランド・コシヒカリ米は日本でも別格なので比較対象外としました。)

次に考えたいのが、コメの生産技術や生産管理です。つまり、カリフォルニア産コシヒカリが、今後、国産コシヒカリや国産良食味米にたいして圧倒的な品質優位性や価格優位性を発揮する余地が、まだ残っているかどうかです。

僕は、その方面の詳細には明るくないので、消費者ないしは一般ビジネスマンとしての感想になりますが、そういう余地は少ないだろうと考えています。なぜなら、中粒種の食味改良には結構長い歴史があり、また少なくとも過去25年間(たとえば田牧米が登場したのが1988年)は、コシヒカリやアキタコマチといった短粒種の現地生産(現地化)を推進してきたからです。現地化ビジネスには日本からの資本参加があり、ということは、日本人農業技術者の参加があったということですから、食味改良や生産技術改良のための余地が、日本以上の大きさで残されているとは考えにくい。

アメリカでジャポニカ米の生産がほとんどないような状態ならジャポニカ米の生産規模拡大による価格低下ということが見込まれますが、ジャポニカ米(短粒種と中粒種)の生産量はアメリカのコメ生産量のすでに20%なので、規模拡大による価格低下ということも考えにくい気がします。高付加価値短粒種米の、生産者マージンや流通業者マージンがよほど大きい場合はそれを我慢できる比率にまで切り詰めて日本に輸出攻勢をかけるという手もありますが、その影響力がどれほどのものかはよくわかりません。

つまり、自由化になったとしても、アメリカから輸入されるカリフォルニア産コシヒカリのような良食味短粒種ジャポニカ米の日本での店頭価格は、日本の各地のコシヒカリなどの店頭価格と変わらないと思っています。しかし、日本市場に攻勢をかけるために2年間ほどは低価格戦略をとってくるかもしれません。その両方を勘案すると、アメリカからの輸入価格は、とても大雑把ですが、10,000円と15,000円の間のどこかだと推測しています。

ここで、再び、「田牧米ゴールド」「かがやき」「国宝ローズ」に戻りたいのですが、今度はカリフォルニア産コシヒカリである「田牧米ゴールド」「かがやき」と「国宝ローズ」の価格差です。

「田牧米」は「国宝」の2.4倍、「かがやき」は「国宝」の2.0倍です。

念のために、2007年7月現在のアメリカのある都市でのジャポニカ米・店頭価格(消費者価格)を見ても、「田牧米」と「かがやき」は、「国宝」のそれぞれ、2.2倍、1.6倍となっていました。倍数に若干の違いはありますが、カリフォルニア産コシヒカリは、アメリカ産ジャポニカ中粒種改良版の2倍(ないし、ブランドによってはそれ以上)と考えて差し支えないと思います。

その差が実際にはどこから来たのか、できたら専門家の分析をお願いしたいのですが、そういうわけにもいかないので、ここはマーケティングの一般論で話を進めます。

高級品と一般品の価格差とは、一般的には付加価値の差です。付加価値の差とは、洗練された商品仕様であるか一般的な商品仕様であるか、高いレベルの品質なのか一般的な品質なのか、商品に直接かかわる開発コストや部品コスト、直接労務費や直接設備費用などを含む生産コストが高いのかそれとも一般的なのか、その商品のブランド化価値が高いのか安いのか、ブランド価値にも関係しますが高マージン指向商品か低マージン設定商品か、などの差のことです。そうした差の集積が価格差を生み出し、消費者はその差に納得します。

で、僕の仮説ですが、「コシヒカリは、大規模機械農業のアメリカといえども栽培に手間ひま(人間と機械)がかかり、歩留まりが相対的に悪くて、つまり生産コストが高くて、かつブランド価値が高い(ジャポニカ米ファンにはとてもおいしい)ので生産者マージン・流通マージンも高い、そういうコメ商品」です。この仮説は「タイのコシヒカリ」を考えるときにも援用します。

次にタイです。

タイは、コメという商品の顧客向けカスタマイズが得意な国のようですし、自国米の価格維持にも配慮しています。輸出価格を高めに安定的に維持するためベトナムと協調しており、ベトナムは時々安売りに走りますが、タイはそういうことは少ないようです。

タイのこの20年ないし10年のコメ生産量の伸びは、1989年から1999年にかけての伸びが21%、1999年から2008年にかけての伸びが18%なので、二期作における乾期の収穫量を増やすといった灌漑などの生産技術が貢献しているのだと思いますが、ゆっくりとした生産量の伸びです。農地面積などの急激な変化はありません。

ここで考えたいのは、日本がコメを自由化した場合、タイがコシヒカリのようなおいしいジャポニカ米を生産し始めるとして、そういうジャポニカ米をどれほどの規模で栽培し、どれくらいの価格で日本に輸出してくるかということです。ここでは、タイが、良食味ジャポニカ米を技術的にはなんら問題なく、高級香り米(ジャスミンライス)と同じような生産コストで生産できるものと「暫定的に仮定」しますが、そうすると日本での計算上の輸入価格は6,000円弱です。

現在、タイから日本へ食用として輸出されているのは、ミニマムアクセス米の一部とエスニック料理用の高級香り米だけなのでその量はごくわずかです。

自国の生産の都合と、競合(ここではアメリカのコシヒカリ)の出方の2つが基本パラメーターになりますが、競合の価格をにらみ、日本の米価をにらみ、高めの安定した価格を維持するという自身の指向性を重視すれば、タイが、コメを60kg(1俵)当り6,000円で売るという可能性はとても低いのではないかと思います。長期なら別ですが、短期では追加生産余力も商品転換余力もなさそうです。

日本へのコメの輸出は、急に拡大し始めたハイテク製品市場を低価格商品で席巻するのとはわけが違います。輸出価格が60kgあたり10,000円だと800万トンの消費量で市場規模は1兆3300億円、それが6,000円だと途端に小さくなって8,000億円。とくには拡大する市場ではないので市場は大幅に縮小します。目的が日本のコメ産業をつぶすつもりならそのオプションもありうるでしょうが、そうなれば、水田と生産量を大幅に追加拡大してそれを既存のインディカ米輸出市場に振り向けない限り、タイはコメ生産量の40%をジャポニカ米に転換し、輸出量の90%近くを日本という1カ国に依存するというとても危うい体質になってしまいます。

さて、先ほどの暫定的な仮定とは、「タイが、良食味ジャポニカ米を技術的にはなんら問題なく、高級香り米(ジャスミンライス)と同じような生産コストで生産できるものと『暫定的に仮定』しますが、そうすると日本での計算上の輸入価格は6,000円弱です。」でした。

本当にそうでしょうか。先ほどカリフォルニア産コシヒカリに関して「コシヒカリは、大規模機械農業のアメリカといえども栽培に手間ひま(人間と機械)がかかり、歩留まりが相対的に悪くて、つまり生産コストが高くて、かつブランド価値が高い(ジャポニカ米ファンにはとてもおいしい)ので生産者マージン・流通マージンも高い、そういうコメ商品」だという仮説を述べました。その根拠は、現実の消費者価格・店頭価格の高さであり、一般ジャポニカ米との価格差です。

かつては、アメリカが世界最大のコメ輸出国でした。現在はタイが世界最大のコメ輸出国です。タイはコメ作りがとても得意そうです。しかし、タイといえども、コシヒカリのようなコメをビジネスベースで大規模に生産しようとしたら、タイは労働集約型農業、アメリカは大規模機械農業という違いがありますが、アメリカと同じような生産課題やビジネスモチベーション課題を抱えるのではないかと思います。

だから、日本への輸出を企図するとしても、アメリカの出方や日本の米価の変化や日本国民の反応を伺いながら、高級インディカ米・一般インディカ米・日本向けジャポニカ米からなるバランスの良いコメ商品ポートフォリオを維持するという構図の中での話ではないでしょうか。つまり、カリフォルニア産コシヒカリの輸出価格を参考にしたプライシングをすると思うので、「タイ産コシヒカリ」(が、それなりの規模で生産されたとしても、その)輸出価格は似たようなものになるのではないかと思っています。

(続く)

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