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2010年2月23日 (火)

食料自給率50%と60%の風景

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基本理念がよく見えない政策や基本戦略のよく見えない戦術の連鎖に対しては、「理念が明確でない、方策が行きあたりばったりで哲学がない、方向性が見えない」などといった非難が寄せられ、理念と目標があっても、目標までのプロセスや実行計画が明確でない場合には、「さて、いったいどうやるの、お手並み拝見」といった冷ややかな視線が向けられます。最初から両方そろっていればいいのだが、そうでない場合は、実行計画の整備がいささか遅れていても理念や目標を先行させたアプローチの方に僕は好感を持ちます。以下は理念目標先行型の一例です。

 『赤松広隆農相は17日、東京都内で行われたシンポジウムで講演し、3月に策定する食料・農業・農村基本計画に盛り込む食料自給率(カロリーベース)目標について、既に方針を固めている「10年後50%」に加え「20年後60%」を掲げる意向を示した。意欲的な数値目標を掲げることで、低迷している食料自給率を飛躍的に引き上げる狙いだ。』
『2005年に決めた現行計画では、10年後に当たる15年度の目標として食料自給率45%を掲げた。ただ、実際の食料自給率は横ばいを続け、08年度は41%にとどまっている。赤松農相は、国際的な食料不足が進む中では「とてもこのペースでは間に合わない」と強調。その上で「10年後には50%、20年後にはなんとか60%。少なくとも日本の食料の半分以上は自国内で賄うことができるよう、基本計画に示していきたい」と述べた。』(「e農net/日本農業新聞」より引用、掲載日:2010-02-18)

そういう基本計画が盛りこまれるであろう「平成22年版 食料・農業・農村白書」に目を通すのが今から楽しみですが、現在40~41%の食料自給率(「平成21年版 食料・農業・農村白書」では、2007年の食料自給率は40%)を50%、そして60%に高めるにはどんな根本的な、あるいは過激な方法があるのか、あるいは必要なのかを、ここでは、手段の実現可能性にはあまりこだわらずに、食べものの消費構造と食べものの生産構造を軸にして、思い描いてみたいと思います。

食べものの消費構造という場合には、人(ヒト)がどんなものを食べるかということだけでなく、家畜(牛や豚や鶏)がどんな飼料を食べるか、家畜にどんな飼料を食べさせるかということも関連してきます。

食料自給率を計算するときの食料には、コメと畜産物、油脂類(90%が大豆油や菜種油やヤシ油のような植物油)、小麦や砂糖、魚介類に野菜、大豆、果物などが含まれます。カロリーベースの食料自給率は、そこで穀類や肉類や油脂類の占める比重が高いので、われわれ人間が食べる穀物の自給率に依存するだけでなく、日本に住む家畜(牛や豚や鶏)が食べる穀物の自給率にも依存します。

現在のわれわれは畜産物(肉や卵)をよく食べますが、牛や豚や鶏のエサ(飼料)のほとんどは穀物か植物系のもので、その9割は輸入されています。輸入量はトウモロコシが抜きんでて多く、大豆の油かす、大麦と続きます。家畜用飼料の輸入が仮にストップしたら、牛や豚や鶏はあわれにも飢え死にしてしまうので、その場合は日本では畜産物が生産できません。従って、畜産物のうち国産飼料で育てられたであろう割合だけを、自給された畜産物として食料自給率にカウントしています。

以下は、いくつかの、乱暴な手段の選択肢です。

◇ ◇ ◇

【選択肢(1)】

(ヒトの)食事内容を1965年へと昔帰りさせる。

1965年は戦後の高度成長期の最中ですが、1965年の日本の食料自給率は73%だったので、当時の食生活というか当時の食べものの消費構造と農産物の生産構造にもどれば自給率は70%を超えます。つまり、肉類と油脂類(主に植物性の油)の消費量を現在のレベルの半分以下にして(40%)、その分お米をたくさん(今の1.8倍の110kg)食べるという方法です。ただし、この場合、日本の人口が1億2750万人で、コメは1400万トン必要ですが、コメの生産量は865万トン(2008年)なので、535万トン不足し、逆に、畜産物は現在の生産量でも70%近く余ります。肉類の消費量が少なくなれば、フライやから揚げや炒め物などに大量に使っている植物油の消費量も減ります。それでも植物油は足りませんが、これは、まあ、大きな問題ではありません。

僕の得意とするおおまかでおおざっぱな計算だと、1965年当時よりは畜産物を7割ほど多めに食べ(現在の65%程度の量)、1965年当時よりはご飯を2割ほど少なくしても(現在の1.5倍くらいの量)、食料自給率60%は達成できると思います。その場合でも、コメは1120万トンほど必要なので、250~260万トンは不足しますが、ゲンタン(減反)政策(コメの作付面積を減らすこと)をやめてできるだけ元のコメ生産に戻し、耕作放棄地を強引にコメ生産に回せば不足分は補えます。

【選択肢(2A)】

ヒトの食事内容はそのままで、家畜の飼料を自給、つまり国内生産する。家畜飼料の国内生産に応じた穀物の生産構造(生産品目と量と耕地)を整える。

おおざっぱにまとめたものですが、それなりに便利なので、以前にもこのブログの別記事で使った表をもう一度使います。(【註】表の表示形式を後日更新)

Revl3

上の表のひとつの意味は、日本では、コメや小麦、大豆やトウモロコシなどの穀類は、人間と家畜がほぼ半分ずつ分け合っているということ、もうひとつの意味は人と家畜の食べる穀物の75%近くが輸入されているということです。より正確な家畜用飼料の輸入量は、「平成21年版 食料・農業・農村白書」によれば、2007年は1889万トンで、その内訳は、「トウモロコシ」が1206万トンで64%、「大豆の油かす」が343万トンで18%、「大麦」が120万トンで6%、この3つで全体の88%になります。

選択肢(2A)の意図は、日本で育てられている牛と豚と鶏が食べている飼料(エサ)はその9割が輸入されているが、仮にこれが全部日本で生産されたとしたら、食料自給率にどういう影響を与えるかということです。影響が加わる主な食料自給率構成要素は、畜産物と油脂類ですが、その結果、畜産物の食料自給率貢献度は現在の2.5%から10.3%へと7.8ポイント上昇し、また油脂類における自給率貢献度は、現在の0.5%から3.7%へと3.2ポイント上昇します。その結果、食料自給率は40%から51%へと11ポイント改善し、50%の壁を突破します。

ただし、この選択肢を採用した場合、そのために新たに耕地が429万ha(ヘクタール)必要で、これは現在の日本の耕地面積が461万haなので、耕地を倍近くに増やすということです。ここでは手段の実現可能性にはあまりこだわらずに、選択肢のスケッチをしていますが、しかし、これはとても難しい、というか、不可能に近い。

(冗長な註:「大豆の油かす」が自給できるということは、「大豆の油かす」の元である「大豆そのもの」が自給できるということで、「大豆そのもの」は豆腐・油揚げ・煮豆・納豆・味噌・醤油などに使われるだけでなく、代表的な植物油である「大豆油」の製造にも使われます。大豆の消費量は「油向け」が圧倒的に多くて75%を占めますが、この、油の圧搾プロセスないし化学溶剤を使った油の抽出プロセスでのあまりものが「大豆の油かす」です。100の大豆から50少々の油かすがとれます。「大豆油」の年間消費量は55万トンで全油脂消費量の23%くらいですが、これがすべて自給できるのでこの分だけ自給率貢献度が高まります。蛇足ですが、これだけ大量の大豆の油かすができるということは、大豆生産量が日本の消費量を超えるということなので、その場合は、日本は大豆あるいは付加価値をつけた大豆油の輸出国になれます。)

【選択肢(2B)】

ヒトの食事内容はそのままで、家畜の飼料内容をコメを中心としたものへと変える。家畜の食事内容の変化に応じた穀物の生産構造(生産品目と量と耕地)を整える。

家畜飼料全部の国産化はとても難しいので、集中と選択ではありませんが、いちばん消費量の多い家畜用飼料であるトウモロコシをコメ(飼料米)で代替したらどうなるかというのがこの選択肢です。

トウモロコシは、北海道などでわずかに国内生産されていますが、国産品はスイートコーンのようなおやつ用途で、飼料としてはほぼ全量が輸入されていると考えて差し支えありません。「平成21年版白書」では2007年のトウモロコシの輸入量は1206万トン、これをコメですべて代替するにはどれくらいの量のコメが必要かが最初の問いです。トウモロコシとコメを比べると、たんぱく質や脂質は少しトウモロコシが多いのですが、エネルギーはともに100グラムあたり350kcalとほぼ同じなので、1206万トンのトウモロコシを置き換えるには1206万トンのコメが必要だと、ここでもおおまかに考えることにします。

主食用米は、866万トンが160万haの水田で作られているので、この比率をそのまま適用すると、1206万トンを追加生産するには223万haの水田が新たに必要です。現在の名目上の水田面積は239万haですが、これは上述のいわば「実質的な160万haの水田」と、減反(ゲンタン)政策で「実質的には水田ではなくなった79万haの水田」(今は、麦や大豆や野菜や飼料作物などに利用されている)の合計値です。耕作放棄地面積が39万haあるので、非実質的な水田と耕作放棄地の両方をコメ生産に振り向けると118万haが、計算上は、確保できます。でもまだ105万haが不足しています。選択肢(2A)でも述べたように、現在の日本の耕地面積が461万ヘクタールなので、その不足分の105万haを手に入れるためにはあらたに23%の耕地(水田)を作る(開拓する、作る、元に戻す)必要がありますが、579万ha(461万ha+105万ha)とは、1960年代後半に日本に存在した耕地面積とほぼ同じです。かつて存在した光景ですから、とても困難ですが、不可能ではないかもしれません。

しかし、仮に105万haが確保でき、トウモロコシがコメで完全に代替できたとしても、これによる食料自給率貢献度は5ポイントで、つまり食料自給率は45%にとどまります。苦労のわりには効果が低いという印象の選択肢です。

◇ ◇ ◇

乱暴な選択肢を思い描いてきましたが、われわれの食事内容をコメを増やすような方向で変化させ、同時に肉類と油脂類を減らしていくのが、食料自給率60%という状況を作り出すには、どうも最も近道のようです。

肉とパンと油っぽい料理が好きな方にはうんざりする「近道」ですし、「消費者の食事内容や消費構造には口を出すな」というのももっともな意見ですが、その場合は、食べもの需給の逼迫には目を閉じて食料自給率は40%でよしとするか、農地の大幅な追加のために国内ランドラッシュとでも呼ぶのがふさわしい荒っぽい手段をよしとするかになりそうです。

朝食や昼食にご飯を食べる回数を増やす。従来のパンや麺類だけでなく、米粉入りのパンや麺類も楽しむ。肉類の食事や油脂を多く使う料理は少し控える。少子高齢化は産業一般の経済成長には不利ですが、中年以上の人口が多いということは、外部からの強制力が少なくても、そうした食事内容の変更には有利に働きます。コメ(玄米や白米)には消費税をかけない、コメには自給率エコポイントをつけるといった方策もいいかもしれません。

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