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2010年3月16日 (火)

『2020年度に50%』

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食料自給率と穀物自給率は、より正確を期すと、「ヒトの食料自給率」と「ヒトと家畜の穀物自給率」は、「ヒトと家畜の穀物自給率」が高まれば、家畜の肉(牛肉・豚肉・鶏肉)と卵の国内自給率が高まるので、「ヒトの食料自給率」が高まるという関係において、相互に関連しています。ヒトと家畜の主食は、米や小麦やとうもろこしや大豆で(牛や鶏は牧草や雑草も食べますが)、それらをお互いに分け合って食べながら、人は同時に家畜そのもの(肉)や家畜の産出物(卵や牛乳)を食べるという構図が続く限りは、「ヒトの食料自給率」は「ヒトと家畜の穀物自給率」に依存します。(「ヒト」とは日本で暮らしている日本人のことです。)

蛇足的な説明ですが、僕たち日本人の食べものが熱量基準でどれほど自給できているかという割合を示すのが「カロリーベースの食料自給率」というパラメータです。「ああ、おなかがすいた」とか「腹が減って動けない」とか、「朝から何も食べていないので飢え死にしそうだ」とかそういう僕たちの素朴な(あるいは基本的な)食べものに対する欲求を測るには他(たとえば、生産額で測った食料自給率)よりも適したパラメータだと思います。また、ある国に住んでいる人間および家畜の食べる穀物が、その国でどれほど自給されているかを表すのが(家畜用飼料を含む)穀物自給率です。

カロリーベースの食料自給率は、この数十年でとても欧米化され、冷蔵庫に不要食材や不要食品のあふれているような場面を含む日本の食料事情の総体を見るためには、結果としては、よく考えられた指標だと僕は考えており、穀物自給率と食料自給率の2つの指標を同時に見ることによって、僕たちは日本の食の状況をより客観的に把握できると思われます。

さて、先週、農林水産省が、2020年度の食料自給率目標を発表しましたが(農水省ホームページ)、カロリーベースで50%と、現行計画の45%を上回る意欲的な数値目標となっています。ただ、今回の資料では、2020年度の50%が、21世紀前半のどこかの時点で食料自給率60%を実現することを予定していて50%はその通過点なのか、それとも、50%が達成できたらひとまず満足で60%という次の目標は考慮の外側なのかがよく見えません。60%という地点から眺めた50%は、50%をゴールとする場合と違って、食生活や農耕地面積に関して相当にドラスティックな枠組みを設定した上での途中経過だからです。

先月なかばの僕のブログ記事(「食料自給率50%と60%の風景」)は、カロリーベースの食料自給率を高めるための選択肢を、おおまかでおおざっぱですが、意識的に大きくした振り幅のなかで考えたものです。選択肢を大きな振り幅で前もって想像しておくと、それより温和な提案が出てきたときには、その「現実的な解」の指向性や「現実的な解」のもとになっている考え方が理解しやすくなります。

振り幅の大きな選択肢とは要は以下のようなものです。

選択肢A.「ヒトの食事内容」を1965年当時に戻すと、当時の食料自給率は73%だったので、ちょっとした振れがあっても自給率70%が達成できる。しかし、そこまでの距離はさすがに遠いので、肉の摂取量を現在のレベルから35%減らし、コメを食べる量を今よりも50%増やせば、食料自給率60%は達成できそうである。

選択肢B.(「ヒトの食事内容」は変えないで、つまり反論が多そうだからそれには手をつけないで)「家畜の食べもの(飼料)」を考える。家畜の食べもの(飼料)を輸入から国内生産に「すべて」切り替えるとどう自給率上昇に貢献するか。そうすれば食料自給率50%は達成できるが、このためには農耕地面積を今の1.9倍以上にしないといけないのでこれはほぼ不可能である。では次に、選択と集中方式で、家畜用(濃厚)飼料でいちばん消費量の多いトウモロコシをコメ(飼料用米)で代替したらどうなるか。農耕地拡大に関して頑張れば、つまり1960年代後半の農耕地面積まで耕地を増やせたら飼料米供給は何とかなるかもしれないが、その結果は食料自給率が45%であり、効果は高くない。

農林水産省の「2020年に50%」に戻ります。2020年で食料自給率50%というビジョンを支える戦略というか、戦略の方向は、「生産面」と「消費面」の両面から考察されていますが、「小麦の二毛作の飛躍的拡大、未利用地の米粉用米・飼料用米、大豆等の作付の拡大のほか、技術の開発普及、農地の確保等を推進」という「生産面」については、それが実現可能という前提で話を進めます。(数字の変化は、2008年度実績から2020年度目標への12年間の変化です。)

(1) コメを増産し、人間にも家畜にも、もっとコメを食べてもらう。(ヒトの食べものに使う米粉用のコメを現在の1万トンから50万トンに増産。同時に、家畜飼料用のコメを1万トンから70万トンに増産。)

(2) コメ以外に、日本人の好きな各種食べものに使われる(穀類の)小麦と(豆類の)大豆を大幅増産する。(小麦は88万トンから180万トンへと倍増。大豆も26万トンから60万トンに2.3倍増。)

(3) 家畜用の飼料のうち、粗飼料と呼ばれるもの(乾草や牧草や稲ワラなど)の割合を増やしながら、粗飼料の自給率を100%にする。(435万トンから527万トンに増産。)

上記をもっと細かく僕の方言も交えて敷衍(ふえん)すると、それぞれ以下のようになります。なお、それぞれの増産がどれくらい食料自給率を上昇させるのか、その貢献度を簡単に計算してみましたが、現在の食べものの消費パターン・消費行動(その中には食べ残しや廃棄食材が含まれます)を前提にした計算です。

(1) まずコメについてです。コメの生産量は2008年度が882万トンで2020年が975万トン、12年間で93万トン、10.5%の増産です。93万トンの増加分は米粉用米の増産と飼料用米の増産の結果です。(明示されていませんが、93万トンとは両者の合計から主食米のわずかな減少分を引いたものだと思われます。)

目標説明の中に、「朝ごはんをきちんと食べましょう」(原文は『1700万人の朝食欠食の改善』)、「脂っぽい食事は控えましょう」(原文は『脂質の摂取抑制』)という表現は見られますが、「肉を減らせ、コメを食え、とくに子育ての終わった中年以上にはそうしていただきたい」といった基本的な(それゆえ、最も影響力の大きい)食事内容の変更は、外野から大きな騒音が出ないように配慮したためか、提案されていません。

米粉用米を増産するとは、ヒトには、米粉という食材がうまく使われたレシピを通してお米をもっと食べてもらう。米粉の入ったパンや米粉が主体のパン、米粉の入ったグラタンとか米粉の入ったスパゲティーとか、今までは小麦粉が主人公だった日常食材に米粉を取り入れた新しい味と食感のパンやパスタを通してコメの需要と消費を高めてもらうということです。最近は、米粉の代わりに炊いたご飯をホームベーカリーで混ぜ合わせる種類の小麦粉パンも登場しています。あんパンやカレーパンなど日本風にローカライズされたパンが好きな日本人なので、新しい種類のパンも味さえよければ簡単に消化してしまいそうな気もしています。米粉が年間50万トンレベルまでうまく利用されたら、食料自給率は1.3~1.4ポイント(%)上昇します。

農耕地面積は461万haから461万haなので、農耕地そのものの拡大は考えずに、休耕地の再利用や、二毛作・裏作(コメと麦、コメと大豆など)等の既存農耕地の有効活用によって耕地利用率を92%から108%まで高めた結果の増産を計画しているようです。(これも生産面の話なので、ここでは実現が可能ということにしておきます。)

(2) よく指摘されることですが、現在の小麦の自給率は13~14%と低く、大豆の自給率はもっと低くて5~6%という水準です。

小麦は、種類(強力粉、中力粉、薄力粉)によって用途が違いますが、ひとくくりにすると、パン、ラーメンやパスタ、うどんやそうめん、そして女性の好きなケーキなどに使われるので、国内自給率が高ければ、そのまま食料自給率も高くなります。

大豆は、植物油に大量に使われていますが、伝統の味という点では小麦よりもはるかに日本人には重要な穀物で、これがないと豆腐も味噌・醤油も納豆もお手上げです。遺伝子組み換え大豆が蔓延している状況で、そうでない普通の国産大豆の割合が増えることは素直に喜ばしいことです。

小麦が88万トンから180万トンへと倍増し、大豆も26万トンから60万トンに2.3倍増すれば、小麦の自給率は13~14%から28~29%へと上昇、大豆のそれは5~6%から14~15%へと上昇します。両方をあわせると、食料自給率は2.8~2.9%くらい上昇します。(小麦の貢献度が1.8~1.9%、大豆が1%)

この結果、コメの増産計画も組み込んで穀物自給率を計算してみると、現在の27~28%から33~34%に上昇しますが、「OECD諸国等37カ国の穀物自給率」(2003年)と比べてみると、順位はあいかわらず最後の方です。穀物自給率が100%を超えている国の数が11カ国、95%以上の国が16カ国という状況なので、日本は2003年当時で34番目で、他国の穀物自給率に変化がなければ、2020年の数字でも33番目ということになります。(ついでに、豆類の大豆まで入れて拡大穀物(「穀物+豆類」)自給率を計算してみましたが、これは30~31%という低い水準です。)

(3) 家畜用の飼料は、乾草や牧草や稲ワラなどの粗飼料と呼ばれるものと、トウモロコシや大麦やコメや大豆油粕(かす)のような濃厚飼料と呼ばれるものがあり、その割合は濃厚飼料が78%で、濃厚飼料の90%は輸入されています。22%を占める粗飼料の自給率は80%ですが、家畜にとってもケンコー食品である粗飼料の割合を増やしながら同時に粗飼料自給率を100%にするという方向なので、その結果、家畜用飼料の自給率は25%から38%へと上昇します。この上昇によって、食料自給率は1.2~1.3ポイント(%)改善します。

食料自給率の上昇と戦略(方向)との関係をここで整理すると、

* 米粉(の増産と消費)による効果が、1.3~1.4%
* 小麦と大豆(の増産と消費)による効果が、2.8~2.9%
* 家畜飼料(の増産と消費)による効果が、1.2~1.3%
* 合計で5.3~5.6%

となり、現在を40%とすると、食料自給率は45.3~45.6%、41%としても46.3~46.6%にとどまります。従って50%をめざすには、「余計なお世話」の領域に踏み込む必要がありそうです。「余計なお世話」の領域に踏み込むとは、温和な書き方をすると、以下(『・・』)のようなことです。(『・・』は農林水産省の「食料自給率目標」の「消費面」についての記述をそのまま引用)

『消費面は、1700万人の朝食欠食の改善、脂質の摂取抑制、国産小麦・米粉・大豆等の潜在的需要の掘り起こし等を進め、国産農産物が選択される環境の形成を推進』

こうした方向に異論はないので、また僕の方言を交えて上記の引用部分を敷衍してみると次のようになると思われます。

とても直截的で簡明な解釈をすると、骨子は「肉を減らせ、もっとコメを食え、とくに子育ての終わった中年以上にはそうしてもらいたい」ということですが(中年以上云々は勇み足かもしれませんので、それはさておき)、朝ごはんに関して少し饒舌な解釈をすると、「朝ごはんを食べていない人が1700万人もいるのでその人たちにできるだけご飯(おコメ)中心の和風朝ごはんを食べていただきたい。パンが好みの方は、米粉入りのパンを選択するようお願いしたい。自分で朝ごはんを準備する時間がないので外食をする方たちにはできるだけ和風朝ごはん定食を食べてもらいたい。和定食といってもおかずはまずほとんどが輸入物だが、ご飯は国産なのでその分だけは自給率が高まる。ファーストフード店でハンバーガーセットなどの小麦と肉と油脂が中心になるものはできるだけ控えてもらいたい。」となります。そして「朝ごはんに限らず、食事メニューから肉やから揚げやフライなどの脂っぽいものを減らして、パンもできるだけ米粉パン、米粉の混じったパンを食べるようにしてください。」と「余計なお世話」は続くのでしょう。

いろいろとモノの本を調べてみると、各家庭の冷蔵庫には廃棄処分を待つだけの食材や加工食品がたくさん眠っているようです(「冷蔵庫で食品を腐らす日本人」など)。料理関係のテレビ番組で一般家庭の冷蔵庫の扉を開けて中を確かめるという瞬間がありますが、冷蔵庫の中は「モノの本」の記述とほとんど一致します。つまり、不良在庫のヤマとは言わないまでも、それなりの量の不良在庫が冷蔵庫の中でゴミ収集日を待っています。

大きな穴を掘り、またそこを掘り返した土で埋めるという作業も、それが誰かが発注し、他の誰かが請け負う経済行為なら、経済を成長させGDPを増大させます。同様に、食べない食材や食品を冷蔵庫で腐らせるという行為も経済を成長させGDPを増大させますが、食料自給率という観点では、冷蔵庫の不良在庫がなくなればそれだけ食料自給率が改善します。同様に、たとえば賞味時間切れで毎日廃棄処分になっているコンビニ弁当の数が少なくなれば、その分食料自給率は改善します。

現在の食料自給率40~41%を50%にするということは、コメや小麦や大豆や家畜飼料の生産面での拡大とそれにともなう需要・消費の創出だけではどうも不十分で、僕たちの食事内容まで立ち入らないと難しいかもしれません。

同時に、「1700万人の朝ごはん」ではありませんが、この全国的な波をうまく捉える北海道の加工食品が出てこないかなと期待しています。

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