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2010年3月26日 (金)

トマトとチューリップ

近頃はいろいろな大きさと色と味のトマトがありとてもにぎやかです。色だけでも赤、桃色、橙(だいだい)、黄色と結構楽しい。生でサラダ、生で丸かじりというのもいいのですが、熱を加えた生トマトやドライトマトを使った料理ははずせません。トマトピューレを使ったトマト味のピリ辛スパゲティーは休日のお昼の定番メニューのひとつです。昨年の秋に、札幌の中心部で開かれていた食品フェアのような催し物会場で、べらぼうにおいしい、そしてべらぼうに値段の高い北海道は士別(しべつ)産のトマトジュースに出会い、その場で1リットル瓶を1本だけ買い求め配偶者ときっちりと2分の1ずつ分け合いましたが、その後の売れ行きがどうなったのか気にかかります。

日本の家庭が2009年に一番お金を使った「魚」と「野菜」と「果物」の上位4~5位はそれぞれ以下の通りです(総務省家計調査、順位は左側ほど高い)が、皆さん、野菜ではトマトが大好きなようです。

◇ 魚:   まぐろ、さけ、えび、ぶり
◇ 野菜:  トマト、きゅうり、たまねぎ、ねぎ、じゃがいも
◇ 果物:  バナナ、りんご、みかん、いちご

トマトといえば、コンピュータ化された天井の高い巨大ガラスハウスでの土なし養液栽培とその生産性の高さでよく引き合いに出されるのがオランダです。トマトは、雨の少ない南米の山岳地帯(ペルー)生まれなのでトマトの身になってみるとその環境には違和感を抱きそうですが、太陽の光と比較的ひんやりした気候が大好きな野菜なので、品種改良も含んだ試行錯誤の結果、オランダは今の生産方式にたどりついたのでしょう。

店頭でもお取り寄せでも確認できますが、水分摂取が抑制された出来のいい土壌栽培のトマトは、実の表面がよくしまって、実の表面や茎の部分には繊毛みたいなものがあり、これは水分を空気中からも懸命に吸収しようとしたためのようです。

オランダの農産物生産(畜産物を含む)の特徴は、僕のざっくりとした解釈だと、以下のようになります。

(1) 牛乳や鶏卵の生産金額が高い(それぞれ国内生産金額の1位と3位)。

(2) マッシュルームが代表的な高付加価値野菜だが、トマトやリンゴやパプリカなど付加価値野菜の生産が得意。

(3) 農産物の輸出国である(輸出額が輸入額の1.7倍)。ちなみに、日本は農産物のほぼ完全輸入国(輸入ばかりで輸出がほとんどないという意味)。(2006年)

(4) しかし、穀物自給率は非常に低くて24.5%、日本や韓国の穀物自給率が27~28%だが、それよりも低い(2003年)。つまり、小麦がないので自前の原料でパンはつくれないし、家畜飼料も海外依存。

(5) ただし、ジャガイモの生産金額は大きい(牛乳に続いて2位)ので、主食にジャガイモを食べ、牛乳を飲み、卵とマッシュルームとトマトの料理を作ってリンゴをかじれば、とりあえずパン(小麦)がなくてもヒト(オランダ人)は生きていける。しかし、穀物輸入に問題が生じたら、牧草はあるかもしれないがそれ以外の穀物飼料はないので、牛や鶏はおなかをすかし、牛乳と卵の生産が影響を受ける。

トマトに戻ります。国全体としてのトマトの生産量は日本の方がすこし多くて、日本の年間生産量は75万300トン、一方、オランダの生産量は68万5000トンです(FAOSTAT 、2007年)。しかし、単位面積あたりのトマトの収穫量は逆にオランダが圧倒的に多くて、日本が10a(10アール、縦横が約32メートル四方の土地)あたり年間12トン(収穫量の多い県は20トン)であるのに対して、オランダは60トン(実験レベルでは100トン)という高い生産性を実現しています。生産性の差は、オランダのトマト栽培の方法が「コンピュータ化された天井の高い巨大ガラスハウスでの土を使わない養液栽培と、そういう環境適応特性を持った品種開発」であるのに対して、日本の方式が「水や肥料を抑制した、つまりもともとのトマトの性格を生かした土での栽培(土耕栽培)と品種改良」であることから来ているようです。(参考までに、日本の代表的な基礎農産物である米は10aあたりの収穫量が530kg(0.53トン)、そして小麦は同じく420kg(0.42トン)です。)

高付加価値農産物は、高付加価値部分だけをずっと延長していくと投機的な農産物に行き着きます。ちょっと以前の(しかしまだ長い尾を引いている)世界金融デリバティブ投機ではありませんが、17世紀前半のオランダには4年間ほど「チューリップ」(花のチューリップのことです)投機が発生し、特別な種類だと球根1個の値段が(現在の価格に換算すると)4000万円くらいにまで達したそうです。バブルな投機なので結局しぼんでしまったのですが、マッシュルームやトマトといったオランダの高付加価値農産物のことを聞くとこの話を思い出し、オランダ人は農産物に関してそういう傾向のDNAをもっているのではないかとちらっと想像したりもします。

こういうたとえ方は無理があるのかもしれませんが、露地ものの好きな僕には、オランダ方式のトマトは品種改良された結果の「メタボ」なトマトと映ります。

鈴木大拙の著作のひとつに「日本的霊性」があります。鈴木大拙のいう日本的霊性は、もともと日本に存在した情念的な霊性が、鎌倉時代以降に浄土系思想と禅を媒介として深まったもので、農民や武士と「土」との接触がその基礎となっているといった内容を含みますが、そうした日本的霊性を引き継いでいるであろう僕たちには「土」を好むDNAが潜んでいるのかもしれません。

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