« とても甘い梅干し | トップページ | 有機中濃ソース »

2010年5月18日 (火)

農業保護率指標について

交渉を有利に進める重要な要素のひとつがルール作りですが、国際交渉の場合、自国に都合のよいルールを設定できたら、なかば勝ったようなものです。僕たちに身近なところではスポーツの世界でそういうことがしばしば起こりますし、ITの世界でよく見られるデファクトスタンダード(シェアの大きさによる実質的な標準化)も、いわば、その親類です。

多くの人にとって心地よい表層の動きの底で別の実利的な活動が進行することがよくあります。あるいは別の実利的な活動を推進するための手段として表層のもっともらしい動きを作り出しているのかもしれません。たとえば、温暖化抑制・二酸化炭素削減、クリーンなエネルギーという動きの底に原子力発電ビジネス関連の利害が当初から潜んでいたり、核兵器縮減という大向こうをうならす演説やそれに関連した動きや交渉の実質的な狙いが、核超大国への核兵器の集中(これを現代版の「刀狩り」と呼んでもいいと思いますが)と古くなった不良核兵器在庫の処分であったりします。

農業保護率(PSE%: Agricultural Producer Support Estimate %、そのまま訳せば農産物生産者への支援評価額の比率)というOECDの指標があります。PSEは「農産物の関税や管理価格によってできる内外の農産物価格差に生産量を乗じたもの」と「政府の補助金等の財政支持額」を「合計」したもので、PSE%はその国のPSEをその国の農業総生産額で割ったものです。こういう指標ができた背景は、PSE%の定義に現われていますが、内外の農産物価格差等は、消費者や納税者が農産物生産者に対して余分に払っている値段なので、少ない方がよいというものです。そしてそこからはそういう方向の国際政治圧力が普通は生まれます。

OECD FACTBOOK 2009によれば、2007年のPSE%は、低い国だとオーストラリアが5.5%で米国が9.9%、高い国はノルウェイが53.3%でスイスが49.8%、韓国が59.8%で日本が45.5%、まん中くらいの国(と地域)はカナダやEUで、カナダが15.4%でEU27ヶ国平均が25.7%。OECD平均は22.5%。ちなみにOECDに属していない中国は8.6%、ブラジルが5.0%。

つまり、農産物輸出国の農業保護率は低く、農産物輸入国の農業保護率は高いという関係になっています。農産物輸入国ということは、農産物輸入が農産物輸出よりも多くて消費農産物の無視できない割合を輸入にたよっているということなので、別の言葉を使えば食料自給率や穀物自給率の低い国ということになります。対象が食べものという生活に直結する農産物なのでそういう相関関係でいいと僕は思っていますが、農産物輸出国であるEUの比率が妙に高いのが気になりますし、それ以外の国の中にも、政府の補助金等の財政支持額が意識的に複雑な制度の運用で透明でない国もあり、そういう国ではPSE% が実態よりも低くなっているようです。

それから、僕は日本の45.5%という数字が高く出すぎているのではないかと思っています。日本の場合、農産物の「関税や管理価格によってできる内外価格差」(ある農産物の国内価格と、それと同等あるいは同質的な外国の農産物の価格との差)がPSE%の90%を占めるとされていますが、内外価格差は別に関税や管理価格だけでできるわけではありません。それ以外の要因も働きます。

無農薬栽培の農産物はそうでない(慣行栽培の)農産物より高いのはあたりまえだし、おいしい野菜は普通の味の野菜より値段が高いのもあたりまえ、魚沼産のコシヒカリが一般のその他の地域の一般国内米よりも高いのも当然と認識されています。この価格差を付加価値に対するプレミアム価格といいますが、そういうものを好む消費者は躊躇なく追加分の価格(プレミアム価格)を支払います。それと同じことが国産農産物と輸入農産物にも当てはまります。

味がよく安全・安心な国産農産物に対して50%や100%のプレミアム価格を支払う消費者は珍しくありません。100円の輸入品に対して150円~200円の国産農産物、250円の輸入品に対して375円~500円の国内物。しかし、すべての国産農産物がそういうものでもないし、またすべての日本の消費者がそういう消費行動をとるわけでもありません。ここでは、控えめな数字を援用します。

「福岡市民の食生活に関するアンケート」(福岡都市科学研究所、2003年)における「農産物消費者の4分類」を付加価値に対してお金を払うかどうかという切り口で2分すると、

【農産物の付加価値に対してお金を払う層】
【A】 農業の価値がわかり、その付加価値に対してお金を支払う消費者層
【B】 食の安全性に強い関心を持ち、安全性に対してお金を支払う消費者層

【農産物の付加価値にはお金を払わない層】
【C】食べ物に関する意識と行動が分離している消費者層、あるいは実際には価格以外は無関心な消費者層(アンケート調査などでは「食の安全が一番」「地産地消が大切」と答えるが、実際の消費行動ではスーパーの外国産特売品に飛びつく層)
【D】食に対してまったく無関心な消費者層

となり【A】と【B】の比率がそれぞれ5.4%と16.5%で合計21.9%なので、21.9%の消費者は、農産物の付加価値によってできた内外価格差には喜んでお金を払う、つまりこの価格差は関税や管理価格とは無関係と考えると、45.5%の90%(内外価格差影響分)である40.95%を21.9%分割り引いて考えた方が適正数字だとことになります。40.95%*0.219は8.97%、それを45.5%から引くと36.5%。9ポイント分、日本の農業保護率は低くなり、それなりにEUに接近します。OECDはこういうパラメーターも国別に取り入れたらどうかと思いますが、統計に恣意が働く世界でもあるので難しいかもしれません。

人気ブログランキングへ

|

« とても甘い梅干し | トップページ | 有機中濃ソース »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

農産物」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1317632/34736670

この記事へのトラックバック一覧です: 農業保護率指標について:

« とても甘い梅干し | トップページ | 有機中濃ソース »