2合と2kg (その2)

次に調理者への利便性ですが、パッケージングの話から始めます。
仮にお米5kg入り袋を基準にすると、10kg袋は値段が割安に、一方2kg袋は割高になっており、その背景は数量割引・重量割引という考え方ですが、それに小分けパッケージングには追加の手間や経費がかかるという供給側と購入側が共有している世間常識が加わり、お菓子(大袋入りと小袋入りの柿の種)でもお酒(一升瓶と四合瓶の日本酒)でもカット野菜(1個と、半分や4分の1にカットしたカボチャや白菜)でも魚(丸物と切り身パックのヒラメ)、まあ、たいていの商品はこのルールで価格付けされています。これをここではパッケージ係数と呼びます。
パッケージ係数は商品や国・地域によっても違いますが、僕の近場のスーパーマーケットのお米の店頭価格を例にとると、10kg袋は5kg袋よりも1.5%から5%程度割安になっており、2kg袋は5kg袋より10%から20%割高になっており、またそのお米のブランド力が強いほどパッケージ係数は低くなっています。つまりブランド米はいっぱい買っても余り値引きされません。
さて、お米はどうもパスタや麺類に比べてハードルの高い食材のようです。お米は炊いて食べることになりますが、その重要な準備作業として「米を研ぐ」という工程があります。結婚しているかどうかにかかわりなく働く女性や忙しい独身男性はこの工程にかける時間がもったいないと感じているかもしれませんし、女性の場合は手入れの行き届いた爪を傷つけたくないという気持ちが強く働くかもしれません。そういう場合には「無洗米」という手があり、これは通常の白米よりも値段が4~5%高くなりますが、研ぐ必要がないお米なので結構な時間節約になりますし、お米を炊くという行為にともなう心理的なハードルも低下します。以前よりは、各銘柄の無洗米パッケージが売り場でも目につくので消費者の人気が高いのでしょう。これでお米需要の幾分かは確実に喚起されます。
そして、それと並んで心理的なハードルが高いのはお米のパッケージング単位です。つまり「2合と2kg」の混在です。わかりやすくいえば、容積と重量という違った尺度が同一場面で同居していることによって調理者が感じる不便と不都合です。
炊飯器にせよ料理解説本にせよ、あるいはお櫃(おひつ)もそうだし、ご飯に関する日常会話もそうですが、ご飯の調理単位は「合」が標準です。「今晩はご飯を3合炊きましょう」だし、炊飯器の目盛りも1合、2合・・・と、「合」で目印がつけられています。しかし、売っているお米はなぜかkg単位で、売り場によく並んでいるのは「2kg袋」「5kg袋」そしてしっかりと重い「10kg袋」です。
さて、蛇足ですが、お米1合は180ccで、1合の重さは150gです。
お米1俵は60kg。お米1俵は4斗(と)、1斗は10升、1升は10合(1升瓶には10合のお酒が入る)なので、お米1俵は400合になります。60kgは60,000gなので、これを400合で割ると、1合が150gと計算できます。お米は農産物なので若干の誤差はありますが、そのあたりは気にしても意味がありません。それから、一升は、典型的な大きさのペットボトルが1,500ccですが、それより一回り大きい1,800ccで、1合はその10分の1なので180ccです。
2kg袋か5kg袋を買ってきてそこから2合のお米を用意する場合は、炊飯器のおまけについてくる1合用の計量カッブを使ったらいいのですが、働く女性や独身男性には不便この上ない。なぜなら、代替品・競合品であるところのスパゲティーや乾麺などは100g単位で小分けされているものも多く、1人分は100gなので2人分だと2束を取り出せば済むので便利だからです。ゆでうどんや生ラーメンも1人前単位でパックになっているか、あるいは3人分パックといった形でまとめられており、忙しい調理者としての消費者にはわかりやすい商品マーケティングが行われています。
ご飯という調理の世界が「合」を基準に動いているのだから、「1合ごとに小分けした小袋が20個入った20合パック」(重量換算すれば3kg)やその2倍サイズの40合パック(1合の小袋が40個:重さは6kg)やその反対の小ぶりな10合パック(1合の小袋が10個:重さは1.5kg)があれば、「ひと口サイズ、食べ切りサイズ」を好む消費の流れとも適合的でとても便利なのに、お米の生産者やお米の流通業者は手を抜いているのか、ぼんやりしているのか、感受性が低いのか、お米の売れ行きが芳(かんば)しくないと不満を述べるのはいいとしても、お米需要拡大の努力を十全にはしていないように僕には思われます。
お米の消費を拡大する際の課題のひとつは、自宅で炊いたご飯が好きな消費者層にもっとお米を食べてもらうことではなく、「ご飯は時間がかかって面倒だから」と炊飯に高い心理的なハードルを感じている人たちに気軽にお米を食べてもらうことです。米粉を活用した新しい食材や食品の開発もお米の需要喚起には不可欠な方策なのですが、ご飯を炊くという基本的な場面での需要喚起も重要で、そこでは「無洗米」と「1合&20合パック」の組み合わせが活躍するかもしれません。
(「2合と2kg」の終わり)
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