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2010年6月 8日 (火)

ブランドを作る、我慢する

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会社そのものをブランドにするのか、商品をブランドにするのか、地域と生産物の組み合わせをブランドにするのか、いくつかの方法がありますが、どの方向をたどるにせよ、ブランド価値を構築しているその途中では決して妥協をしてはいけないというのが一応の戦略的定石です。一応といったのは、ものごとに例外は必ずあるので、途中で妥協してもいい結果を残せる場合があるかもしれないとも思うからです。ブランド価値の中身は一律ではありませんが、企業や商品や地域が長い時間をかけて獲得し、その結果消費者が追加的にお金を支払ってもよいと思う「品質・革新的な技術・味・洗練された高級感」などに支えられています。

北海道に「ゆめぴりか」というブランド構築中のお米の品種があります。1年ほど前に北海道大学が札幌と東京で行った7品種の「食味試験」(下図)では新潟や茨城の「コシヒカリ」を押さえてとてもいい成績を収めています。しかし、2009年(平成21年)産の「ゆめぴりか」は夏の長雨などの悪い気象条件のせいで「ゆめぴりか品質基準」をクリアした「ゆめぴりか」の量は当初予定の6%で、商品不足のためにブランド構築活動がほとんど前に進みませんでした。ブランド構築の定石は、途中で妥協しないこと、つまり、目標品質の商品がないならそれが準備できるまで我慢するというものですが、品質仕様に近いけれどそれに達しないレベルのお米の売上収益を生産者側で求めたのか、他の北海道ブランド米を20%混ぜた「ゆめぴりかブレンド米」を、相手方のブランド米と同じ程度の値段で、つまり純正よりも25%~28%ほど安い値段で5ヶ月ほど前から発売しています。販売地域は北海道に限定しているので、当事者にとっては最小限の妥協ということなのでしょう。

_2008

ソース: 北海道大学 大学院 農学研究院 食品加工工学研究室

食味試験の総合評価(2008年産米)
2008年産米:7点6品種,生産地:5道県
食味試験:
札幌6回東京6回実施
延べパネル人数:659名 各試料当りパネル人数:659名
基準米:ほしのゆめ(北海道旭川市)

品質仕様を満足する商品の量は今年の生産量の約10%、残りは仕様範囲の外側です。外側にあるものを、少し外れたものと大きく外れたものに分け、少し外れたものを当該ブランドのついたブレンド米として売り出したわけです。少し外れたものの量は、仕様を満たした量の4倍、他の種類を20%混ぜているので、商品量としては5倍になります。

「ゆめぴりかブレンド米」の最近の様子を見に、別々の系統のスーパー3店に行ってみました。ある店では、陳列場所が陳列棚の端に、つまりお店がプロモーション中であることを消費者に積極的に伝えたい種類の商品を置く場所に、それもレジに近い側の端に、並べてありました。20袋ほどが積まれており、しかし価格設定は従来と同じ。別の2店では高級品でもなく特売品でもない一般的な「Me Too商品」の扱いで、棚の中段辺りに並べられています。これだけでは全体的な状況はよくわかりません。

売り出し予定量は「ゆめぴりかブレンド米」としては5,000トンだそうです。つまり少し仕様はずれの「ゆめぴりか」が4,000トンと他の北海道ブランド米が1,000トンで5,000トン。Kg換算だと5,000,000kgです。2009年の1世帯あたりのコメ年間購入量は全国平均で85.1kg(外食経由や加工米経由の米消費を除く)なので、予定数量が全部売り切れると考え、また「ゆめぴりかブレンド米」を購入する家庭の平均像を「半分は今まで慣れ親しんだ種類のお米を食べ、残りの半分は『ゆめぴりかブレンド米』をたべる」と想定すると、このお米が今年(平成21年)は117,509世帯に行きわたります。北海道の世帯数は261万8,005世帯(平成20年3月31日 住民基本台帳)なので、北海道の家庭の4.5%です。想定をもっとゆるやかなものにすると、つまり、「ゆめぴりかブレンド米」は本物でないのでいくぶん売れ残ると考え、同時に購入候補世帯を「ときどき食べる」「好奇心から1~2度買って食べてみる」までふくらませると、北海道の10%くらいの家庭が「ゆめぴりかブレンド米」を味わう機会を持つことになります。

ブレンド米が今までどれだけ売れたのか、あと数ヶ月でどれだけ売れるのか具体的なことはわかりませんが、平成22年の終わりに本物がたくさん登場したときに、「去年のは怪我をしていたゆめぴりか、今年のは元気な本物」という風に贔屓(ひいき)の野球選手を応援し続ける感じで応援してくれるのかどうか。どうもそういう北海道の人たちの善意を潜在意識の底で期待して、ブランド構築と現金収入のとても危ういバランス状態の上で立っているのが今の「ゆめぴりかブレンド米」の販売だと僕には映ります。これを、北海道の外側の移り気で眼の超えた、あるいは消費行動に擦(す)れた心理傾向の強い消費地でやったら瞬間的にブランド構築は頓挫してしまうでしょう。

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