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2010年6月17日 (木)

古くて新しい農業経済の本(その1)

35年前に出版された本をそれだけを理由に古いといってもいいのか自信がありませんが、ともかく今は古本屋さん以外では売っていないようなので、古いとします。そして内容は新しい。表現や用語やデータの一部を今のものに置き換えると、先月出版された本だといっても通りそうです。

コンピュータ関係の本だと35年前のものはおそらく本棚の中の記念物(ただし、なにかの具合で参照する場合もある)ですが、形而上学の分野だと35年前というのは僕のような読者には、ほとんど現在と同じ、ということになります。

ところで、この35年前の「日本農業の再発見-歴史と風土から」(飯沼二郎著)は農業経済学と風土論を併せ持ったような内容の本ですが、経済学の分野では、不況のたびに登場する75年前のケインズの有効需要はいうに及ばず、200年ほど前のマルサスの人口論やリカードの比較生産費説も食糧問題や農業問題が議論される時には今でもしばしば登場するので、35年前というのは1ヶ月くらい前の感じかもしれません。

この本は「草をとる、水をまく」というブログ記事のなかでも一部を参照したものですが、その骨子を再構成すると以下のようになります。

◇ 「農業の近代化・合理化とは、けっきょく、それぞれの国の風土を生かすことにほかならない」のだが、「単作経営化と大型機械化の方向は、日本の風土を生かすよりも、むしろ殺すことになる」

◇ 「(灌漑は農業にたいする風土的な条件を大きくかえることになるので、灌漑地をのぞいてかんがえると)世界の農業は、乾燥地帯の農業と湿潤地帯の農業、すなわち保水農業と除草農業に分けられるが、これを休閑と中耕という別の視点に基づいて、さらに、休閑農業と中耕農業に区分しなおすこともまたできる」

 註:【休閑】土地を肥やすため、一定期間耕作をやめること。休耕。〈Kotobank〉
 註:【中耕】農作物の生育中に、その周囲の表土を浅く耕すこと。土壌の通気性などをよくし、作物の生育を促進させるために行う。〈Kotobank〉

◇ 「湿潤地のなかでも最も湿潤な東南アジアと東アジアにおいては、北ヨーロッパのように三年に一度の休閑除草などということではとうてい雑草を除去することはできない。」「しかし、雑草が繁茂するということは、同時にまた、作物も繁茂するということでもある。だから、雑草を除去してやりさえすれば、作物の豊かな収穫を期待することも、またできるわけである。そこで、東南アジア、東アジアでは、作物の生育中に、中耕による頻繁な除草がおこなわれる。」つまり、日本は中耕除草農業。

◇ 「戦後の日本の支配権力にとって、先進国はアメリカであった。したがってかれら知識人たち、日本農業『近代化』即『アメリカ化』とかんがえたことは、きわめて当然のなりゆきであったといえよう。アメリカ農業の特徴は、大型機械化と単作経営化である。それは、全国平均77ヘクタールという大農場を、家族の労働力を主体としてまかなっていこうとするならば、当然のことである。しかし、日本のインテリたちは、全国平均1ヘクタールという日本に、そのまま、大型機械化と単作経営化をもちこもうとした。」

 註:2007年の米国と日本の1戸あたりの農地面積は、それぞれ181.7ha、1.83haで、米国は日本の99倍、この本で参照されているデータ(1970年前後)だと77倍なので、その差は広がっている。

◇ しかし日本の「中耕(除草)農業は、より湿潤な地帯に発達したために」、米国の「休閑農業のように栽培面積をひろげて労働を粗放化するよりも、栽培面積をそのままにして労働を集約化したほうが、かえって収量が多い。」

◇ 「高度経済成長のはじまる昭和三十五年ごろから、財界グループが、日本農業の『近代化』にたいする提言をさかんに発表しはじめる。」「これらは、いろいろの内容をふくんでいるが、次の二点に要約することができよう。」

 「(1)ある自給を認めながら、現在の輸入を前提として、財政負担のかからない食糧自給政策をかんがえる。とくに、米価はあくまで国際価格に引き下げることを旨とし、それが不可能な場合には、コメを輸入すること。いわゆる『国際分業』論の主張」
 「(2)零細農家の土地を集中させて積極的に経営規模の拡大をはかり、大型機械化と単作経営化をすすめることによって、農業労働の効率を高める。いわゆる『農業近代化」論の主張」

◇ (最初の引用を再び引用すると)「農業の近代化・合理化とは、けっきょく、それぞれの国の風土を生かすことにほかならない」のだが、「単作経営化と大型機械化の方向は、日本の風土を生かすよりも、むしろ殺すことになる」

(古くて新しい農業経済の本(その2)に続く)

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