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2010年7月30日 (金)

農業の公的支援(その3)

さて、米国の農家や農業法人の農業所得に占める政府直接支払いや公的支援と思われるものの概要を、農産物の種類や農家のタイプ別に眺めてみたいと思います。

参照した資料(報告書)は “US AGRICULTURE without farm support” (ABARE research report 06.10, September 2006) で、その理由は、ABAREというのはオーストラリア政府の農業を中心とした経済調査機関で、この調査レポートが米国政府による農業支援や農家補助・農家補償をやめた方がいいのではないかという立場、つまり産業保護は資源の最適配分や生産性上昇を中長期で阻害するという立場に立ち、農産物に関しては自由化指向と規制緩和指向の強いニュージーランドなどの農業政策を推奨モデルとしているので、米国での農業に対する公的支援や政府直接支払いにかかわる数字やプログラム(仕組み)をきちんとオープンにしているだろうと考えたからです。(この資料の参照や引用はその旨の記載があれば認められており、それはこの資料の性格からすれば当然ということになりますが、それも理由のひとつです。)

骨子は以下の通り。

■農家に対する支援策には(1)価格に関しては最低価格の維持、(2)売上に関しては最低売上額の保障、そして(3)農家への直接支払いがあり、これらが組み合わさって農家への支援が提供されている。

■米農務省の予算のうち、上記の農業支援に向けられるのはその20%で金額的には1.8兆円(1ドル=90円の場合)。なお、一番大きな予算は食べもの全般や栄養に関するもので50%。

■農業支援の恩恵をこうむっている主な農畜産物は、「小麦・米・飼料用穀物(トウモロコシ)・綿花・大豆」といった基礎農産物、および輸入品との競合の激しい「砂糖や乳製品」。一方、支援がないかあってもわずかな農畜産物は「牛肉・豚肉・鶏肉」と附加価値農産物の「果物・野菜」。

■「小麦・米・飼料用穀物(トウモロコシ)・綿花・大豆」は3層構造の支援プログラムで、いわば支援の層を積み重ねるようにサポートされており、「市場価格」(農家の実際の販売価格)が「目標価格」(これくらいで売りたい価格)を下回った場合には、その差額がきちんと生産者に補填されるようになっている。「砂糖や乳製品」は輸入障壁で保護し、また同時に輸出の際には輸出助成金で支援。

【註】「小麦・米・飼料用穀物(トウモロコシ)・綿花・大豆」の生産者に対する3層構造の支援プログラム(Loan deficiency payment, Countercyclical payment, Direct paymentで3つの支援層を形成、それぞれ融資単価補填、景気循環対策支払い、直接支払いといった意味だが要は別々の名称を持った補助金制度)、たとえば下の図でコメ(rice)の場合、Target priceは$10.50、Market priceは$4.25~$7.48、Loan rateは$6.50、Direct paymentは$2.35、それらを図に当てはめていくと補填額ないし補償額が計算できる(なおcwtは「コメ100ポンド」の意味)。

Us_agri_by_abere_fig_u

Us_agri_by_abere_table_4

■農家のタイプ別および規模別に分類すると、その主要属性は以下の通り。
□大規模な専業農家と、農業法人(このタイプの法人数を含む農家数は全体の10%で、粗収益額は農業全体の粗収益額の71%)
□中小規模の専業農家(このタイプの農家数は全体の25%で、粗収益額は全体の19%)
□零細規模の農家と、趣味の兼業農家や退職後の農家(農家数は全体の65%で、粗収益額は全体の10%)

■政府の支払いを受けている農家は全体の39%(そうでない農家が61%)で、政府支払い金額は農家全体の純収益額の20%に相当。

■というわけで、農業支援額全体の93%が「トウモロコシや綿花や小麦や米や大豆の生産者」に提供され、また農業支援額の56%が「大規模な専業農家や農業法人」に提供されている。

なおこのレポートでは、米国が農家や農業に対する支援を取り止めすべての輸入関税を廃止した場合に、2007年から2020年にかけて、主要作物(コメも含まれている)の生産や主要作物生産者の粗収益がどう変化するかのシミュレーションをしており、なかなか興味深い結果が出ているのでついでに引用してみます。(当該報告書の書かれた趣旨からすると、自由化しても米国農業はそれほどひどい状態にはならないだろうという方向で、「悪」影響の度合いを小さく見積もっているかもしれません。)

■2007年から2020年にかけての生産量の変化
□ 大豆:1%減少
□ 小麦・トウモロコシ:3%減少
□ コメ:11%減少
□ 綿花:13%減少
□ 砂糖:31%減少

■2007年から2020年にかけての穀物生産者の粗収益額の変化
□ 大豆・小麦・トウモロコシ:3~5%減少
□ コメ:15%減少
□ 綿花:19%減少
□ 砂糖:42%減少

<「農業の公的支援」のおわり>


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