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2010年7月29日 (木)

農業の公的支援(その2)

最近は使われる頻度が少なくなったようですが、グローバルスタンダードという言葉があります。少し前に、ある国産自動車メーカーの外国人CEOが自身の年間報酬額についてコメントを求められ「グローバルスタンダードでみると多くはない」といった趣旨の発言をしていたのでこの言葉はまだ生きているのでしょう。

グローバルスタンダードというとみんなが納得した標準的なものというニュアンスが強いのですが、特定の国や特定のグループの考え方ややり方がそれ以外の国やグループに無理やりに押し付けられたものという側面もあります。情報処理の世界のデファクトスタンダードという言葉は非常に多くの人が使っているので事実上の標準という意味で、グローバルスタンダードと重なるところもありますが、利用者の納得感はデファクトスタンダードの方が高そうです。

たとえば、時価会計という考え方があります。おおざっぱに言えば、取得したときはどれほど高価な資産であっても現在ボロボロの価値しかないのであれば、ボロボロ資産という再評価をして企業の財務状況を正しく内外に公開しましょうということですが、かつてこの考え方がグローバルスタンダードの衣装をまとって世界を席巻し、バブル経済崩壊時の日本の金融機関はおかげでひどい目に遭いました。しかし、同じことが米国で起こったときには、多くの金融機関や金融投資に熱心な企業がかかえているボロボロな金融派生商品をボロボロだと時価評価するととても具合が悪いので、時価会計を世界に押し付けたまさにその国が自国では時価会計を凍結してしまいました。この動きを、米国では粉飾決算が解禁されたと表現した方もいましたが、言い得て妙です。

農業とは直接に関係ないことを書いたのは、グローバルスタンダード風のものにはどうもそういう「もやもやしたもの」「嫌らしいもの」がつきまとっており、各国の農業保護率を指し示すとされるPSE (Producer Support Estimates) 比率にもそういう「もやもや」が内在しているだろうと考え、すこし距離を置いて数字の意味や意図をとらえた方が安全だと思うからです。

たとえば、PSEでは「農産物の内外価格差」をすべて「関税や非関税障壁による政府の保護」で説明しようとしているようです。つまり外国産と国内産の特定の農産物は基本的に同じなので(たとえば、生シイタケは生シイタケ)、野菜売り場で300円で売られている外国産の生シイタケを買わずに、600円という値段の生産者がはっきりした味のよい国産生シイタケを日本の主婦が選んだとすると、その差額の300円をPSEでは政府保護金額に算入します(「原木栽培の生シイタケ」を参照)。国ごとにマクロの統計をとるので個別農産物の付加価値やそれに応じたプレミアム価格による価格差を気にしていられないという事情もあると思いますが、そういう場合には、経済学的視点からの統計の取り方と、マーケティング的視点からの数字のつかみ方のギャップを感じることになります。

ここでは深入りしませんが、経済学的視点ではコメはコメで、どこの国のどういう品種のコメでも同じコメと考え、そうした文脈で日本のコメの国際価格競争力云々の議論をする傾向が強いようですが、マーケティング的視点は、粘り気のあるふかふかしたジャポニカ米とパサパサした細長いインディカ米は別のカテゴリーの商品(食材)と見なし、両者は普通は競合しません(「普通は」と書いたのはコメの常食者が戦災や天災によってよほどの飢餓状態に一定期間おかれたような場合を除く、という意味です。)

また、コメなどをのぞいた場合の日本の農産物関税率は2000年時点では(貿易量を加味しない)単純平均で11.7%ととても低く(同様に、米国が5.5%でEUが19.5%、韓国が62.2%でノルウェーが123.7%)、したがって諸外国から日本への農産物輸出が活発で、日本でほとんど栽培されないものが日本で需要がある限り輸入されるのは致し方ないとしても、その結果が、穀物自給率や食料自給率の低さにつながっているわけです。(関税率はOECD Post-Uruguay Round Tariff Regimes 1999をもとに2000年時点で算出されたもの)

日本以外の国における農業の公的支援あるいは政府の農家や農業法人に対する財政補助に関して主要各国を個別に調べる余裕はないので、次に、農業所得に占める政府直接支払いや公的支援と思われるものがどうなっているかを農産物輸出国の米国を例にして眺めてみたいと思います。

「農業の公的支援(その3)」に続く

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