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2010年8月24日 (火)

朝ごはんと、ディ・マーケティング

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省庁のひとつに、農業や畜産業や水産業などに対してサービスを提供する部門があります。その部門のホームページに掲載されている農業や農産物の各種統計や報告書は、それから年に一度の印刷物も、必要があれば参照させてもらっているので、そこを揶揄(やゆ)するような記事は書きたくないのですが、この部門は自分の守備範囲であるところの業界を越えたもっと大きな対象に何かを働きかけようとすると、とたんにナイーブになってしまうようです。

その部門があるキャンペーンを実施するそうです。このキャンペーンの背景は厚生労働省の調査にある「朝食欠食率」ですが、それをその部門が展開すると、「朝ごはんを食べない人が日本では結構多い、とくに20代と30代と40代にその傾向が顕著なので、300円相当の朝ごはんを朝ごはんを食べていない人たちに毎日食べてもらったら、1兆8000億円もの食べもの市場が追加的に出現する」というお話になります。朝ごはんが、小麦粉パンのトーストでなく、炊いたお米を中心にしたものだったら、お米の需要も当然大きく伸びるので、このキャンペーンは「めざましごはんキャンペーン」とよばれています。秋や冬に集中的に「テレビコマーシャル」を流し、「マイ弁当運動」プロモーションも加わるのだそうです。

しかし、そのキャンペーンに関する情報を見た瞬間に想起した光景は、ニコニコ笑っている広告代理店です。楽なうまい商売が転がり込んできたと、どこかの広告代理店が喜んでいます。

印象に頼るだけのコメントだと申し訳ないので、話をすこし客観的なデータを交えたものの方に進めると以下のようになります。

平成19年の秋に、つまり3年前ですが、当該部門による同じ趣旨のキャンペーンがあり、当時のニュースのヘッドラインを借用すると「『朝食食べれば1兆5000億円の市場創造』、『めざましごはんキャンペーン』で展開」。このキャンペーンの前提となった背景は、やはり当時の厚生労働省の調査結果(「国民健康・栄養調査結果の概要」)でした。

事実を箇条書きにしてみます。

◇ 平成19年(2007年)の状況
 朝食欠食率は10.7%(朝ごはんを食べない人の割合が10.7%)
 ただし、20代は28.3%、30代は20.8%と20代・30代で朝ごはんを食べない人の割合が多い
 日本の人口は127,770,000人
 朝ごはんを食べない人は13,671,000人
 1年間に食べられて「いない」朝ごはんの数は、50億食
 朝ごはんが1食300円だとすると、朝ごはんをきちんと食べてもらうことによって、食べもの市場は、1兆5000億円拡大する

◇ その部門のイニシャティブで平成19年(2007年)秋に「めざましごはんキャンペーン」を実施

◇ 平成22年(2010年)の状況(3年後の状況)
 朝食欠食率は13.2%(朝ごはんを食べない人の割合が13.2%と2.5%増加)
 ただし、20代は28.1%、30代は24.7%、40代は20.3%と朝ごはんを食べない人の割合はあいかわらず多いし、増加傾向
 日本の人口は127,692,000人(ほぼ同じ、正確には若干減少)
 朝ごはんを食べない人は16,855,000人(3年前よりも3,184,000人増加)
 1年間に食べられて「いない」朝ごはんの数は、62億食となり12億食の増加
 朝ごはんが1食300円だとすると、朝ごはんをきちんと食べてもらうことによって、食べもの市場は、1兆8000億円拡大する

◇ 同じ部門のイニシャティブで平成22年(2010年)秋にふたたび「めざましごはんキャンペーン」を準備中

社会生活などの現実の場面では妥当しない仮定ですが「他の条件が一定なら」という仮定を置いてみます。別の表現だと、このキャンペーンと朝食欠食率(朝ごはんを食べない率)が非常に密接にかかわっていて、このかかわりに影響を与えるかもしれない他の要素は変動しないと仮定します。すると、この平成19年のキャンペーンはとてつもないディ・マーケティング効果を発揮したことになります。

ディ・マーケティングとはDe-Marketingで、マーケティングの強い反対語です。マーケティングが売上の増加やものごとの活性化を目ざすものなら、ディ・マーケティングはその逆で、売上の減少やものごとの不活性化を目的とするものです。つまり、「めざましごはんキャンペーン」を繰り返すほど、朝食欠食率(朝ごはんを食べない人の割合)が確実に増加するということになりそうです。

もっとも、お参り(おまいり)の好きな人がいて、交通事故などに遭わないためにお参りに行くのですが、それでも事故にまき込まれてしまった場合、その人は「お参りに行ったのでこの程度の事故で済んで本当によかった、そうでなければ命を失うところだった」と考えるでしょうから、このロジックを「めざましごはん」にあてはめると、「このキャンペーンをやったおかげで、食べられて『いない』朝ごはんの数が62億食、つまり12億食の増加でおさまった。キャンペーンを実施していないとこの数字が70億になったかもしれない。キャンペーンの効果は十分にあった。」というお話ができあがります。

朝食欠食率が13.2%ということは、86.8%の人は朝ごはんを、しっかりかなんとなくかは別にして、一応食べているわけで、「それでいいじゃん」という気もします。ただ、働き盛りの20代・30代・40代の朝食欠食率が順番に28.1%・24.7%・20.3%と高く、「食べられて『いない』朝食数」は人数を勘案すると年代ごとにそれぞれ「15億食」「17億食」「12億食」(合計44億食)なので、この年代で朝ごはんを食べていない人の半分に朝ごはん、それもお米の朝ごはんを食べてもらえるとすると、以下のようにお米の需要が増加します。

ここでは(その部門が)朝ごはん代を1食300円としてあるので、これが全部外食だとすると、お店の材料費は100円。その中のお米は、仕入れ価格で30円。30円に22億食(44億食の半分)をかけると660億円。うまくすれば660億円くらいのお米の追加需要が見込まれそうです。これはお米の年間需要金額が、現在の卸売価格(相対取引価格)で計算すると1兆9062億円なので(60kgの平均価格が14,120円で、需要量は810万トン)、660億円はその3.5%になります。(卸売価格と仕入れ価格の差はここでは考えません。)今は、お米の価格が下がっていて、このままだと米作農家全体の米収入がこれからの1年で1350億円くらい減少するかもしれないので、これが皮算用通りだと、その半分がカバーされるとも言えます(「お米の価格と都道府県別の需要実績(その1)」参照)

さて、ここでは朝ごはんを食べた方が食べないのよりも体によいということを前提にしますが、ある人が朝ごはんを食べないのは、朝はコーヒーを飲む以外の時間がない、毎日遅くまで忙しくて睡眠不足気味なのでぎりぎりまで布団の中にいたい、健康や節約のために朝ごはんを自分で作りたいのだけれど時間がかかりすぎるので作らない、出勤前にオフィスの近所で食べたいが食欲のわく朝ごはん定食がない、忙しいので食べる時間がもったいない、などさまざまです。

だから、朝食欠食率を減らそうとすると、外で朝ごはんを食べる気持ちがすこしはある人をその気にさせるような「もの」や、自宅で朝ごはんを作りたいという気持ちが底にある人をその気にさせる具体的な「もの」が必要で、ここでいう「もの」とはそういうことに抵抗なく入っていけるようなすぐそばの環境であり、すぐ手が届くところにあるそうした環境を具体化する方策や手段です。出勤途中の15分をお米の朝ごはんに使うことがペイするような環境、自宅でお米の朝ごはんを準備することを助けてくれるような具体的な何か。

僕には、自宅でお米を炊きたいのだけれど面倒くさいと思う消費者にお米を炊くことの抵抗感を下げる簡単な方法をお米流通業者向けに考えた案くらいしかないのですが、以下の記事をご参考まで。「2合と2kg(その2)」。

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