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2010年9月21日 (火)

卒論のテーマに「ゆめぴりか」

現在、学部の1年生か2年生で今後マーケティングを専攻しようと考えている学生の方には、これからの時間経過を考えるとタイミングのよい学部卒業論文のテーマかもしれません。「『ゆめぴりか』を事例としたブランド戦略の実証研究」とでも題しますか。

ブランド作りは、係数の大きさは問いませんが、たいていは我慢の量に比例します。ある企業でブランドを確立しようとした場合は、世界を驚かすような技術や製品のブレークスルーがある場合は別ですが、そういう技術や製品デザインの既存の壁を壊すようなものがない場合には、最初に設定した高い製品品質やデザイン品質の継続的な維持とそのための我慢がブランド確立の基礎になります。最初にブレークスルーがあった企業も、ブレークスルーは短期的な知名度は作りますがブランド確立には直結しないので、中長期では同じ種類の我慢が必要です。ひとつの企業ではなく、地域で集合的に特定品目のブランドを確立する場合も同じことです。

「ゆめぴりか」という品種の北海道米があります。新潟産コシヒカリないしは魚沼産コシヒカリと競い合うような地位(食味と需要量)をめざして2009年から出荷され始めた北海道米のニューフェースです。日本一をめざしたお米なので、定量的に規定された品質基準は厳しいけれども明瞭で(「タンパク質の含有量が6.8%以下」)、その品質基準をクリアしないとそのお米の品種が「ゆめぴりか」であっても「ゆめぴりか」とは認定しないというとてもすっきりとしたブランド戦略を持っていました。

北海道のお米は、家庭電気製品にたとえたら、メーカー名や商品名が消費者に見えない業務用の用途も多く、価格も主に低価格帯の商品で、北海道のお米を高級や高品質といったイメージと結びつける消費者は、客観的に見て、ほとんどいないと思います。(「お米のブランド力格差」を参照) そういう家電メーカーが、どこにも負けない高級品を開発したのでぜひ棚の一部をお願いしたいと全国の流通を歩き始めようとしているのが、いまの「ゆめぴりか」の状況です。

そういう「低価格米」生産地域が、「日本で一番うまいお米」のブランディングをめざしているので、他の地域以上に、味の品質基準が厳しいものになったのは、そして、その品質基準が、消費者や生産者や流通業者がわかりやすく簡潔なものになったのは当然だといえます。(「タンパク質の含有量が6.8%以下」というのは一般消費者にはわかりにくい指標だし、その基準を採用している将来の競合品種も北海道から遠く離れたところで育っていますが、それにこだわりを持ち、たとえば「味は6.8」とか「北の6.8」といった形で「ゆめぴりか」というブランド名とあわせて訴求することで、一般消費者もそれを明快でわかりやすい指標と考えるようになります。)

初年度は夏の長雨などの影響で「ゆめぴりか」と認定されたのは当初予定のわずか6%(実際の生産量の10%)。つまり、辛抱強くブランド戦略を実行したということです。「ゆめぴりか」でありながら「ゆめぴりか」になれなかったお米はノーブランド米として安値で取引されますが、それは、いわば当初から「立ち上げ物語り」に組み込まれていたパラメータのひとつで、そうなった場合にブランド戦略と抵触しない対応策も協議されていたと思われます。

しかし、2010年に入るあたりから戦略に揺らぎが出てきます。生産者救済策ということなのでしょうが、「ゆめぴりかブレンド」という「基準外のゆめぴりか」に「おぼろづき」という他の北海道産米を20%ブレンドしたお米を急遽発売しました。「『おぼろづき』をブレンドしたことによって、味は『ゆめぴりか』並みになった」というのが商品の説明です。

平成22度(2010年度)米では、立ち上げ時に決めた高品質(高食味)基準に入らないものも、他の基準を満たせば「ゆめぴりか」と認定するそうです。(認定するのは、ホクレン農業協同組合連合会)

かりに品質基準を満たす「ゆめぴりか」が想定通りの量で収穫されるのなら、こんな基準値変更は必要ないので、今年も、「タンパク質の含有量が6.8%以下」という品質基準をクリアする「ゆめぴりか」が相当に少ないと見積もっていることになる。

他の基準とは「基準外のお米でも基準合格米と同じ程度においしければよろしい」という食味試験のことで、今年の「ゆめぴりか」は、暑い夏だったのでアミロース値が低めで粘りが増すので、当初のタンパク質基準を満足しなくても合格米と同程度においしくなる可能性が高いそうです。

というわけで、品質基準がいわば動く標的に変化し、ブランド戦略にふたたび揺らぎが生じました。来年の今頃はどんな新しい追加基準が議論されているのでしょう。

「ゆめぴりか」が地産地消米で一生を終えるのなら、品質基準を動く標的として毎年改定していればいいのですが、低価格米生産地域と認識されている地域が、「新潟のコシヒカリよりおいしいですよ」と各地の流通や消費者に「ゆめぴりか」を訴求するわけです。そういう状況でのブランド戦略の揺らぎは致命傷になります。さきほどの卒論のタイトルは「『ゆめぴりか』を事例としたブランド戦略の実証研究」でしたが、このままだと、これが「『ゆめぴりか』を失敗事例としたブランド戦略の実証研究」に変わる可能性があります。

今年の「ゆめぴりか」が発売されたら、2kg袋をタンパク質含有量表示を確かめて買ってみるつもりです。

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