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2010年10月14日 (木)

プロダクトマネージャと、お米

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ハードウェア製品やソフトウェア製品の開発製造企業では、通常は製品ごとにプロダクトマネージャがついています。ハードウェアといっても車から炊飯器、おむつまでいろいろですし、ソフトウェアも企業向けの基礎的で地味なものから短時間でも停止すると大騒ぎになるもの、ケータイ用のゲームまで多岐にわたります。

企業によっては別の名称を使いますが、ここではマーケティングの教科書風にプロダクトマネージャとします。プロダクトマネージャは担当製品全体に責任を持っていて、権限の大きさや予算の大きさは企業の規模・体質や製品の種類によって異なりますが、マーケティングを軸として、開発・製造・マーケティング・財務(製品損益や投資回収)といった製品に関するすべての分野にかかわります。

製品がソフトウェアである場合、プロダクトマネージャの役割のひとつがバグ(ソフトウェア機能の不具合や機能障害など)とのお付き合いです。バグを直すという意味ではなく、ソフトウェア製品には複数の(あるいは多くの)バグが「常に」存在しているので、ヤバいバグや軽いバグのもたらす顧客の利用状況を推測し理解しながら、それでも新製品を予定通り出荷するのか、ヤバいバグの解決見込みがつくまでは出荷を一時遅らせるのか、出荷台数を一定数に限定するのか、バグの数は多いが回避手段は一応そろっているので気にせずにどんどん進むのか、他の製品とのコラボレーションがあるのでいくぶんのリスクは覚悟で既存製品のバージョンアップを新聞発表通りに実施するのかなどを、今後の売り上げや利益率や追加サポート費用をにらみながら決めていきます。

そういう業務経験のある人にとって、あるいは現在そういう仕事をしている人にとって、今回の「ゆめぴりか」に関するホクレン農業協同組合連合会の一連の動きをモニターするのは、「ゆめぴりか」担当者や「ゆめぴりか」責任者の心の動きや組織の意思決定プロセスの波動が具体的に想像できて、けっこう身につまされるものだったに違いないと思います。

一連の動きとは、当初の「ゆめぴりか認定基準」である「タンパク質含有率が6.8%以下」をクリアする「ゆめぴりか」が昨年に引き続き今年も非常に少なかったので(今年は収穫量全体の3%)、認定基準を「7.9%以下」へと緩和して、収穫量の60%を「ゆめぴりか」と認定するような措置のこと。108人が参加した食味評価試験では、認定基準を緩和しても食味は落ちない、すなわち、どのタンパク質含有率の「ゆめぴりか」であっても、7.9%以下なら、新潟産コシヒカリよりもおいしい、という結果が出ているそうである。(関連記事は「卒論のテーマに『ゆめぴりか』」、「さっそく、『ゆめぴりか』」、「最初から60%?」)

ハードウェアの新製品は、量産段階に移る前に、一般的には2段階のプロトタイプがつくられます。最初の段階は、開発部門で試作されるラボラトリ・プロトタイプ(ラボラトリは研究室や試験場の意味)。それが電気電子系の製品だと、おそらくプリント基板のうえに開発エンジニアが追加でハンダ付けした部品があまりきれいでない状態でくっついていると思います。機能評価や性能評価が主たる目的なので見栄えは二の次。

その後、製造という立場で、その製品が製造ラインで効率よく作れるかどうかを確かめるためのプロトタイブがつくられますが、これは製造プロトタイプと呼ばれています。そこまでがうまくいくと、次は量産、といっても最近は多品種少量生産が多いですが、まあそれはさておき、通常の製造段階に移行します。

そのおのおのの段階で問題が発生する可能性があり、問題が出たらその段階で問題を解決してしまいますが、量産段階で初めて問題が現れる場合もあります。

2008年から2010年にいたる「ゆめぴりか」の開発・量産経緯を大ざっぱに調べてみると、2008年の上川農業試験場における「試験場プロトタイプ」はとても順調な仕上がりでしたが(下の「2008年産米を対象に、2009年3月と6月に札幌と東京で行われた食味試験の評価結果」をご覧ください。総合評価だけでは詳細は分かりませんが、白さや粒立ちや香りや粘りや甘さや噛んだ時の感じといったものの総体評価がよかったのだろうということは読み取れます。魚沼産コシヒカリの評価の低さに違和感がありますが、僕は2008年産の「ゆめぴりか」や「ふっくりんこ」を食べていないので、ここではその評価結果を尊重します。)、2009年に最初の量産段階で壁にぶつかります。しかし、それは製造プロトタイプ段階での問題という風に去年は位置づけを変えてやりすごし(製造プロトタイプだから他の品種とのブレンドにも心理的な抵抗が少ない)、2010年が本当の量産ということになりました。

米のような農産物の量産というのは、当たり前ですが、多数の地理的にも離れた農家の生産インフラに依存します。生産インフラとは土壌や気候であり、生産インフラの違いとは土壌の違いや水の違い、気象条件の違いや日中の寒暖差の違いといったものです。水田は均一な内部環境のある複数のハイテク製品製造工場ではありません。量産段階の2010年でも、「設定仕様・標準仕様」を外れる製品があまりに多かったので、急遽、仕様変更・設計変更を行わざるを得なかったというのが2010年の「ゆめぴりか」です。仕様がゆるやかなものに変更されました。仕様がゆるやかなものに変更されると、通常は、ターゲット顧客層も変わってきます。「スポーツ・カー」が「スポーティーな車」へと変化します。

   2008年産米を使った食味試験の評価結果
<2009年3月と5月に札幌と東京で約660人の消費者を対象に実施>

基準米よりおいしいとプラスの値、基準米より食味が劣るとマイナスの値

2008_4

「北海道大学・農学研究院・食品加工工学研究室」発表の資料より作成

プロダクトマネージャにとって競合分析は仕事のもっとも重要なものの一部ですが、お米も競合の激しい商品なので、競合相手の動きや商品戦略を当然、調査・分析することになります。

例えば、「新潟県岩船産コシヒカリ」。

「米の食味ランキング」(日本穀物検定協会)は、平成18年から平成21年(2009年)まで連続して「魚沼産コシヒカリ」にまったく遜色はありませんが、ブランド力で、つまりは実際の消費者評価と販売価格で差をつけられている。だから、「魚沼産」の後を追いかけている「岩船産コシヒカリ」の2010年度産米の目標は「1等級比率95%、玄米タンパク6.0%」、そして一番重要視されている、目標達成ための基本手段が「計画的な土づくりで気象変動や病害に負けない稲づくり」という生産インフラ整備となっています。(2010年2月発行のガイドラインより)

なお、米の食味ランキングの結果内容については、「米の食味ランキング」をご覧ください。ここに結果内容を直接に掲載することはできないので、該当箇所のクリックをお願いします。おいしいものから順に「特A」「A」「A’」「B」「B’」とランクづけされており、「A’」が平均的な食味の基準米で、ここでの基準米とは上の棒グラフとは違い、その定義は「複数産地のコシヒカリのブレンド米」となっています。

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