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2010年12月 3日 (金)

気になるお米、気になる競合<「ゆめぴりか」と「つや姫」>(その2)

気になるお米、気になる競合(その1)」で書いたように、「北海道のゆめぴりか」と「山形のつや姫」に関して、以下で「ターゲット顧客(セグメント)に対する優先順位の設定の仕方、流通チャネルに対する取り組み、それから実際はこれが要ですが当該商品のデファクトスタンダード化(事実上の標準化)に対する意思、そして(広い意味ではこれもデファクトスタンダード戦略の一部だが)とても暑い夏が今後も継続するかもしれないというという気象条件の変化を今後どう戦略に援用するのかという思惑」などのポイントを比較しようと思いますが、ポイント比較に入る前に、北海道と山形のコメとヒトに関する基礎情報を確認しておきます。

平成22年度産の全国の米(主食用)の予想収穫量は824万トンで、第1位が北海道で59.0万トン、第2位が新潟で56.9万トン、そのあとに秋田・福島・茨城・宮城・山形・栃木といったコメ生産県が続きます。山形の生産量は38.9万トンで順位は全国で7番目(農林水産省)。

2008年の日本の人口は1億2769万人。北海道の人口は554万人で全国の人口の4.34%、山形の人口は119万人で全国の0.93%です(総務省・統計局)。

◇ ◇ ◇

北海道の「ゆめぴりか」の平成22年度産米の生産量は1万4000トン。このうち1万トン(71.4%)が北海道内で販売され、4000トン(28.6%)が北海道外に販売される予定です。「70% vs. 30%」で、70%が「内需」、つまりこの数字だと「地産『地』消」指向といえます。一方、山形の「つや姫」の平成22年産米の生産量は1万2500トン。このうち2500トン(20%)が山形県内で販売され、1万トン(80%)が山形県外に販売される見込みです。「20% vs. 80%」で、80%が「外需」、つまり「地産『他』消」指向です。

それぞれの地域の米生産量全体と比べると平成22年度は「ゆめぴりか」の生産量が2.3%、「つや姫」の生産量が3.3%とそれぞれわずかなので、道内や県内の消費人口の多さや少なさが、「ゆめぴりか」の「内需指向」や「つや姫」の「外需指向」をもたらしたとはと考えにくい。お互いにビジネス開始の初年度なので、最初のボタンをどういう風に掛けるかが重要です。したがって、とくに初年度のスタイルに基本的な考え方や実行力の違いが色濃く反映するのかもしれません。

「地元でもおいしいと評判なので、おひとついかがですか」という控えめでゆったりした「ゆめぴりか」のアプローチと、「うまい米ができたよ、地元に回す分も持ってきたので、あんた、すぐ食べなきゃ損するよ」というパタパタと積極的な「つや姫」のアプローチの違いともいえます。

◇ ◇ ◇

新潟コシヒカリを凌駕するようなブランド米にしようと思えば、そのビジネスは高付加価値商品による高収益維持を抜きにしては考えられませんが、それを構築するための方法のひとつが栽培や品質に関する厳しい基準設定であり、もうひとつがそうした基準を前提としたデファクトスタンダード化(事実上の標準化)です。

高付加価値商品による高収益維持ということに関しては、「つや姫」の方が「ゆめぴりか」よりもその方策が明快です。「栽培方法は特別栽培か有機栽培に限定」しており、また生産者も「一定の要件をクリアした認定農家に限定」、品質基準の詳細についてはまだ調べていませんが「品質確保のために本県独自の出荷基準を設定」しています。「栽培方法を特別栽培か有機栽培に限定」というのは、これはとても思い切った差別化の手段です。

非常に多くのユーザーや消費者や生産者がいるので、標準化委員会が決めたものではないのだけれど、事実上の標準となっている商品や製品があります。ITや情報家電の世界では、検索ソフトやデータベース、ケータイやスマートフォン、DVD、PCやマイクロプロセサーなどわれわれの身近にすぐに見つかります。日本のお米だとコシヒカリです。事実上の標準、ないしそれに近いポジションにある製品や商品の特徴は、たいていの場合、多くの消費者やユーザーがいるのは当然としても、もともとの生産者以外に当該商品の他の生産者、およびそれを使った別の製品の生産者がもともとの商品の周辺におおぜいいるということです。

お米の生産がほとんどない東京・大阪・沖縄を除くと、日本の都道府県でコシヒカリを作っていないのは、北から、北海道、青森、秋田、岩手、宮城、神奈川、奈良、和歌山、福岡、大分で、あとの府県は中国地方も四国も九州も、量の多寡を別にすれば、すべてコシヒカリを生産しています(日本穀物検定協会「米の食味ランキング」)。事実上の標準的な米になるということは、これに近い状態を作り出すということです。

暑い夏に対応するために、コシヒカリに代わる「高温登熟性」(高温での栽培に適していること)にすぐれた次世代米の研究が各地域で進行中のようです。昨年と比べた場合の今年の1等米の比率という点では、今年の夏の暑さによって日本で一番打撃を受けたのがなんと新潟県で、昨年は9割を超えていた1等米比率が今年は2割を下回ってしまいました。

そういう背景もあり、たとえば島根県などでは暑い夏に強い次世代の良食味米候補として「つや姫」を検討しているそうです。島根県では1等米比率が84%から49%に低下しました。どういう話し合いが島根県と山形県との間で進行中なのかはわかりませんが、山形県は、「つや姫」の種子の本格的な提供の条件として、種子を提供される県は「つや姫」を県奨励品種指定にすることとしており、つまり、これはデファクトスタンダード戦略なので、僕の勝手な想像を許していただければ、山形県の「つや姫」チームには「事実上の標準化」の意味を理解しそれを仕掛けつつある凄腕の戦略家がいると思われます。

かりに島根県が「つや姫」を採用し、そしていい成果が出始めたら、その周辺ないしは、暑い夏で困っている距離を隔てたどこかの県にドミノ効果が波及し、その結果、「つや姫」の開発地でありそこでの栽培方法も「特別栽培か有機栽培に限定」している山形県が中心となった、おそらくはピラミッド型の「つや姫」ビジネスサークルが形成されます。山形県の戦略家は、おそらくそういうことをスケッチした紙を机のそばの壁にでも貼ってあるのでしょう。

「ゆめぴりか」の場合は、そのあたりの基本の構図が、ホームページや新聞記事などからはよく見えてきません。認知度向上めざして、昼食時に自動車屋台がたくさん集まる東京・有楽町の催し物広場での試食PRを手始めに、日本各地の大きな消費地で試食キャンペーン、他の北海道米との食べ比べなどを展開するそうです。

◇ ◇ ◇

消費者の財布や舌にじかに接する流通チャネルや販売チャネルに関する方策に、少し足を伸ばしてみます。

「つや姫」のビジネスサークルが複数の県に拡大していけばその県のイニシャチブが入るので総体としては別の形のチャネル展開になるかもしれませんが、現段階では、目的が、ブランド化を目的とした商品認知、特別栽培・有機栽培に限定した商品管理・品質管理、高付加価値商品による高収益ビジネスの基盤固め、ということだと推察されるので、流通チャネルもビジネス目的と適合的な性格のものに焦点をあてて開拓しているのでしょう。

米専門の小売店で「つや姫」がよく売れているそうです。お米の専門店は、他の分野はいざ知らず、お米に関しては街のオピニオンリーダ的な雰囲気を持つ販売チャネルなので、さもありなん、という気がします。

「つや姫」のホームページから「つや姫」提供店の「募集要項」と「提供店申込書」をダウンロードしてみました。ここでいう提供店とは米の卸や米穀の小売店ではなく、飲食店や旅館・ホテルのことです。(『・・・』が募集要項からの引用部分)

『「山形つや姫提供店」の募集
【募集の要件】
次の要件のいずれも満たす、県内外の飲食店、宿泊施設とします。
① 山形県産「つや姫」を継続して顧客に提供できること。
② 「つや姫」のPRに協力できること。
(メニューへの掲示、店舗へのポスターの掲出、パンフレットの配布など)』

さきほど、「事実上の標準、ないしそれにポジションにある製品や商品の特徴は、多くの消費者やユーザーがいるのは当然としても、もともとの生産者以外に当該商品の他の生産者、およびそれを使った別の製品の生産者がもともとの商品の周辺におおぜいいるということ」だと述べましたが、山形県が集めようとしている「つや姫」提供店とは「もともとの商品の周辺におおぜいいる、それを使った別の製品の生産者」に相当します。ソフトウェアの世界だと、もともとの商品が基本ソフトウェア、それを使った他の多くの生産者がアプリケーションソフトウェアの開発・販売者というのがよくみられるパターンです。つまり、チャネルの開拓面でも「つや姫」は戦略軸がすっきりとしています。

「ゆめぴりか」は、最終消費者における商品認知やブランド認知を高めることを優先しているようですが、「つや姫」は米の小売専門店や飲食店・旅館など最終消費者への経路(チャネル)の開拓やパートナーシップを優先しているように思われます。

◇ ◇ ◇

最後に、これが平均的な店頭価格かどうかわかりませんが、「ゆめぴりか」と「つや姫」の小売価格を比べてみます。同じ販売条件で比較するため、ある大きな通販サイトに同じ米穀店から出品されている5㎏袋の平成22年産「ゆめぴりか」と、同じく5㎏袋の平成22年産「つや姫」(こちらは特別栽培米<減農薬米>)を選びました。価格には送料も含まれています。

「ゆめぴりか」: 2820円 (白米、5㎏)
「つや姫」   : 2480円 (白米、5㎏)(特別栽培米)

(「気になるお米、気になる競合」のおわり)

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