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2011年4月27日 (水)

野菜(摂取)不足と100ミリシーベルト(その1)

それぞれ性質の違うものであっても、ある特定の視点からそれらを比較しようと思えば比較できるし、その比較にそれらしい論理や意味を持たせることもできます。

興味深い新聞記事(以下の『・・・』部分)が目に入ったので、それを利用しながら、ちょっと話を進めてみます。

『放射線の発がんリスク 100ミリシーベルトで受動喫煙者並み』『放射線を健康に影響が出るとされる100ミリシーベルト程度浴びた場合でも、がんの発生するリスクは受動喫煙や野菜不足並みにとどまることが、国立がん研究センターの調べでわかった。・・・中略・・・肥満や運動不足、塩分の取り過ぎなどでがんを発症するリスクは1.1~1.2倍程度で、放射線を100ミリシーベルト~200ミリシーベルトを浴びた場合よりも高い。・・・後略・・・』(日本経済新聞 2011年4月25日朝刊)

以下はその記事の中の参考テーブルの内容をそのまま引用したもの。ここでは「野菜摂取不足と100ミリシーベルト」テーブルと呼ぶことにします。

100_2

記事の趣旨は、放射線の発がんリスクなどたいしたことはありません、100ミリシーベルトの放射線量による発がんリスクの大きさは「野菜(摂取)不足」によるそれと同じくらいです、一般の住民の方は今回の福島原発の事故による放射線被曝のことなどあまり気にせず、農産物や魚の産地にも過敏にならず、野菜を食べ水を飲み、しっかり運動しましょう、というものかと思われます。

ここで、視点を変えて、日本全体とある架空の地域の年間死亡者数、一般の癌による死亡者数、交通事故による死亡者数、犯罪による死亡者数、殺人による死亡者数を比較してみます。

その架空の地域の人口は、200万人です。福島県の人口が207万5555人(2008年)、札幌市の人口が191万5542人(2011年3月現在)なので、現実的な想定です。福島県には福島第1原子力発電所、福島第2原子力発電所があるように、北海道には泊(とまり)原子力発電所(原子炉は3基)があり、札幌市は泊原発の東側60キロメートルから80キロメートルあたりに位置しており、途中に高い山はなく、季節によっては強い西風が吹き抜けます。

すべて2008年の数字で、データソースは各関係省庁や統計局のホームページや資料です。

◇日本の人口          : 1億2706万6178人
◇日本の年間死亡者数    : 114万2407人(日本の人口の0.89906%)
◇癌による年間死亡者数   : 34万2963人(日本の人口の0.26991%)
◇交通事故による年間死者数: 5155人(日本の人口の0.00406%、1990年代は死者数は1万人)
◇犯罪による死亡者数    : 1211人(日本の人口の0.00095%)
◇他殺による死亡者数    : 546人(日本の人口の0.00043%)

この日本全体の比率を人口200万人の架空の地域の各項目にそのまま当てはめると、以下のような数字になります。

◇架空地域の人口       : 200万人
◇架空地域の年間死亡者数 : 1万7981人(人口の0.89906%)
◇癌による年間死亡者数   : 5398人(人口の0.26991%)
◇交通事故による年間死者数: 81人(人口の0.00406%)
◇犯罪による死亡者数    : 19人(人口の0.00095%)
◇他殺による死亡者数    : 9人(人口の0.00043%)

ところで、東大病院の放射線治療専門チームのブログ(2011年3月29日)によれば、『さて、実効線量で100mSv~150mSv(ミリシーベルト)以上の被ばくになると、発がんの確率が増していきますが、100mSv(ミリシーベルト)で0.5%の上乗せにすぎません。200mSv(ミリシーベルト)では1%と、線量が増えるにつれ、確率は“直線的に”増えるとされています。しかし、日本人の2人に1人が、がんになりますので、もともとの発がんリスクは約50%もあります。この50%が、50.5%あるいは51%に高まるというわけです。』となっています。(アンダーラインは「高いお米、安いご飯」で追加)

癌にかかった方の何%の方が癌を主な原因として亡くなるのかは正確にはわかりませんが、『日本人の2人に1人が、がんになるので』という意見をそのまま参考にすると、2008年に日本全体で亡くなった方が114万2407人なので、その半分の57万1204人が重いか軽いかは別にしてなんらかの癌にかかっていたことになります。

日本全体で1年間に亡くなった方(114万2407人)のうち癌を主な原因(死因)としてなくなった方が34万2963人(2008年)なので、その数は「重いか軽いかは別にしてなんらかの癌にかかっていた」57万1204人の60%です。だから、もしもこの架空の地域(人口200万人)の「半分」の方(100万人)が、100ミリシーベルトの放射線量を原発事故によって蓄積被曝(外部被曝と内部被曝の総量;内部被曝は呼吸によるものと食べ物によるものの合計)したという非常に悪い状態を想定すると、5000人の方(100万人の0.5%)に癌が発症します。癌を発症した5000人のうち、その60%に相当する3000人の方が、この癌を死因として10年後か20年後かはわかりませんが、そういう年数が経過した後に亡くなるであろうということが想定されます。3000人の方が10年間に順番に亡くなるとすると、1年あたりの死亡者数は300人です。

整理すると、以下のようになります。

◇人口が200万人の架空地域の半数(つまり100万人)が、放射線量100ミリシーベルトの累積被曝(外部被曝+内部被曝)をこうむったときに、確率的に増加する癌発症者の数は5000人(100万人の0.5%)
◇その癌発症者のうち、その癌が死因で死亡する人の数は3000人(5000人の60%)
◇その3000人が10年間で平均的に死亡した場合の年間死亡者数は300人

さて、人口200万人の地域におけるこの300人という数字はどんな意味を持つのか。

「野菜摂取不足と100ミリシーベルト」テーブルに登場した「野菜(摂取)不足」や「酒の飲み過ぎ」、「運動不足」や「喫煙」などは自分でコントロールできる範囲の項目、自分の趣味の範囲の項目です。「野菜は嫌いだが、肉は好き。毎晩けっこう飲んでいるのは、忙しさの息抜きなので致し方ない。煙草はリラックスできるのでそれなりにいいと思うよ。」その通りだと思います。

しかし、「犯罪による死亡」や「他殺による死亡」、「原子力発電所の事故で放出された放射線や放射性物質による確率的な癌の発症とその後の死亡」は、逆の立場にでも立たない限り、自分では排除するのがまず不可能な項目です。「300人」はこのカテゴリーに属する数字です。

単純に比較すると、交通事故による死者の約4倍、犯罪による死者数の約16倍ということですが、今回のような原発事故の性格を、失礼ですが、未必の故意に近いものかもしれないと考えると、「300人」は相当に大きな数だということになります。野菜(摂取)不足と比べる性質のものではないように、僕には思われます。

<(その2)に続く>

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