「国破れて山河在り」、あるいは「小さな集合的無意識みたいなもの」
福島の原子力発電所に対するとりあえずの緊急処置の完了まであと数か月はかかるとすると、それはそれで長い時間ですが、そのあとに放射性物質の閉じ込め処理がとても長い期間にわたって続きます。放射能や放射性物質による汚染を回避するために地元を離された・離れた人たちが、汚染された土壌や水が安全なレベルにまで回復して、故郷に戻ってこられるまでにどれくらいの時間が必要なのでしょう。
後始末がとても長引きそうな福島の事故で、一部の人は忘れかけていた記憶がよみがえり、また別の人は記憶の向こう側の記憶とでも呼んだらいいものを自分の内側に発見したかもしれません。記憶の向こう側の記憶を、「小さな集合的無意識みたいなもの」とすると、今回の放射性物質の汚染事故からくる不気味さ・気持ち悪さは、その「小さな集合的無意識みたいなもの」が記憶している光景とはとてもかけ離れているからだと思われます。
たとえば、日本には戦国時代というものがありましたが、農民や商い人や女の目に映るのは、馬に乗った武将や武器を持った汗臭いオニーサンやオジサンが、敵を殺しながら、そしていろいろとそのあたりで狼藉を働きながら駆け抜けて行くといった光景でしょう。家は壊れる、物は強奪される。これが、たとえば、モンゴル帝国の軍隊に攻め込まれた東ヨーロッパへと時間と場所を変えてもその場にいた人たちの目に映る光景は同じようなものです。農民ではなく、指揮する将軍の目でそのあたりを見たところで、将軍の感じる戦の高揚感を別にすれば、光景の本質が変わるわけではありません。
そして、戦のあとしばらくすれば、「国破れて山河在り、城春にして草木深し」ということになります。国は敗れ崩れ落ちてもそこには山河があり、春になればかつての街中では、草ぼうぼう状態かもしれないけれど、ともかく草木が青々と茂ってくる。僕たちの「小さな集合的無意識みたいなもの」が記憶している荒れ果てた光景とは、こういうものだと思います。
これと、放射能や放射性物質で汚染された土地のイメージとはうまく重なりません。僕たちの「小さな集合的無意識みたいなもの」ではちょっと対応できない部分があり、それが「不気味さ」や「気持ち悪さ」につながるのかもしれません。
◇ ◇ ◇
農家や農業関係者の多くは昨年から今年にかけて、多くの知恵や時間や費用を使ってTPPに反対してきました。その労力の10分の1でもいいので、原子力発電政策の見直しやその段階的な廃止に向けて、とても忙しい時期ではあるのですが、今日からでも少しずつ発言し始めたらどうかと思います。
福島原発から放出された放射性物質ですでに汚染された農産物や、これから栽培や作付けが予定されていた野菜や穀物などの生産機会の損失に対して、事故を起こした電力会社や政府による農産物の一括買い上げや廃棄処分品の補償、機会損失の補填(ほてん)などを生活のために求めることは当然に必要だとは思いますが、安全な農業や安全な農産物の生産という「あたりまえ」をこれから維持していくためには、それと並行して原子力発電政策の見直しに関する主張も必要です。
原子力発電所の事故は、原子力発電所が稼働している限りある確率で起こるし、この狭い日本に原子力発電所は多くて、北海道から鹿児島まで全国17カ所にわたって54原子炉も配置されています。太平洋側にも日本海側にもそして瀬戸内にもそれはあるし、また本州の北の太平洋岸には核燃料の再処理工場もあります。
今回の経験、つまりいったん事故があれば原発のある福島だけでなく、茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉といった原発から100㎞~200㎞離れた農地にまで、簡単に農産物の放射性物質汚染が拡大するのだという実体験をふまえると、全国の農家や農業従事者から原子力発電所見直しについてもっと大きな声が出てきてもおかしくありません。
そういうことをやっていかないと「国破れて山河在り、城春にして草木深し」という状態すら確保できないことになってしまいます。「国破れて山河なし」。
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