GM作物と鶏・豚・牛とTPP (その2)

米国の巨大アグリビジネスが農薬とセット販売しているGM作物 (たとえば、そのあたりの雑草をすべて枯れさせてしまうような強力な除草剤と、その除草剤には耐性を持った作物のセット販売) は、情報処理技術関連のインフラソフトウェアやそれを拡散させるビジネスモデルのような輸出戦略性を持っています。
TPPアジェンダには関税引き下げだけでなく金融分野やサービス分野の自由化も含まれていますが、農産物や食品の「安全性の自由化」もまた含まれています。農産物や食品の安全性の自由化とは上品な表現ですが、上品でない表現をすれば、日本などへの輸出促進のためにはその方策は、まあ、何でもあり、ということです。つまり、十分な輸出量が確保できる程度にまでは、安全性基準を柔軟に引き下げることに日本が同意するという意味での自由化になりそうです。
我々がすでに見聞きしている例には、たとえば、輸出に都合の良いロジックで正当化された対象牛肉の選定と検査方法、他の側面やマイナス面を覆い隠して農産物の生産効率だけをむやみに強調するGM作物プロモーションなどがあります。
すでに、結構な量のGM作物がGM作物生産国から日本に輸出され、日本で消費されているという意見もあります。そういう客観的なデータが見あたらないので何とも言えないのですが、その確率は「状況証拠」から判断すると高そうです。
トウモロコシと大豆、それから油用菜種(ナタネ)と小麦や大麦・裸麦の輸入量とその主要輸入相手国は以下の通りです(農水省「農林水産物輸出入概況 2009年」)。
・トウモロコシ: 年間輸入量は1,629万トン(うち、飼料用は1,151万トン)、主要輸入相手国は輸入量の順番に「米国」、「ウクライナ」、「アルゼンチン」(ただし、ほとんどが「米国」)
・大豆: 年間輸入量は339万トン、主要輸入相手国は輸入量の順番に「米国」、「ブラジル」、「カナダ」
・大豆油粕(かす)(調整飼料用): 年間輸入量は191万トン、主要輸入相手国は、輸入量の順番に「中国」、「インド」、「米国」
・菜種(採油用): 年間輸入量は207万トン、主要輸入相手国は輸入量の順番に「カナダ」、「オーストラリア」、「米国」
・小麦: 年間輸入量は470万トン、主要輸入相手国は輸入量の順番に「米国」、「カナダ」、「オーストラリア」
・大麦(裸麦を含む): 年間輸入量は139万トン、主要輸入相手国は輸入量の順番に「オーストラリア」、「カナダ」、「ウクライナ」
大豆やトウモロコシや菜種に関しては「米国」「カナダ」「ブラジル」「アルゼンチン」などがGM大豆やGMトウモロコシやGM菜種などの遺伝子組み換え作物の生産に熱心なので、これらの国からそうした穀物を輸入しているということは、遺伝子組換え作物もひそかに相当に日本に入ってきているかもしれません。(GM作物の大量生産国のなかには「捕鯨反対」という意味で「クジラ」に結構なエネルギーを使っている国も多い。そういう感性を持っているのならそのエネルギーを「GM作物反対」にも向けたらどうかとも思うのですが、どうもそうはならないらしい。)
ある米国系アグリビジネスの日本法人の責任者が、以下のような発言をしていました(日本農業新聞インタビュー、2011年10月31日)。
『日本では推定で年間約1,700万トン(のGM作物)を輸入し、消費している・・・中略・・・穀物輸入量に占めるGM作物の割合は大豆では75%、ナタネでは85%と推定される・・』。
データソースに言及されていないのでその正確性については確かめようがありませんが、ここではその数字をそのまま使います。
「GM作物と鶏・豚・牛とTPP(その1)」での大まか図だと(下に再掲)、年間に3,000万トンの穀物(小麦、大豆・大豆かすやトウモロコシなど)が輸入されていますが、もしそのうちの1,700万トンがGM作物だとすると、割合は57%。日本ではヒトの口にはGM作物は直接には入っていないと考えると、家畜の飼料となっている穀物の相当な部分(大まか数字だと2,000万トンの中の1,700万トンなので85%)がGM作物ということになります。
卵(鶏卵)は6個とか10個とかのパックで売られていますが、1個あたりの値段の幅は非常に大きい。安いのは1個14~15円くらい。それなりに高いのは1個が65円。特殊な種類でなくて、1個110円を超える高価なものもあります。1個65円くらいの地元産卵のパックに同封されているペラの商品案内には次のように書かれています。『道産小麦主体の自家配合飼料給与。遺伝子組み換え飼料を使っていません。』これは、つまり、鶏卵業者の中には遺伝子組み換え飼料を使っているところもある、というメッセージとも解釈できそうです。実態はよくわかりませんが、15円と65円の違いは、普通に考えると、エサ代と場所代(ケージ飼いか平飼いか)の違いなので、そういうこともあるのかもしれません。
太平洋の向こう側の国に強圧的に誘導されてプラス面とマイナス面をぼんやりとさせたままTPPに参加すると、状況がなし崩し的に悪化して、たとえばGM作物が日本でもヒトの口へ直接に入ってくる危険性がある。これは避けたい。毒を食らわば皿まで、という無茶は御免こうむりたいし、GM作物の好きな米国の巨大アグリビジネスの懐具合をこれ以上よくしてやるのも腹立たしい。
「安全性審査の手続きを経た遺伝子組換え食品および添加物一覧」(厚生労働省、平成23年9月6日現在)を見ると、2001年3月から2011年9月6日までの10年半の間に安全性審査を通過した対象作物が並んでおり、申請者/開発者は当然すべてが欧米のアグリビジネス企業(登録品種の多い順に米国、スイス、そしてドイツ)ですが、作物などの種類別の概要は以下の通り(作物は167品種、添加物は14品目)。
・じゃがいも: 8 品種
・大豆: 9 品種
・てんさい: 3 品種
・とうもろこし: 102 品種
・なたね: 18 品種
・わた: 24 品種
・アルファルファ: 3 品種
・添加物: 14 品目
作物に関しては、その性質として「除草剤耐性」を持つものが圧倒的に多く、「害虫抵抗性」をもつもの、「ウィルス抵抗性」を持つものがそれに続きます。添加物の目的は、「生産性の向上」となっています。
年ごとの認可品種数・品目数の推移は以下の通り。最初の年は「在庫」を一斉に申請するので数が多いのは当然。この2年でGM作物の認可数が急増しているのが気になります。(なお、グラフの中で食品というのは厚労省の用語で、実際はGM作物・GM農産物のことです。)
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