« 「オーボーな自転車に対して、うれしいニュース」の、その後 | トップページ | 柿の木と杉の木 »

2011年11月28日 (月)

セシウム汚染全国マップと風評被害

人気ブログランキングへ

風評というものは、事実でないことが事実であるかのような衣装をまとって風のように僕たちを取り囲むことなので、注意していないとその風に流されてしまいます。

僕が知っている風評被害の原因のなかで一番大きいものが、「現在進行している地球温暖化の大部分が、われわれの産業活動・経済活動によって排出される炭酸ガスの温室効果による」としたIPCCの見解(事実でないことが事実であるかのような衣装をまとった見解)と、その見解にもとづいて作られた国際的な取り決めだろうと思います。だから、風評被害とは、そのことによって日本が実際にこうむっている経済的な被害をさします。(「迷ったら基本データ(世界の気温とCO2)」、「迷ったら基本データ(世界の気温とCO2)・補遺」)

風評被害というのは、日本のような素直な国が経済的な被害を受けているという意味で「風評被害」ですが、排出(量)取引によって、定常的に利益を得ている国もあり、そういう国にとっては「風評利得」かもしれません。炭酸ガス削減に関してはとくに何もしない国も少なくありませんが、そういう国はIPCCの見解やその見解にもとづく取り決めの意味のなさを最初からよく知っていたとも考えられます。日本の西に大きく広がる国や太平洋の向こう側に位置する国土の広い国などでは、最初から、炭酸ガスの削減などには関心がなさそうです。

ある生産地の農産物や畜産物が消費者から敬遠される時、マスメディアや利害関係者は「風評被害」という言葉を、ある種の意図をもって、あるいは、自分の利益の保護のために、比較的安易に使う傾向があります。しかし、消費者の行動を支持する事実がそこにある場合や、消費者が納得できる事実がそこにない場合には、それは風評でもなんでもない。

最近のわかりやすい例でいえば、2011年3月17日以前の食物などについての放射線量基準値と、それ以降の暫定基準値とは大きく隔たっていますが、測定された放射線量が後者よりは小さくても前者よりは相当大きいような場合は、「消費者の行動を支持する事実がそこにある」といえます。ある産地の農作物を「検査の結果、国の暫定基準値をクリアしているので安全」と生産者が言うだけで、計測された放射線量の提示がない場合は、「消費者が納得できる事実がそこにない場合」といえます。そういう場合に、消費者がそれらを買い控えても、それらは風評被害をもたらすような行動とは呼べません。

しかし、なかには意図の感じられる、ここではあえて本物の風評被害という表現を使いますが、そういう風評被害を引き起こすような方向の行為も実際には見られるようです。僕の考えでは以下はその例です。

先日(11月15日付)で次のようなニュースが流れました。最初の3分の2くらいを引用します。引用部分は、『・・・』。

初の“セシウム汚染”全国マップ!北海道~中国地方まで広く拡散  2011.11.15

 東京電力福島第1原発事故で放出された放射能が、日本列島各地に拡散している状況が明らかになった。名古屋大などの研究チームは福島第1原発から放出された放射性セシウムの全国分布を推定した地図を作成した。15日の米国科学アカデミー紀要(電子版)に発表する。各自治体などが公表したデータに基づく推定とはいえ、実態に近い全国版の汚染マップが示されるのは事故後初めてだ。

20111115

土壌へのセシウム沈着量を計算した地図。単位は土壌1キログラム当たりのベクレル
(米科学アカデミー紀要提供)

 地図は名古屋大の安成哲三教授、ノルウェー大気研究所などのチームが作った。3月20日から1カ月間に福島第1原発から放出されたセシウム137について、各地の自治体が計測した連日の降下量データをもとに大気中の拡散をシミュレーション。土壌への沈着量を推定した。

 セシウムは北海道から中国地方にかけた広い範囲に沈着するが、西日本の汚染は少ない結果だ。研究チームは「中部地方の山岳地帯が西日本への汚染大気の拡散を防いだ」と分析している。』

この記事と地図とそれからこの記事で言及されている論文(Cesium-137 deposition and contamination of Japanese soils due to the Fukushima nuclear accident)を見ていて、気になったことは以下の通り。

■著者: チーム研究なので著者は複数名(6名)。それぞれ、日本と米国とノルウェイの大学ないしは研究所に所属。日本の研究機関は名古屋大学と東京大学。日本人は名前から判断して、3名。つまり、公的機関の日本語のホームページへはアクセスできるし、内容も理解できる。

■公表のタイミング: なぜ11月中旬というタイミングで公表されたのか。論文提出は7月25日となっているが、提出から掲載まで時間がかかるとしても、公表はなぜ今か。こういう種類の地図が関係している現在の大きな政治経済問題はTPPです。日本ではTPPに参加すべきか否かを、国会議員も、経団連やJAも、農民も一般市民も論争中。この汚染地図だと、とくに北海道や北東北の農産物や畜産物が関係してきます。「セシウム汚染リスクの高い日本の、とくに北海道や東北北部の農産物・畜産物はヤバイですよ、米国から輸入した農畜産物を召し上がったらいかがでしょうか」という意図が背後に流れていても不思議ではない。ただし、これは僕の憶測。

■3月20日から1カ月間を対象としたシミュレーション結果と大幅に違う実測データが相当な以前から集まっているにもかかわらず、わざわざ、正しくないシミュレーション結果を発表。シミュレーション結果が正しくないことが論文提出時にはわかっており、だからその発表を取り下げたらよかったのに、なぜか、それをしなかった。

なお、北海道庁は、このニュースが流れた直後に、この汚染地図は観測事実と大きく違っていると記者発表をしました。観測事実の集積が4月からあったので、すぐにこのシミュレーションの誤り(少なくとも北海道に関しては)を指摘できたのでしょう。彼らの動きは速かった。

すでに4月下旬に以下のようなものが北海道庁からは公表されており(原文はこちら)、測定各地のセシウム137の濃度は4.5~9.9 ベクレル/kg。上記公表地図でいえば、ブルー表示(100~250ベクレル/kg)されている北海道東部でいちばん汚染のひどそうな地域の実測値が8.8ベクレル/kgなので、その図で使っている色だと下から2番目の淡いパープルを塗らないと実態と合わない。つまり、シミュレーション値は、実測値の11.4倍から28.4倍という大きなものとなっています。

北海道各地の実測値にもとづいて北海道を色付けし直すと、「近畿地方+四国地方」とほぼ同じ色の感じになります。それを簡明な文章表現にすると「いずれの場所でも過去3年の環境放射能水準調査結果を下回りました。」ということです。すぐ下の『・・・』部分は、4月下旬の調査結果の一部を引用したもの。

『平成23 年4 月28 日公表  北海道農政部

●本道での農地における放射性物質モニタリング調査結果(第一回)

東日本大震災により、東京電力福島第一原子力発電所で事故が発生したことから、道内農地の土壌への影響を確認するため、モニタリング調査を実施しています。今回の調査結果は、以下のとおりです(浜頓別町分を追加)。

いずれの場所でも過去3年の環境放射能水準調査結果を下回りました。

第一回調査結果(平成23 年4 月18~25 日)

・・・以下略・・・』

蛇足ですが、北海道の米と水産物に関しては、「北海道の水田(土壌、玄米)の放射性物質モニタリング調査結果」、「北海道における水産物の放射性物質モニタリングなどの結果」(継続更新中)をご覧ください。

■地図上の汚染分布の色使い。最後に持ってきましたが、これも重要な要素です。読者が簡単に誤解してしまうような、一般的に使われるのとは意図的に一部を変えたと思われるような色使いがされています(なお、意図的に変えたと思われるというのは、僕の憶測)。通常は「赤はヤバイ、赤に近い紫のような濃い色もヤバイ」、だから今まで安全と思っていた、安全であるはずの北海道が「濃い紫の危険色」でおおわれているので「ワー、どうしよう」ということになる。

そういう感想を述べたブログからの無断引用で著者には申し訳ないのですが、「セシウム汚染全国マップ」というキーワードで検索した時に最初に現れた2つのブログから関連部分を勝手に引用させていただくと(『・・・』部分)、

『意外や意外。
北海道や中国地方、岐阜や青森等もひどいんですね。。』(おそらく長野在住の方のブログ

『さて、本題ですが、15日に「セシウム汚染全国マップ」が公表されました。
我々は、一体この先どうすれば良いのでしょうか??』(北海道在住の方のブログ

と、いった具合です。

この論文は英語で書かれ、PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) に掲載されているので、海外のほとんどの読者はおそらくこの地図をそのまま貴重な情報源とみなすのでしょう。日本語のできる読者がその中にいて、念のために北海道庁のホームページを見に来て実測データと比較し、シミュレーションの間違いを発見するとはとうてい思われない。そういう意味でも、「本物の風評被害」を生んでいる(であろう)論文です(当該論文はこちら)。

人気ブログランキングへ

|

« 「オーボーな自転車に対して、うれしいニュース」の、その後 | トップページ | 柿の木と杉の木 »

畜産物など」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

農産物」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1317632/43140898

この記事へのトラックバック一覧です: セシウム汚染全国マップと風評被害:

« 「オーボーな自転車に対して、うれしいニュース」の、その後 | トップページ | 柿の木と杉の木 »