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2012年1月24日 (火)

米粉用のお米は安く、パン用の米粉は高いという不思議

米粉用のお米の販売価格が低迷しているそうです。理由は、米粉を使った食品が売れないので、米粉が売れない。製粉会社の倉庫は米粉用のお米の在庫であふれている。製粉会社はこれ以上は米粉用米を買えない。米粉用米の供給が需要を上回っている。米粉用米の価格が下落し、そしてそのまま低迷中、ということのようです。

わかる範囲で米粉米や米粉に関する事実の確認をしてみます。

なお、米や米粉の値段に関しては、パッケージ係数(5㎏入りパッケージと2㎏入りパッケージの値段をくらべると、1㎏当たりの値段は5㎏入りの方が安いが、その相関係数)を考えずに単純比較します。また、ここでの数字は消費税は含みません。単位はすべて1㎏。

◇ つぶさに調べたわけではないが、ザッザッと見渡しても、デパートやスーパー(の中のパン屋)で米粉パンはあまり見かけない。以前テストマーケティング的に販売していたあるチェーン経営のパン屋からも、米粉パンが消えた。しかし、パンを小規模にあるいは特定地域でのみ製造・販売している街のパン屋では米粉パンが人気商品という場合はある(関連記事は「お米(コメ)のフランスパン」)。また、ある知り合いは、ピザ風味の米粉パンを近所のパン屋さんから、毎週、買っている。食べる機会があったが、なかなかにおいしいパンである。

◇ 家電量販店に家電製品の消耗部品を買いに行ったついでに、同じフロアーの店員にお米(粒)でパンを作るホームベーカリーの売れ行き状況を尋ねてみたら、「最初の機種を買えなかったお客様が改良機に殺到されたので、納品まで少しお待ちいただく状態だったのですが、お正月過ぎからやっと少し店頭在庫が持てるようになりました。今だと即納できますので、ご購入はお早めに。」という返事。米パンのファンからの引き合いは堅調のようである。

◇ 米粉用のお米の販売価格(お米の生産者から製粉業者への販売価格)
   ・政府が試算した販売価格:      80円/kg 
  ・2009年の実勢価格:          80円/kg
   ・2012年(2011年産米)の実勢価格: 20円/kg (低迷する販売価格)

◇ ちなみに、政府が製粉会社に売り渡す「輸入小麦」の価格(2011年10月~2012年3月)は、58円/kg。

◇ 米粉用のお米の生産量と収量について。2008年の生産量は566トン(作付面積は108ヘクタール)、2011年の生産量は40,311トン(作付面積は7,324ヘクタール)。3年間で大幅に増加。10アール当たりの平均収量は2008年が524㎏、2011年が550㎏。政府の米粉用米の10アール当たり試算収量は530㎏。なお、普通の食用米の10アール当たりの平均収量は530㎏なので、今は、米粉米が多収というわけではない。

◇ 米粉パン向きの米粉で、現在、消費者にいちばん人気のあるものの小売価格は、667円/kg(小麦グルテンなどを含まない米粉だけの小売価格が900g袋が2個で1,200円、つまり1.8㎏で1,200円なので667円/kg)。なお、小麦グルテンをミックスしたものは、722円/kg。

◇ 米粉用のお米と米粉の流通経路は、以下のようになる。この中で、たとえばストレートな米粉の場合だと、価格は、お米の80円(ないし20円)がパン用米粉の667円へとその経路の中で付加価値をつけながら上昇していく。

(1)米粉用のお米の生産者(農家)
         ▼
(2)米粉製粉会社(米は硬いので、製粉技術は小麦よりも難しい)
         ▼
(3)大規模なパン屋、小規模なパン屋、あるいは、米粉を米粉パンやお菓子用の米粉として付加価値をつけた形(小麦グルテンや食用油脂などをミックス)で消費者に製造販売する食品会社
          ▼
(4)上記(3)に応じた小売り流通チャネル
          ▼
(5)米粉パンの消費者、あるいは(ストレートな、ないしは付加価値付きの)米粉を買ってパンを焼く消費者

以上から見えてくるのは、「米粉(こめこ)パンと米粒(こめつぶ)パン」でも述べたように、米パン(米粉パンと米粒パン)が、ニッチ市場は確立したけれども、それ以降の展開が描けなくてうずくまっている様子です。

日本のパン好き、とくに自宅でパンを焼くのが好きな人は、小麦粉パン一辺倒という方向の方もいますが、小麦粉パンと米パンの両方の良さを楽しむのがおそらく好きなので、だから、朝ごはんに両方を週替わりで食べるとなると、材料コストと材料の種類を考え、「小麦粉」パンと「米粒」パンの組み合わせに落ち着くのでしょう。そこからは「米粉」パンがはみ出ています。風味の良さがあるとはいえ、米パンのために高価な「米粉」をさらに用意するのは家計の負担になります。

米粒(および最近は冷ご飯)を使ってパンを作るホームベーカリーの最初の1年間の売上台数が当該メーカーの発表によれば16万台なので、その勢いが少し衰えながら継続するとして、3年間で40万台。3年ごとに買い替え需要が発生し40万世帯が安定して米のパンを食べ続けると考えると、平均家族数はだいたい3人なので自宅で焼いた米パンを楽しむのは120万人。家計数でも人口でも日本全体の1パーセント弱ですが、この人たちが米パンの消費基盤人口となります。

パンはパン屋で買うものというタイプの消費者にとっては、ニッチな商品領域(この中には、小麦アレルギーで小麦粉パンを食べられない子供向きの米粉パンなども含まれる)を別にすれば、選択基準は、値段と味。この層が、「消費基盤人口」の上に重なって需要者層を形成します。小麦粉パンに匹敵するお手軽価格と納得のいく味の両方がそろった米粉パンが見あたらないので、最初のもの珍しさ需要が一巡したあと、また小麦パンに復帰したというのが、この消費者層の現在の状況なのでしょう。逆に、値段と味が納得のいくものなら、米粉パンはニッチ商品で終わることはない。

ウイスキーにもスコティッシュウイスキー(スコッチ)やアイリッシュウイスキー、アメリカンウイスキー(バーボン)やジャパニーズウイスキーがあり、またシングルモルト、ピュアモルト、ブレンディドとそれぞれの個性を発揮しているように、米粉を使った日本風味のしっとりパンというのも悪くありません。パンの世界もフランスのパン、イギリスのパン、ドイツのパン、インドやパキスタンのパン(チャパティやナン)と多様です。

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コメント

初めまして
 毎日米粉や小麦粉を製粉している精米所です

”パン用の米粉は高い”
 その通り!

実は、1時間当たりの製粉能率がパン用米粉は小麦に比べてとても低いのです。
 同じ規模の設備で比較すると、小麦は1時間当たり60kgの製粉ができますが、パン用米粉は1時間当たり8~10kgしか製粉ができません。
 つまり製粉加工料金が小麦に比べて3~8倍かかるのです。このため、パン用の米粉はどうしてもたかくなってしまいます。
 米から米粉への加工方法が改善されない限り安くなるのは難しいのが現状です。 
 

投稿: 田舎の精米所 | 2012年2月13日 (月) 06時09分

田舎の精米所さま

お米の製粉効率と小麦の製粉効率を比較したデータをご提供いただき、ありがとうございます。

ベストセラーになっている「家庭用『米粒』パン焼き器」でも、米粒を直接製粉するのは家庭用電気機器のレベルだと米粒が硬すぎて無理なので、炊いて柔らかくしてからミルするというように、方式を変更してやっと製品化に成功したと聞いています。

お米の製粉加工料金が、小麦と同程度かあるいは1.5倍くらいまでだと、お手頃な米粉や米粉パンが消費者に届くと思いますが、お米は製粉時間もかかるし製粉設備にもお金がかかるので、小麦粉との競合が難しいのがやはり現状ですか。

需要が伸びている分野では技術革新の速度は高いのですが、パン用米粉は今後の需要が不透明な分野なので、製粉機メーカーとしてもお米の高度製粉技術に開発費を回せないということでしょうか。

投稿: 高いお米、安いご飯 | 2012年2月13日 (月) 11時31分

そうですね
 工場で作るパン用と限定してしまうと確かに高度な製粉技術が必要となりますが、家庭用であればご飯を利用しますので製粉の必要はありません。
 もっと身近に米粉の利用を普及すれば消費は増えますし、高度な秘術が必要な米粉は家庭用としてはいりません。細かすぎる米粉は家庭での取り扱いが難しく、いろいろなものに利用しにくいのです。一般の家庭で使う米粉なら安く済みますから、小麦粉の1~2割高で利用できます。

 私が営業している地区では米粉の利用が比較的多く(人口3万人の町で年間10トンの米粉を製粉します)、米粉をよく使う家庭では年間30kg~40kgぐらいは使います。これは、身近に米の粉を作る製粉所があり、昔からの米粉の利用方法が今も受け継がれているからです。

 多くの地域では米粉そのものと疎遠になっています。これは昭和40年代からの政策にっよて地域の製粉所が次々と廃業に追い込まれ、それとともに食文化も消えてしまったからです。これが米粉の消費の増えない大きな要因です。

 それぞれの地域で米粉を利用する食文化の発掘をすること、気軽に製粉できる場所があることが本当の消費拡大になると思っています。
 
 
 
 
 

投稿: 田舎の精米所 | 2012年2月23日 (木) 11時30分

田舎の精米所さま

再びのコメント、ありがとうございました。

米粉や麦粉を使った食べ物(たとえば、お菓子)は、最近の一般の家庭ではほとんど作らなくなりました。しかし、そういう食の文化が生き続けているような地域(「田舎の精米所」さまがお住まいになっているような地域)では、年間に30㎏~40㎏も米粉を消費するほどのおいしい食べ物が健在ということですね。

僕が書いたブログ記事の中で米粉(うるち米の粉ともち米の粉)や麦の粉(ただし、大麦の粉)を使ったお菓子の記事をさがしてみたら2つ、ありました。

ひとつは、2010年4月27日の「草もち」、これは上新粉と白玉粉を使ったおもちとダンゴの話。

もうひとつは、2011年2月21日の「炒った大麦の香ばしい粉」、こちらは大麦を炒って焼いた「はったい粉」で作る練り菓子の話。

我が家でも、伝統的な米粉や麦粉は季節の家庭イベント用になったようです。

今週末は、我が家でもお赤飯を用意しますが、我が家で食べるためではなく、近所の大学受験生(女の子)の合格祝いのためです。もち米もこういう時でないと家庭では使わなくなりました。近所の米屋で「きたゆきもち」という北海道産のもち米を売っていたので、今回はそれを使います。

投稿: 高いお米、安いご飯 | 2012年2月23日 (木) 19時30分

はじめまして。
米粉について調べている学生です。

米粉用のお米の販売価格(お米の生産者から製粉業者への販売価格)
  ・政府が試算した販売価格:      80円/kg
  ・2009年の実勢価格:          80円/kg
  ・2012年(2011年産米)の実勢価格: 20円/kg (低迷する販売価格)とありましたが、

実際は米粉の価格は上昇にあると思います。
震災で加工用米が高騰しているとの記事もみました。

自分自身、米粉の仕入れ(流通)の勉強をしているため、
どこからの資料を引用されたのか教えていただければ、勉強になります。
よろしくお願いいたします。

投稿: 米粉大好き | 2012年10月26日 (金) 15時46分

「米粉大好き」様、コメントをいただきありがとうございました。

自己紹介によればあなたは学生なので、学生さん向きの返事をいたします。冷たいところもありますがご理解ください。私は自分のブログ記事の中では、参照したデータ・引用したデータに関してはそのソースを大雑把にでもできるだけ書くことにしているのですが、ここでは書いてないようです。申し訳ありませんでした。

『政府が試算した販売価格:80円/kg 』と『2009年の実勢価格:80円/kg 』については「農林水産省」のホームページを調べてください。比較的簡単に見つかると思います。それから『2012年(2011年産米)の実勢価格: 20円/kg (低迷する販売価格)』については2012年1月前後の「日本農業新聞」のバックナンバーに目を通して見てください。関連記事が見つかると思います。米粉米生産農家への補助金分を相殺しようとする流通からの圧力があれば、これは米粉米に限りませんが、短期的には実勢価格は下がります。

「米粉大好き」様は、『実際は米粉の価格は上昇にあると思います。 震災で加工用米が高騰しているとの記事もみました。』とお書きになっていますが、そうかもしれません。米粉に限らず、お米の卸売価格は複数のパラメーターが影響して去年よりも少し高くなっています。ご自分でパンでも焼いてみたらわかると思いますが、パン用の米粉の消費者価格はパン用の小麦粉と比べると以前と同じ程度にあいかわらず高いので、換言すれば、以前と同じようにとても高いけれども以前よりも高くなったとは思われないので、「生産者-流通チャネル-消費者」というサプライチェーンのなかの「生産者-流通チャネル(1次チャネルと2次チャネル)」という部分で綱引きというかパワーバランスに変化が生じているだけなのかもしれません。ご自分でお調べください。

投稿: 高いお米、安いご飯 | 2012年10月26日 (金) 23時30分

返信ありがとうございます。
事細かに説明してくださりとても参考にもなりました。

昨日一日かけて米粉の流通や農業新聞のバックナンバーを探してました。

しかし、「米粉生産農家への補助金分を相殺しようとする流通からの圧力・・・・」の意味がよくわかりませ。
あと「米粉に限らず、お米の卸価格は複数のパラメーターが影響し・・・」との文言もちょっとわからなかったです。
自分なりに調べては見たののパラメーターがどのように価格に影響しているのか、わかりません。

以前と同じように高いけれども以前より高くなくなったとわ思わないというのはわかります。
それと同じことなのでしょうか??

自分で調べてもわからなかったので返信しました・・・。

投稿: 米粉大好き | 2012年10月30日 (火) 08時46分

「米粉大好き」様、以下はご参考まで。

【その1】

「米粉商品の売れ行きが悪いのでもっと小売り価格を下げたいのですが、米粉の価格面でのご協力をお願いできますか」
「ぎりぎりの線で納めさせてもらっているので、これ以下では無理です。」
「政府の特別補助金があるでしょう。それを一部吐き出していただいたら生産者側としても何とか対応できますよね。」
「うーん。」

【その2】

「米国の旱魃などで世界の穀物需給が逼迫しているのでその影響が日本の米(コメ)にも確実にやってくるはずだ。今年は米でほどよく儲けたい。米は去年よりも豊作。当面、生産者から多めに仕入れて在庫。全般的な穀物需給を見て流通に回す分を絞りながら、価格を高めに維持し続けること。OK?」
「OK.」


投稿: 高いお米、安いご飯 | 2012年10月30日 (火) 18時51分

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