野菜と果物と魚と「つゆの素」

当節の人気野菜のキーワードは「あまくておいしい」「調理が簡単で食べやすい」ですが(「野菜と消費者の好みの変化と生産者」)、この傾向が野菜だけにとどまるということは普通はないので、だから果物も「食べやすい」「甘い」ものが好まれています。
皮を剥くのは億劫だ、種を取り出すのも面倒だ、ということになると、種がなくて皮ごと食べられるものに人気は収斂していきますが、その代表がブドウの「シャインマスカット」。「皮ごと食べられる高級白ブドウ」といった宣伝文句で販売されています。しかし、ミカンやリンゴ、梨、柿などの人気も種類によっては高いようなので、皮を剥く作業に関してはとりあえず妥協して、あとは甘くて種がない(あるいは、ほとんどない)ものが求められる。だから、ミカンだとオレンジ色の「せとか」に人気が出るのでしょう。もっとも、皮を剥くのが簡単で種のない甘い果物であるところのバナナの人気の度合いは、中位くらい。「食べやすい」「甘い」以外のパラメーター、たとえば、果物なのでちょっとした高級感がある方がいい、の影響を受けているのかもしれません。このあたりの事情は、よくわからない。
魚も同じで、肉の料理にくらべて魚の料理は準備も後片づけも面倒くさいので、家庭料理としては魚を食べなくなっているようですが、回転寿司の人気をみると、日本人が魚嫌いになったわけではない。「あまくておいしい」「調理が簡単で食べやすい」というキーワードの延長線上にあるのは、回転寿司の「まぐろ」。魚の嫌いなはずの子供が大好きな一品です。
少し古いデータですが、家庭で魚を食べない理由の調査があります(水産白書、平成18年)。やや私見をまじえてグラフの内容を要約すると、「子供と配偶者が魚が嫌いなので主婦の私は魚の料理は作らない、調理も大変だし、焼くとにおうし、骨はあるし、後片づけもうんざりするので、魚には手を出さない。でも家族で回転寿司に行くのは、大好き。片づけなくていいし、お寿司の魚に骨はない。」
スーパーなどでも味付きというか、そのまま台所でグリルするところまで準備されたサンマなどを、旬の時期にはよく見かけました。「そが上に青き蜜柑(みかん)の酸(す)をしたたらせてさんまを食ふ」そういうサンマではなくて、洋風ソテーの対象としてのサンマ。ただし、それをやり過ぎると、「肉より割高だから」と、さらに敬遠されるかもしれません。
野菜などの食材の「あまくておいしい」「調理が簡単で食べやすい」は、食べること全般に波及してもおかしくない傾向です。そう思いながら、「シリコン・スチーマー」がおまけになっているところの「ムック誌」をパラパラやっていると(「続・雑誌のおまけの『シリコン・スチーマー』」)、その裏表紙に、「調理が簡単で食べやすい」を地で行く複合調味料の宣伝がありました。当然ですが、この雑誌の性格とぴたりと合っています。
一般小売チャネルの消費者を意識した、わりに良心的なつくりの複合調味料のようで、そのコピーを引用すると「国内産のかつお節と昆布のだしがたっぷり! さらに保存料・着色料無添加。□□□□の『つゆの素』は、和洋中華をはじめ、毎日のお料理に使える万能調味料です」とあり、その応用例に、春菊のおひたし、炊き込みご飯、和風マカロニグラタン、筑前煮の写真が並んでいます。素麺(そうめん)のつゆには当然これを使うのでしょうが、出汁(だし)の重要さは分かっているが毎日の出汁引きに時間をかけたくない人、子供のお弁当作りで忙しい人、それから出汁を引くとは出来合いの液体をドボンと注ぐことという信条の持ち主にも便利だと思われます。
大げさにいうと、食事を作る費用のけっこうな部分が出汁(だし)を引くことにかかわる費用だといえなくもないので、「つゆの素」は調理を簡単にするだけでなく、家計のコスト削減にも貢献しているのかもしれません。
もっともそうなると、たとえば、絞って粗濾し(あらごし)したスダチ汁、醤油、煮切り味醂(みりん)、米酢、そして、かつお節と昆布(利尻昆布)を1か月くらいガラス瓶に詰めて寝かしておき、そのあと昆布を取り除きかつお節を濾(こ)して、また瓶に詰めると出来上がるところの「自家製ポン酢」は楽しめない。また、ポン酢の完成時に、ガラス瓶から取り出した昆布を細く刻むと、買いたくても買えない種類の貴重な酒の肴になるのですが、これも楽しめない。
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