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2012年4月24日 (火)

糠漬けを作る人と漬物を買う人の感性の違い

糠(ぬか)漬けや漬物は発酵食品のひとつです。自宅でキュウリやダイコン、ナスやニンジンを季節に応じて糠漬けしている方と、そういうものは食品会社が作ったものを買ってきて食べるという方とでは、食べ物に関する感性がずいぶんと違うようです。

ここでは、醗酵食品を微生物や酵素の働きでおいしく熟成した食べ物と広く考えます(厳密には醗酵とは微生物の作用をさすことになっていますが、ここでは気にしない)。週末の夜などに、発酵させた食べ物に関する記事やブログをインターネットで拝見していると、「作って食べる人」と「買ってきて食べる人」の感性の差が、たとえば、醗酵させた(ないしは、熟成させた)食べ物の安全性に関することにまで大きく広がっている様子です。

自分で作る人は、自身の感性も重視していて、つまりは、醗酵食品が腐っているかどうかなんて「くんくん」すれば見分けられる。買ってくる人は、自身の五感にはあまり自信がないので、食べ物が信頼できる環境でつくられたかどうかを気にする様子です。信頼できる環境とは、たとえば、HACCP認定施設。

HACCP(この5文字は通常は「ハサップ」と発音することになっている)とは、食べものを対象とした工程管理・品質管理の考え方・手法のこと。Hazard Analysis Critical Control Pointの略で、モノの本では『食品の原料の受け入れから製造・出荷までのすべての工程において、危害の発生を防止するための重要ポイントを継続的に監視・記録する衛生管理手法』と説明されています。だから、HACCP承認施設(食品工場など)で製造された加工食品は安全だということになっています(ただし、必ずしもそうではないことを示す事例は、まれに発生。たとえば冷凍ギョーザ。)。

しかし、HACCP管理されたらおいしい食品が出来上がるかどうかは、別の話。添加物などを使わない伝統的なつくりのものであるかどうかも、別の話です。

「イカの塩辛」という食べものがあります。原材料はイカ(イカの切り身と肝臓)と塩だけなので、伝統的なつくりのそれの原材料欄には「イカ、塩」としか表示されない。そういう作りのものは、イカの酵素を働かせながら有害な微生物(有体にいえば、バイキン)の繁殖を抑えるために、必要量の塩を投入し、時間をかけて熟成させているのでイカはまろやかで柔らかい。ただし、こういうタイプの「イカの塩辛」にはなかなかお目にかかれない。

一方、「短期促成栽培で、たいていは減塩」の「イカの塩辛」は、イカの細長い切り身に旨みや甘みを演出するアミノ酸と保存料を加えてかき混ぜたようなものなので、「そば風味の細いうどん」風の表現をすると、塩辛風味のイカの刺身ということになります。後者のタイプのイカの塩辛は、塩分を少なくして低温で貯蔵するので、設備の整ったHACCP承認施設の方が得意ではある。(「そば風味の細いうどん」とは「そば粉が30%で小麦粉が70%の蕎麦」のこと)。

味わいは別にして、両方のタイプとも安全・安心ではあるのですが、安全・安心の意味と方向が違う。「熟成栽培」の方は、添加物などが全くない自然のつくりという意味での「安全・安心」、「促成栽培」の方は近代設備の工場で管理・製造されたという意味での「安全・安心」。どちらの「安全・安心」を採るかで意見が分かれているようです。近代設備の工程管理が好きな人たちにとっては、醗酵食品を自宅で作るなどということは、途中でバイキンの繁殖なども想定されるので、相当にムボー(無謀)な行為と映るらしい。

教えられた(あるいは納得できる他者の)考え方や手続きに従ってものごとを進め、結果を生み出し、その結果を検証(反証)することは、広い意味では「科学的な」方法と呼ばれています。醗酵食品のつくり方を覚えるのも、自転車の乗り方を覚えるのも、ソフトウェア・プログラミングのやり方を覚えるのも、そういう意味では、同じ。

たとえば、醗酵食品のひとつであるタクアンを例にとってみます。

◇やり方の指示(やり方を教えられる、いい結果を出している他人のやり方をマネるなど): こういう材料(ダイコン、塩、米糠、柿の皮、鷹の爪)を使い、こういう手順でやるとうまくいく(まず、ダイコンは「く」の字や「つ」の字になるまでよく天日干しする、漬け込む際の干したダイコンと糠と塩の分量は云々、漬け込む順番は云々)。これは、食べ物の世界では、レシピと呼ばれるもの。

◇指示の了解と実行: やり方を理解し、途中の状態を確認しながらその通りにやってみる。「なるほど、こういう順番にぎっしりとつけこんでいくのか。うーん、樽から独特のいい匂いがしてきた。醗酵が順調に進んでいるようだ。」

◇結果の確認、ないし、結果の拒否: 「予定通りに、おいしいタクアンができた。また来年も作ろう。」「できたけれども、味の具合がいまひとつ。原因は?」「途中までいいと思っていたのに保存場所が悪かったのか?気になるニオイだ、ひょっとして失敗?」

ごくあたりまえの一般の家庭でも、一般的な醗酵食品・熟成食品は、簡単に「科学的な」プロセスで作れます。バイキンなどを恐れる必要はありません。「くんくん」能力がしっかりしていたら、醗酵がうまくいかなかったものはわかるし、その原因もわかる。また、そういう人は、たいていは、食品を腐らせない。

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