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2012年6月18日 (月)

「インターネットの時代では英語が世界標準言語というのは本当?」・補遺

敬語(謙譲語)に関して、僕にとっては「目からウロコ」の話です。

日本語は敬語や謙譲語が豊かな言葉です。謙譲語のわかりやすい例は、たとえば「拝」のついた「拝見する」「拝聴する」「拝受する」、あるいは「もらう」に対して「いただく」などです。「食べる」の謙譲語は、これも「いただく」。「行く」の謙譲語は「うかがう」。主体の位置が下がっています。国語文法の授業などで教えられた謙譲語の意味とは、主体がへり下り譲ることなので、ここまでは何の不思議もありません。

しかし、「もらう」や「食べる」の別の謙譲表現である「頂戴する」、それから「行く」「訪ねる」の謙譲語である「参上する」や「言う」の謙譲語の「申し上げる」となると、主体である自分の位置を下げることよりも、対象となる相手の位置を高くすることに主眼が置かれているようです。僕が記憶している謙譲語の説明はこのあたりがとても曖昧というか、このあたりの説明が欠如していました。結果として自分の相対位置が低くなるから、という以上の理由付けはなかったように思います。で、習うより慣れろ、でやってきました。

三上 章 著「象は鼻が長い」所収の「増補第二回 日英文法の比較」より目的語や対象と敬語の関係について記述された箇所を引用します。この一節を読み、敬語(とくに謙譲語の一部)に関して目からウロコが落ちる思いがしました。いちどじっくりと目を通さねばと気にかけてきたのが「象は鼻が長い」という、初版が1960年、改訂増補が1969年という今から40年ないし50年以上前に出版された本です。もっと前に読んでおくべき本でした。

<引用開始>

 世界の言語を二分して、目的語をデクノボウにする言語(あるいは主格と対格以下とをシュン別する言語)とそうでない言語とにすれば、英語はもちろん前者に属し、日本語は後者にはいる。
 日本語には「が」格と「を」格とが並行する現象がいくつもある。・・・中略・・・。
 動詞に反映する現象としては敬語法がある。動詞が尊敬の形を取るのは、「が」格が目上の人のときばかりではない。「を」格や「に」格(間接目的)に目上の人があらわれても、動詞に敬辞がつく。

  をお待ちする、 にお渡しする、 に御通知する、 に申し上げる、 を存じ上る、・・・・

 教科文法では、これらを謙譲(へり下り)の形としているが、「お」「御」「上げる」が下でなく上、謙辞でなく敬辞であることは、だれの目にも明らかであろう。
 という線に沿う改訂版は、教科書や副教科書のうちでは最も早い方だろう。(下線三上)

  『話題についての敬語の中で一つを尊敬語とすることはよいとしても、他の一つを謙譲語と呼ぶことは適切でない。ここでは、敬語の本質をより正確にとらえようとして、これを動作主尊敬語・対象尊敬語とした。これによって、従来の尊敬語・謙譲語で理解しおおせないところがより明らかになるであろう。(馬淵和夫『古文の文法』63)』

 つまり、敬語動詞にはsubjective(主格)とobjective(目的格)との二種があるというのである。・・・後略・・・。

<引用終了>

日本語では「を」格や「に」格への敬意が動詞に反映して、たとえば、『馬子がスシュン天皇を弑(しい)し奉った』(文例は「象は鼻が長い」より)という表現になります。これは古文の例(あるいは、それに類した文脈での使用例)だけれども、日本語では、現代でも、目的語を「デクノボウ」扱いにしない。目的語にいろいろと気遣いを見せて動詞表現が変化するのが日本語です。これは、前にも後ろにも気を遣いすぎて動けなくなる、その結果、意見や態度が曖昧になるという、欧米語を母国語とする人たちと較べた場合の日本人の特徴につながりますが、この「特徴」は必ずしも「欠点」というわけではない。インターネットが「測る知」とともに地球を覆ったらしい現在ではかえって「余人をもって替えがたい」長所かもしれません。

いずれにせよ、「動作主尊敬語・対象尊敬語」と「目的語をデクノボウにする言語・しない言語」という視点によって、敬語・謙譲語に関する「もやもや」のひとつが消えました。

〈【註】馬子:蘇我馬子。弑す(しいす):臣下が主君を、また子が親を殺すこと。奉る(たてまつる):その動作を行う主体が動作の及ぶ主体より下位であることを表す言葉。〉

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