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2012年11月 7日 (水)

植物工場を経営する人たちの関心領域と知の傾向

植物工場に関するセミナーを、先週、拝聴しました。3年ほど前から年に一度、札幌で開催されているものです。日本や北海道の農業に関する総論的な演説は苦手なので遠慮して、それより後の各論セミナーの時だけ席に着きます。

僕の興味と関心の領域は、次の4点です。

(1) 植物工場で栽培される野菜や果物の種類が以前と比べて増えているか、あるいは対象品目が変わってきているか。植物工場の栽培対象品目は、「レタス、水菜、サンチュ、トマト」など水耕栽培と通年栽培のできる野菜ですが、主要品目に何か変化はあるか。
(2) 最近の植物工場経営は、ビジネスとして採算の合うものになっているか。かつて話題にはなったがいつのまにか消えてしまった事業は多い。
(3) 植物工場で生産された野菜の味やおいしさ・旨みに関して、たとえば旬の露地野菜との比較といった観点で、言及されているか。
(4) そして、これは僕のないものねだり的な関心事ですが、植物工場を経営する人たちの考え方、ないしはそういう人たちの知の傾向。農業に工場経営の考え方と手法(たとえば、生産管理、品質管理、環境制御、統計解析手法、およびそれらを支援・統合する情報処理技術や自動制御技術など)を持ち込んで日本の「農業近代化」の先頭を走っていると自負している人たちの知のあり方が、たとえば半導体工場などに代表される知のあり方のサブセットでしかないのか、それとも食べ物の生産にかかわる当事者ということからくるところの、「工場」を超えた別の次元の知をいくぶんかでも生み出そうとしているのか。

紹介された栽培対象は、複数の種類のレタス、スイートバジル、ホワイトセロリやイチゴなどで従来と違いはありません。

ビジネスとしての採算性や生産効率に関する考え方は、チャネル戦略を含む経営管理面や財務管理面からのアプローチと生産管理面(たとえば通年栽培で平準的な生産計画)や制御技術面からのアプローチで、セミナー事例に関する限りは、非常にすっきりとしたものになっています。政府の補助金利用という側面は残ってはいますが、他の産業でも政府の公共支事業に依存する度合いは高いので、この文脈ではそのことは気にしません。

植物工場は、そこで栽培されている野菜などの安全に関するメッセージの放出には従来から熱心です。しかし、植物工場の野菜や果物のおいしさ・旨みについてのメッセージは、僕は寡聞にして知らない。ここで野菜のおいしさ・旨みとは、「旬の露地栽培の野菜や果物は元気でおいしい」という意味でのおいしさや食味のことです。主な出荷先がコンビニチェーンやレストランチェーンやチェーン経営の焼き肉屋といった大量の業務用需要を持つところなら、高い優先順位は、おいしさよりも、通年栽培・安定供給・価格の方に置かれます。

ある農業法人の代表は、医者と薬剤師の能力を持った農家が今後の農家の目標という趣旨のことを述べておられました。確かに、野菜の効率的な育成と制御をめざす植物工場農家の目標としてはその通りではあるのでしょうが、患者に薬を飲ませて患部を切り貼りするのが近代医学(再生医療もこの範囲を出るものではありません)の知の特質なので、食べ物というものを生産する農家の目標としては、これはないものねだりになるのかもしれませんが、いくぶんさびしいものがあります。

植物工場の関心領域を、「食と農業と3種類の知(智)」という枠組みの中で位置づけてみると、以下のようになると思われます。3種類の知(智)とは、「測る知」、「思考し共感する知」、そして「黙想する智」。

ほとんどの職業が「測る知」の中で充足することを余儀なくされているという環境の中で、農家は「測る知」と「思考し共感する知」の両方を同時に持てる可能性の高い職業ですが、「植物工場」は、工場という名前の通り、「測る知」だけで充足する方向を選んでいるようです。「測る知」に集中して過度なまでのビジネス効率を追及しているのが、種子と農薬の抱き合わせ販売というビジネスモデルをもったGM(遺伝子組み換え)作物の開発製造会社で、商品であるGM種子のトラッキング機能も充実しています。

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