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2013年1月15日 (火)

『聡明な女は料理がうまい』

手元の『聡明な女は料理がうまい』という本は2012年9月の発行で、先週、書店の通路を歩いているときに、いい匂いでも漂いだしていたのかその本の前にふわふわと引き寄せられました。この本の成り立ちを読むと、最初は1976年に出版され、その後1990年に文庫本となり、今回その文庫本をもとに一般サイズの本として復刊されたそうなので35年間のロングセラーということになります。

「私は料理をしたことがないけれども、あるいは、私は料理がへただけれども、実は聡明なので、だから料理がうまくなるように運命づけられている」とでも考えた多くの女性が買い続けたのかもしれません。料理を上手になりたいという女性の年齢層は幅広いし、料理のやり方を知らない高学歴の若い世代も次々に登場してくるので、潜在的購買層にはこと欠かない。

この本(最初の「聡明な女は料理がうまい」)を出版した時の著者は40歳のわずかに手前だったので、そういうことも影響しているのか、この本が一番役に立つのは、30歳から40歳くらいの料理にほとんど自信のないワーキングウーマンか同じ年代の料理が得意でない家庭の主婦という気がします。彼女らがたどりついた避難先がこの書物だったのかもしれません。でも、この避難先はさほど甘くない。

Kit Oisix

料理レシピ・料理方法や調理道具、各国の食文化に関する記述は現場仕込みでじつに興味深いのだけれど、僕にとってそれ以上に面白いのが、学校や家庭では教えられないキョウヨウ講座的な部分。僕の云うキョウヨウ講座的な部分とは、たとえば以下のようなものです。

(外でバリバリ働く有能さと台所仕事とは)『時間や何かの問題で、物理的にはしばしば矛盾するけれど、能力としては全く矛盾しないわ。私はね、すぐれた女は必ずすぐれた料理人であるという断固たる偏見の持ち主なの。それはすなわち、料理のへたな女はダメな女でもあるということ。』

『ふだんは仕事が忙しくてきわめて手短な料理しかしない人が「きょうだけは徹底的に料理人だゾ」と思い決し、朝早くからソワソワワクワクと仕込みにかかり、心おきなく時間をかけて凝りに凝った本格的な料理で友だちを感嘆させるのだ。これほどぜいたくな休日の利用法がほかにあるだろうか。』

『それになるべくなら、作りざましを暖めるより、そのとき新しく焼いたり煮たりしたいものである。とくに焼きざましなんて絶対許しがたい。夜まで一生懸命働いて帰ってきた亭主が、蠅帳【引用者註:読みは、はいちょう、ないし、はえちょう。ハエ防止に引き戸に網を張った家具形式のものと、折り畳み式の網の食卓覆いがあるが、ここでは文脈から後者】かぶせた冷たい焼き魚に迎えられたりしたら、茶ぶ台足蹴(あしげ)にしてひっくり返してやりたくなる。(・・略・・)食事のしたくはいっぺんですまそうなどという貧乏ったらしい根性を助長するような“電子温め直し器”【引用者註:電子レンジのこと】には、どうも好意を持てないのである。』

そして極めつけは、食事も『ほんとうにひとりでは張り合いがないし、1人分なら作るより外から買ってくるほうが安上がりなことから、私もしばしばでき合いですませるが、いつもいつもこれをやっていたらたちまち堕落するゾとみずからを戒める。いなりずしやのり巻きや握り飯が毒々しい紅しょうがとプラスチックの笹の葉で飾られた“お弁当”を買ってきて、テレビの昼メロの前にどっかりすわり込むことに恥を覚えなくなったとき、その人は確実に堕落の道を歩み始めているのだ。』

聡明で料理のうまい女性が、そうでない女性(聡明度は別にして少なくとも料理のへたな女性)に対して書いているので内容がきつめのトーンになっているところがあるかもしれませんが、僕の経験に照らし合わせても、料理のへたな女性、あるいは料理が下手なんだけれどもその自覚がない女性、あるいは料理が下手であるにもかかわらず自分ではうまいと思い込んでいる女性は、独身であるか結婚しているかにかかわりなく会話も退屈なことが多い。そういう女性の作った料理を、その女性をまじえ何人かで食べるような羽目に陥ると、まずい食事とつまらない会話(自分の仕事や自分の身の回りの話題ばかりで意味がよく分からないし、会話が動きのある流れにならない)の音の外れた二重奏で、食事の最中のイライラを抑えるのにとても苦労します。

料理のへたには二種類あって、見かけも味つけもへたなのと、それから、見かけだけは格好をつけようとして頑張っているのだけれど味がその頑張りを台無しにしてしまいけっこう悲惨な状態になっているタイプのへたに分かれます。後者のタイプの方が、主婦であったのが別居などして独り暮らしを始めて生活から緊張感がなくなると、それまで頑張っていた料理の見かけの方も崩れてくるようです。

そういう方向にすでに走り始めている方、あるいはその予備軍かもしれないという自覚のある方には、この本が役に立つかもしれません。

関連記事は『カット野菜と「姥(うば)捨て山年齢・症候群」』。

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