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2013年1月29日 (火)

続・気になる本を本棚から取り出して(「自由からの逃走」)

家庭を持った40歳台の会社勤めの中間管理職のビジネスマンを想定してみます。勤務する企業規模は気にしない。彼は、政治面・経済面・社会面の情報ソースが相当に限定されていると思われます。彼に限らず、普通に会社勤めをして仕事中心の暮らしをしているとそうなることが多い。

朝の電車や出勤前のコーヒーショップで読む新聞は、紙媒体か電子版かは別にしてデフォの経済新聞。夜は月曜から金曜は、顧客との食事や部下とのつきあいがある日は除いて、毎日午後9時半過ぎに帰宅。着替えた後、ちょうど時間帯が合うので10時頃からのテレビの報道番組でも見ながらひとりで遅めの晩ごはんを食べる。家族はすでに晩ごはんを済ましているので、奥さんが暖かいおかずをひとつはちゃっちゃっと用意してくれる、お味噌汁をよそおってくれる、食事中に、テレビの音と重なって子供の学校の相談などをもちかけてくるということがあるかもしれないが、ひとりで食べる晩ごはんではあります。夜9時半過ぎの帰宅なので、忙しいビジネスマンではあるが、毎日の帰宅が深夜というほどには忙しいわけではない。職位がもっと上になれば、あるいは同じ中間管理職でも、帰宅は毎日日付変更時刻あたりという方も少なくない。もっとも「9時半過ぎ」の彼も、寝る前に時間帯の違う地域からのメールに1時間ほど目を通すかもしれないので、その場合はけっこう忙しいともいえる。

経済関係・商業関係の情報は、日々の仕事を通してユニークな性格のものに接触する機会が多いとしても、それらは経済界や業界に関するものか、あるいは、特定の企業群についてのものがほとんどなので、その内容が経済新聞記事などの一般論をはるかに突き抜けた射程距離を持つにしても、それらはやはりミクロ情報です。情報の性格、情報が持つ視点や視野が制約されているという意味でミクロです。だから、政治・経済・社会にかかわるマクロ情報は、物理的な時間の制約という事情によって、信用できそうなマスメディアから発信されるコンテンツやメッセージに依存することになります。彼の地位がかりにトップマネジメント層にあっても、同じ情報から引き出すことのできる経営についての洞察の深さに差は出てくるものの、範囲の制約された情報ソース、ないしは、一度意識的にスクリーニングされた情報に依存しているので、そのことによって本質的な差は生じません。また、そのことによって、短期的に日常のビジネスに不都合が生じるわけでもない。

だから、マスメディアでは報道されない情報、マスメディアとは別の視座で捉えられた情報に意識的に接することによって、欠落している情報の穴埋めをするか、複数のソースの情報の持つ矛盾点の整理や再構成を自分の手で行わないと、結局は「世論調査の結果としての世論」や「グローバルスタンダード」なるものに上手に流されていくか、あるいは、時代のトレンドとしての「世論」や「グローバルスタンダード」を利用するためにそれに上手に乗っていくことになります。流されていること(あるいは、それに乗って移動していること)をつねに自覚できていればいいのですが、その事実を忘れてしまうことも多い。

「流されていること(あるいは、それに乗って移動していること)という事実を忘れてしまうことも多い」という状態とは、それをたとえば以下のような文脈にあてはめてみれば、それは無自覚や失念ではなくて、何かから無意識に(あるいは、無意識のふりをして)離れようとしていることかもしれません。

『自由をえたいという内的な欲望のほかに、おそらく服従を求める本能的な欲求がありはしないだろうか。(・・中略・・)世論のような匿名の権威にたいする服従が存在するのだろうか。』『□□□□の成功の心理的基盤を考えるとき、まず最初につぎのことを区別しなければならない。すなわち、一部のひとびとはなんら強力な抵抗をなすこともなく、しかしまた、□□のイデオロギーや政治的実践の賛美者になることもなく、□□政権に従った。他の一部のひとびとは新しいイデオロギーに深く惹きつけられ、その主張者たちに熱狂的に結びついた。(・・中略・・)より大きな集団と合一していないという感情ほど、一般の人間にとって堪えがたいものはないであろう。』(エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』<日高六郎・訳>より。)

該当する状況をいろいろにシミュレーションできるように、上記の引用は、もともとのカタカナ翻訳語を□□ないし□□□□で置きかえました。だからその複数の□に、たとえば、グローバルスタンダードという用語を挿入することも可能です。そして、これは翻訳者には失礼なのですが、訳語を二箇所だけ少し柔らかい表現に変更しました。「屈服した」を「従った」に、そして「狂信的」を「熱狂的」に。

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