伊勢と出雲の幣(ぬさ)、そして国というものについての雑感(その2)
以下は吉本隆明の「共同幻想論」という、初版が昭和43年(1968年)に出版された刺激的な書物からの引用です(罪責論)。(引用は≪・・・≫部分)。
≪スサノオは『古事記』の神話で国つ神の始祖とかんがえられている。いいかえれば農耕民族の祖形である。「高天が原」を統治するアマテラスが、神の託宣の世界を支配する<姉>という象徴であり、スサノオは農耕社会を現実的に支配する<弟>という象徴である。そしてこの形態は、おそらく神権の優位のもとで<姉妹>と<兄弟>が宗教的な権力と政治的な権力とを分治するという氏族(または前氏族)的な段階での<共同幻想>の制度的な形態を語っている。そしてもうひとつ重要なのは、<姉妹>と<兄弟>とで<共同幻想>の天上的および現世的な分割支配がなされる形を借りて、大和朝廷勢力をわが列島の農耕的社会とむすびつけていることである。≫
≪スサノオはのちに(「高いお米、安いご飯」の註:<妣(亡き母:イザナミ)の国>へゆきたいとごねてアマテラスから追放されたのちに)アマテラスと契約を結んで和解し、いわば神の託宣によって農耕社会を支配する出雲系の始祖に転化する。これは巫女組織の頂点に位した同母の<姉>と、農耕社会の政治的な頂点に位した同母の<弟>によって、前氏族的な<共同幻想>の構成が成立したのを象徴しているとおもえる。≫
こういう書物から受けた刺激も、だんだんと溜まってきたなにかのうちのひとつでしょう。この著作は古代国家の成立プロセスを人々の共有する「共同幻想」というものを軸に考察したものですが、国家とはなにかという現在形の問いには、古代国家がどういう風に成立してきたのかその成立過程や成立要件、17世紀半ば以降の主権国家体制やその後の国民国家体制を基礎づける基本理念、そして、20世紀の最後の4分の1世紀あたりから急に大きくなってきた「国境を超えてグローバルに経済活動を展開するグローバル企業群」と「国民国家」の利害対立の背景分析などが含まれます。
「グローバル人材の養成」といったキーワードが「グローバル人材」とはなにかということが曖昧なまま、たとえば「グローバル人材の養成のための新しい英語教育」といった文脈でいろいろな媒体や会議で踊っているように(中小企業庁の発行する中小企業ネットマガジンといったものにも「企業の海外展開を支えるグローバル人材育成セミナー」が案内されている)、「グローバル企業と国民国家の『対立』」という現れ方はあまりしていなくて、実際は「主たるグローバル企業」の利益のために「従たる国民国家」の資産や財産(フローやストック)をいかに効率的に消費するかの方策についての議論という登場の仕方をしているようです。そしてそこにナショナリズムや国家利益というプロパガンダが絡みついているので、もう一度、国とは何か、国家とは何にためにあるのかという視点をきちんと持たないと思考が先に進みません。
僕にとって国とは主権国家・国民国家のことであり(これも「共同幻想」ですが)、国民国家の意義とは、国民の人権が法のもとでそれぞれに平等であることを保障することです。しかし、この意義は、最近では前述のように、グローバリズムや市場原理主義、あるいはナオミ・クラインが云うところの「惨事便乗型資本主義」に押されてしまって、相当に空疎化しています。
広い意味で国民国家を考えた場合、言語(つまり国語)は重要な存在です。しかし、これは法的な仕組みである狭義の国民国家の底に横たわっている生活インフラ・文化インフラであり、狭い国民国家という枠組みには収まりません。国家という文脈で言語を議論すると、政治が利害の絡んだ口出しをして言語がかえって混乱してしまうというのは、今までもしばしば見られた現象です。「グローバル人材育成のための英語教育」というプロパガンダにもそういうものが透けて見えるようです。
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