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2013年7月26日 (金)

憲法雑感

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日本における憲法という名前の付いた公的文書は、僕の知る限りは、「十七条憲法」、「大日本帝国憲法」それから現在のわれわれの憲法であるところの「日本国憲法」です。

手もとの辞書には、憲法とは「国家存立の基本的条件を定めた根本法。国の統治権、根本的な機関、作用の大原則を定めた基礎法で、通常他の法律・法令を以て変更することを許さない国の最高法規とされる」(広辞苑)とありますが、これだけではよくわからない。

憲法とは、有体に云えば、17世紀末のジョン・ロックの「統治論」以降は、政府が守るべきことを定め、政府の行動を制限した法律のことです。守るべきものは、言論の自由や集会の自由といった国民の侵すべからざる権利、つまり国民の人権です。政府は気に入らないからと云って好き勝手なことをしてはいけない。言論統制をしてはいけない、集会の自由を邪魔してはいけない。勝手に戦争をしてはいけない。そういう内容の憲法を守る義務を負うのは、まず、政府です。国民ではありません。政府を、国家ないし国家権力と言い換えることもできます。国家権力というと大げさに聞こえますが、人類の経験上、国家はなにかにつけ内に外に権力を行使したがる性格の装置なので、国家権力という表現も不適切ではありません。

憲法を「政府が守るべきことを定め政府の行動を制限した法律のこと」だとすれば、その作成者が聖徳太子ということになっている「十七条憲法」は、その内容が官僚の行動規範・仏教風の倫理規定なので(たとえば、「官吏は朝早くから夕方遅くまで働くこと。公務はゆったりできるほど暇ではない。」などという記述もあります)、国民の「人権」などという発想は当然のことながらありませんが、現代の憲法の考え方と、その点に関しては、一致しているといえるかもしれません。

「日本国憲法」は、第二次世界大戦(太平洋戦争)という国家暴力をおたがいに行使し合った後の、かつ米ソ冷戦の前という空気の中で、戦勝国である米国の軍人グループが草案した英文和訳憲法です。英文和訳憲法ですが、僕は、第二次世界大戦直後という時代の空気が、理想主義的な傾向の一部の米国人を媒体にして起草させた憲法だと考えており、その内容には納得しています。「第九条2項」に関しても、今まで通りにふにゃふにゃぐだぐだと運用し続けたらいい。生活の知恵です。内容が気に入っているので、読点(、)が続いて表現がわかりにくい、読んでいてイライラする箇所があるという欠点には目をつぶります。

米ソ冷戦を経験し、ベトナム戦争とその後のイラク侵略・アフガン侵略を推進した米国には、マクナマラ・元国防長官のようなタイプの人材は造れても、もはやこういう内容を書ける資質を持った人たちは生まれない。

ここでは余計なことですが、日本が戦争に突き進んだのはそもそも漢字が原因であると考え、日本語から漢字を廃止して日本語表記をローマ字に替えようとしていた連中がいて、彼らも米国軍人グループの一員でした。迷惑な話ですが、そうは問屋が卸さなかったので、文化の浅い国でよくベンキョーした高学歴能吏が思いついた余興と云うことにしておきます。関連記事は「『東京セブンローズ』という日本語論(その1)」、および「(その2)」。

この日本国憲法を改定しようとする活発な動きが一部の党派であり、たとえば「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党」などというものが発表されています。

改定しようとしている憲法がどのような内容のものにせよ、もっとも注意すべきは、それが、国民の侵すべからざる権利の保護という観点に照らして、政府が守るべきことを定め政府の行動を制限した規定になっているかどうかです。そうでないものは、提案者がどう説明しようと憲法ではありません。

この改正案の性格は【第十一章 最高法規】に凝縮されているようです。 (註: ここより以下、上述の改正草案からの引用部分は【・・・・】で示し、現行憲法からの引用は『・・・・』で示します。)

自民党草案では、まず、現行憲法『第十章 最高法規』の『第九十七条』(基本的人権)がそっくりと削除されています。

『現行の第九十七条』は以下の通りです。

第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。』

そして、【第十一章 最高法規】に【(憲法尊重擁護義務)】が追加されています。

【(憲法尊重擁護義務)】
【第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。】
【2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。】

憲法を尊重し守るのはまず政府ですが、それが政府ではなく国民という具合に思想が逆転しています。現行憲法では、その部分は以下のようになっています。

第十章 最高法規』『第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。』

したがって、つまり、そうしないと整合性がとれないので、『現行憲法前文』『そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。』という憲法の基底となる箇所が、【改正草案】の【前文】からはきれいに剥(は)ぎとられています。

【改正草案】では、その代りにその箇所に【日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。】といった「十七条憲法」の「第一条」のようなニュアンスの一文が置かれている。

そういう指向性を持った考え方からは、次のような「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を制限・制約するような条文(第二十一条の2項)が生まれます。

【(表現の自由)】
【第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。】
【2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。】
【3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。】

現行憲法の『第二十一条』は以下の通り。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する
『② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない
。』

つまり、たとえば、霞が関の官庁街を「原発反対」と書いたプラカードを持って金曜日の夕方に自発的にデモすることが【公益及び公の秩序を害することを目的とした活動】と解釈されたら、憲法違反と云うことになります。

また、そういう考え方は別の面では以下のような顕れ方をします。

【第二章 安全保障】【2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。】 とくに、【安全保障】の【国防軍】の項には、これが憲法の条文かというくらい国防軍についての饒舌な記述(軍事裁判の仕方まで含めた細かい記述)が並んでいます。そして、【改定草案】の【第二章】からは、以下の『現行憲法』の『戦争の放棄』に関する記述が、当然のごとくに、削除されています。

第二章 戦争の放棄

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。』
『② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない
。』

憲法とは、政府が守るべきことを定め政府の行動を制限した法律のことです。守るべきものは、言論の自由や集会の自由といった国民の侵すべからざる権利、つまり国民の基本的人権です。政府は気に入らないからと云って好き勝手なことをしてはいけない。言論統制をしてはいけない、集会の自由を邪魔してはいけない。勝手に戦争をしてはいけない。そういう内容の憲法を守る義務を負うのは、まず、政府です。国民ではありません。

それがいちばん素直に表現されているのが、『現行憲法』 『前文』の以下の部分です。

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。・・・この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。』

そうでない政府に対しては国民は抵抗権を持つというのが 今まで長い間、各国・各地域で命を含めた高い授業料を払ってきた結果の知恵です。

関連記事は、「気になる本を本棚から取り出して(「自由からの逃走」)」。

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