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2013年7月19日 (金)

農地の集約化・大規模化で収穫逓増?・補遺

農地の集約化・大規模化で収穫逓増?(その1)」、(その2)(その3)の続きです。新聞記事(日本農業新聞)に秋田・大潟(おおがた)村の大規模コメ作農家のことが掲載されていたので、ここではその内容を援用しました。

TPPを推進することが好きな人たちによれば「企業などの経営ノウハウを導入して農業や農家の経営規模を拡大し大規模農業法人や大規模農家に農業経営をまかせたら、TPPによる農産物の自由化に耐えられる」ということになっています。しかし、そういう主張や発言がなされる場合に、では、日本での適正な大規模農業とは、たとえばコメの経営耕地面積だとどの程度の広さを指すのか、そういう具体的な示唆や提案が同時に口にされることはほとんどないようです。抽象的でプロパガンダ的な意味合いの強い「大規模農業」「農業の大規模化」という言葉が繰り返されるだけです。

たとえば、標準的な意見のひとつが「農業の場合、耕作面積と生産性とはほぼ比例しており、大規模化すれば確実に生産性が上がります。・・・・確かに米国や豪州の規模を実現することは出来ないし、山間僻地では限界もあるでしょうが、わが国はそれを言い訳にしてやるべき努力を怠ってきました。」です。こういう主張をするかたに、ではどの程度の規模を目標にして農業の経営効率と農産物の味・品質や安全・安心のバランスを考えたらよろしいのでしょうかと尋ねても、まず答えは返ってきません。なぜなら、おそらくそんなことは考えたこともないので。「日本の農業はチマチマしていて、だからダメなんだ」を出発点にすると論評は楽かもしれません。応用も利きます。「日本の半導体産業はチマチマしていた。だからダメになったのだ。」

その新聞記事で言及されていたのが秋田県大潟(おおがた)村の経営耕地面積30ヘクタールの農家(水稲や小麦・大豆を栽培)。大潟村では農家一戸あたりの経営耕地面積が17.7ヘクタール。北海道の農家の平均経営耕地面積が19.3ヘクタール、北海道以外の都道府県のそれは1.4ヘクタール。だから、30ヘクタールは日本では相当に大規模農家ということになります。新潟のコメ作中心の、さる高収益農業法人の耕地面積が22ヘクタールなので、日本の場合は、20ヘクタール前後を、耕地面積で見た場合の大規模農家と考えていい。

政府の試算では、TPPによってコメの関税が撤廃されたら、米国産のコメが60キログラムあたり約7,000円で日本に流れ込むと云うことになっています。ただし、どういう銘柄のコメを想定しているかは不明。米国産のコメにはインディカ米とジャポニカ米、ジャポニカ米の中には生産量の少ないコシヒカリ系(良食味短粒種)の「田牧米ゴールド」や「かがやき」などもあれば、生産量は多いが食味の落ちる、つまり日本人の舌には合わない中粒種もあります。

同じ新聞記事によれば、その秋田・大潟村の30ヘクタール農家が「『米(コメ)を60キロ7000円で作れるわけがない。』と指摘」。現在のコメの生産費(資本利子や地代を含めた全算入生産費)は、作付け規模が15ヘクタール以上の大規模農家層でも全国平均値で60キログラム当たり11,080円。その農家の全算入生産費の詳細はわかりませんが、『7,000円で作れるわけがない』ということなので11,000円くらいだと推察できます。関連記事は「農地の集約化・大規模化で収穫逓増?(その3)」。(【註】全算入生産費は農林水産省の「農業経営統計調査・米生産費」で確認できます。)

自動車製造会社や半導体製造会社、あるいは衣料の製造小売業企業の経営経験者が経営に乗り出してお得意の生産工程や流通の管理技術を駆使しても、効率的な経営管理以外の「とんでもないこと」をしない限りは、7,000円は無理だと思われます。農産物生産には、平準化生産を支えてくれる下請け部品納入製造会社はないし、低賃金労働力を確保できる現地法人もない。

ある農業経営の専門家は、日本において農業の企業化が難しいことの背景には「企業経営の優位性を発揮できる技術が存在しない。たとえば稲作では、水田の大区画化により零細経営が排除されるも、10ha(ヘクタール)以上では明瞭な規模の経済性は認めがたい。」という事実があることを指摘しています(柳村俊介・北海道大学農学部教授「農業経営の企業化をめぐる政策動向と現実」)。

7,000円にするための「とんでもないこと」とは、食味や食の安全はとりあえず気にしないようにして、あるいは意識的に犠牲にして、生産コストの削減のみを目標にすること。そうすれば、何とかなるかもしれません。たとえば、農薬に強くて粗放農業的に放っておいても収量の多い「遺伝子組み換え品種」を農薬会社といっしょに開発する。農業向けの非正規化労働者のプールを作る。この考え方は、原子力発電の発電コストが、他の方式(たとえば天然ガス・石炭・石油による火力発電)の発電コストよりも安いということになっている比較データの説明方法の背景にある考え方に似ています。

しかし、そういうものができたとしても、そういう危ないものは実際には食べる人はいない。売れない。誰も食べないものをわざわざ作るということであり、コメ好きの日本人が自分で自分の首を絞めるということなので、経営としては成立しない。関税が撤廃になった時に流入が想定されている米国のコメも、今のところはF1品種や遺伝子組み換えではありません。(ただし、食品添加物だらけのファストフードや安い油脂を大量に使った食べものが大好きな人たちは、あるいは気にせずに口にするかもしれませんが。)

大規模農家なら生産コストのコスト削減も自在で農業の自由化に耐えられるといった、正直に云って雑駁なプロパガンダ(ないし幻想)には、僕は、与(くみ)しません。もっと上手なだまし方があると思うのですが、ありがたいことにそういうのにはまだお目にかかっていません。

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