交配種の小麦や遺伝子組み換え品種の小麦と血糖指数(GI値)
「小麦は食べるな!」という不思議なタイトルの本を配偶者が買ってあったので、好奇心から目を通して見ました。米国で出版された本の日本語訳です。裏表紙には「小麦をやめれば、病気は治る!」。翻訳者はある日本の大学のお医者さんですが、その方の書いた文章を配偶者は以前に読んだことがあり、翻訳者がきっかけでこの本を購入したそうです。翻訳者がきっかけでなじみのない原著者に出会うというのは、まま、起こります。
僕にとって面白かったのは、20世紀後半以降世界中に広がった「新しい小麦」が(他の国民はいざ知らず少なくとも)「公式の栄養摂取ガイドラインを守り、ジャンクフードやファストフードを避け、毎日1時間運動している」タイプのアメリカ人をデブにし腸の病気を作り出しているという著者の主張です。著者の若い時から中年までのデブの悲劇も「(小麦の)『全粒粉』信仰から始まった」そうです。著者は循環器疾患予防の医者なので、その結論に達することになった臨床事例は、自身のそれを含めてそれなりに多く、興味深い「仮説」ではあります。
食べ物に困っている国に住む人たちからすれば、同じ「新しい小麦」を口にしているとはいえ、遠くの場所のコップの中の騒ぎにしかすぎません。しかし、小麦自給率の低い我が国では、パンやケーキやうどんの材料に米国やオーストラリアから大量の小麦を輸入しているので対岸の火事とは云ってられないかもしれません。
「新しい小麦」とは長年にわたり交配を繰りかえしてでき上がった、環境条件に柔軟性があり栽培が簡単で収量の飛躍的に高まった小麦品種のことです。別の言葉でいえば、交配を積み重ねたF1小麦。交配を繰りかえしていたら遺伝子組み換えに近い効果が出ます。もっとも、交配だけでは穀物や豆類に特定の農薬に対する耐性(たとえば、特定の除草剤をまかれても枯れない)を持たせるのは無理で、GM(遺伝子組み換え)操作が必要になります。これは種と農薬がセットで売れるので魅力的なアグリ・ビジネスです。
小麦は、トウモロコシや大豆と違い、米国ではタテマエ上は、遺伝子組み換え品種の商業ベースでの流通は禁じられています。しかし、つい最近、一般の農場で、つまり実験農場ではない農場で、遺伝子組み換え小麦が生育しているのが発見され大騒ぎになり、だからその騒動以降は、日本では米国からの小麦の輸入を停止しています(関連記事は「米国のGM(遺伝子組み換え)小麦」)。
【註】(この部分は8月2日に追加)米国産小麦の輸入が8月1日から再開されたようです。以下(【・・・】)は、東京新聞〈2013年8月2日〉の記事から一部を引用したものです。
【遺伝子組み換え混入 未解明のまま 米国産小麦 輸入を再開】
【農林水産省は一日、米国で開発が禁止されている遺伝子組み換え(GM)小麦が見つかったことに伴い、五月末から停止していた米オレゴン州産の小麦の輸入を再開した。この小麦は国内では一部のケーキなどの製造に使われている。
政府は先月末「日米双方の検査体制が整った」として、オレゴン州産を含む「ウエスタン・ホワイト」(WW)という品種の輸入再開を決めた。GM小麦の混入を防ぐため、当面は米国産小麦の全銘柄の遺伝子検査を行う。ただGM小麦がどこから流出し、なぜ生育していたかは、まだ分かっていない。
問題のGM小麦は今年四月、除草剤をまいても枯れない品種が米オレゴン州の農場でみつかった。GM小麦は二〇〇五年まで七年間、米農業大手のモンサントが実験的に開発していたが、安全性に不安があり、開発が禁止されていた。】
インスリンは血液中のブドウ糖を脂肪に変えて体の細胞に送り込むホルモンです。血糖値が上がれば必ずインスリンが分泌されます。したがって、食後の血糖値が高ければ高いほど体内の脂肪の蓄積も増えることになります。内臓脂肪を増やしてデブになるには、食後の血糖値を高くするような(GI値の高い)食材や食品を食べたらよろしい。
GI値(グリセミック指数、ないし血糖指数)とは、ある食品が血糖値を上げる度合いを、ブドウ糖のそれを100とした場合の、その食品の持つ相対値のことです。たとえば、ブドウ糖のGI値が100であるときに、「ジャガイモ」のGI値は90、「さといも」は64、「さつまいも」は55という具合です(数値は後述の資料による)。だから、血糖値を上げて脂肪を貯めるには「ジャガイモ」を食べる方が、同量の「さつまいも」を食べるよりも効果的です。(関連記事は「食べ物に関心のうすい専門家と、酒屋のオヤジさん」、「続・『食べ物に関心のうすい専門家と、酒屋のオヤジさん』」)
ところで、下がGI値の計算式。
GI値 = (「その食品」を摂取した時の血糖値上昇曲線の面積)
÷ (「ブドウ糖」を摂取した時の血糖値上昇曲線の面積)
× 100
甘いものや精製されたものはGI値が高いとされてきました。測定値を見るとだいたいはそのようになっていますが、それほどすっきりとしているわけではありません。下に、複数の資料からのGI値を「全粒粉パン」を軸にいくつか並べてみます。
参照したのは、永田孝行著「もって歩くGI値」所収の食材別GI値リスト、および。Harvard Health Publications /Harvard Medical Schoolのホームページ上に掲載されている主要食品・食材のGI値やGL値を一覧にまとめた ”Glycemic index and glycemic load for 100+ foods” 、および「小麦は食べるな!」記載の主要食品・食材のGI値。なお、日本では食品のGI値 (Glycemic index、グリセミック指数、血糖指数) というと、たいていは「永田孝行氏作成の食品別GI値一覧表」が引用・参照されているようです。
永田孝行氏作成の資料によれば、代表的な穀類や穀類加工食品(ついでに野菜の「にんじん」を追加)のGI値は以下のようです。
・食パン 91
・フランスパン 93
・ライ麦パン 58
・全粒粉パン 50
・精白米 84
・五分づき米 58
・玄米 56
・にんじん 80
Harvard Health Publications によれば
・Baguette, white, plain(バゲット〈フランスパン〉) 95
・Whole wheat bread, average(全粒粉パン、平均) 71
・100% Whole Grain™ bread (Natural Ovens)(ナチュラルオーブン社の全粒粉パン) 51
・Carrots, average (にんじん、平均) 35
「小麦は食べるな!」だと
・全粒粉パン 72
という具合です。全粒粉パンといっても、どういう銘柄の小麦をまるごとひいて焼いたパンなのか詳細がわからない。だから50と72の違いが出るのでしょう。
◇
交配の進み過ぎた穀物や豆類、遺伝子組み換えの穀物や豆類が、人間や家畜の健康面でどういう影響を持つか、その実態はまだよくわかっていないということを確認する意味で、この本は参考になりました。
関連記事は「ほとんどがF1交配種、わずかに在来種・固定種」と「固定種の夏野菜(ハーブ)を、ほとんど毎日」。
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