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2013年11月12日 (火)

1億2700万人の8000人と3億1500万人の7000人、あるいは一般人の被曝限界とトランス脂肪酸

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疫学 (epidemiology) という考え方があります。特定の個人の病気や怪我の原因究明や治療を目的にした学問ではなくて、国や地域や職域などの一定の範囲で暮らしたり仕事をしたりしている人間集団を対象に、疾病や事故や健康状態に関して、その原因や発生条件を統計的に明らかにする学問です。疫病の流行様態を研究する学問として発足したので epidemic <(形容詞)伝染性の、流行性の(名詞)伝染病、流行病>という語が含まれています。

CIAの the WORLD FACTBOOK という資料によれば(WEBで公開されています)、2013年7月現在の推測値ですが、日本の人口は1億2725万人、米国の人口は3億1667万人。 the WORLD FACTBOOK は各国の人口やGDPや軍事費(対GDP比率)のような基礎情報をさっと確かめ国別に比較するのには便利なデータソースです。関連ページでは各国の最新の閣僚名簿なども整理されています。念のために「世界人口白書 2011」を参照すると、日本の2011年の人口は1億2650万人、米国は3億1310万人となっています。ここでは区切りよく日本の人口を1億2700万人、米国の人口を3億1500万人としますが、ポイントはどの数字をつかうにせよ米国の人口は日本の2.48倍から2.49倍、つまり、ほぼ2.5倍ということです。

先週、以下のような新聞記事が目に入りました(引用は『・・・』部分。なお、下線は「高いお米、安いご飯」)。

『トランス脂肪酸、米が使用禁止 「心臓発作を予防」』

 『米食品医薬品局(FDA)は7日、一部の菓子類やマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の使用を段階的に禁止すると発表した。この措置により「年間2万件の心臓発作を予防でき、心臓疾患による死者を7千人減らせる」としている。
 FDAはトランス脂肪酸を「食用として安全と認められない」と暫定的に判断した。60日間の意見聴取期間を経てこの判断が最終的に確定すれば、許可を受けた場合を除き使用を原則禁止する。食品業界には激変緩和措置として一定の猶予期間を与える。』(日本経済新聞 2013年11月8日)

【「高いお米、安いご飯」の註】「一部の菓子類」とは、「ショートニングを含んだ菓子類」のこと。つまり、トランス脂肪酸を含むショートニングやマーガリンのような加工食材は、女性や子供の好きな食べ物と適合的。細かくなるが、米粉パンにも、材料レシピではバターでなくショートニングやマーガリンを推奨しているところがある。

現在、日本国内でトランス脂肪酸に関する規制はありません。トランス脂肪酸や他の脂肪酸についての関連記事は「食材や油脂や脂肪酸についての雑感 (その1)」、および「食材や油脂や脂肪酸についての雑感 (その2)」。

今回の米国FDAの行政措置の目的は、トランス脂肪酸の使用禁止により、心臓疾患による死者を「1年間に7000人」削減するということです。7000人とは、米国の人口が3億1500万人なのでその比率は、0.0022%。表記方法を変えたら、「10万人に対して2.2人」。心臓疾患死亡者を1年間で10万人について2.2人だけ削減するために、トランス脂肪酸を禁止しようとしています。

さて、一般人の放射線線量の被曝限界は、自然放射線から受ける線量以外には、1年間に1ミリシーベルトです。なお、自然放射線から受ける線量は、公的資料によれば、世界の平均値が1年間に2.4ミリシーベルト(内部被曝が1.55ミリシーベルト、外部被曝が0.87ミリシーベルト)、日本のそれは1年間に1.5ミリシーベルト(内部被曝が0.8ミリシーベルト、外部被曝が0.7ミリシーベルト)です。(関連記事は「こういう機会に、基準放射線量を再確認」。)

1年1ミリシーベルトの放射線線量を、自然放射線以外に、被曝(外部被曝・内部被曝)すると、どの程度の「致命的な発癌」と「重篤な遺伝的影響」が出るかというと、それぞれの疫学的な発生確率は、癌が10万人に5人、遺伝的影響が10万人に1.3人とされているので、その二つを足すと「10万人に6.3人」となります。集団の大きさが1億2700万人の場合は、つまり日本では、1年間に1ミリシーベルトの追加被曝で8001人が追加的に癌になるか、あるいは追加的に遺伝的な影響をこうむることになりますが、それが一般人の被曝限界とされていると云うことは、人間はいろいろな原因で若いうちからも死んでいくので、当該原因によるそこまでの被害者数はしかたがないということです。

米国は、他国民の命はいざ知らず (たとえば1990年代のイラク経済制裁による驚くほど多数の乳幼児死亡数: 米国務長官を務めたオルブライトへの1996年の番組インタビューの中ではその数は50万人、インタビュー当時は彼女は米国連大使)、自国民の命と健康だけは大切にする傾向のとても強い国です。「1年間に1ミリシーベルト」というのは米国でも有効な一般人向けの放射線量基準だと思いますが、その米国で「7000人」あるいは「10万人に2.2人」の追加救済がトランス脂肪酸の使用禁止という形で決定されたわけです。米国での「7000人」は、人口が米国の2.5分の1の日本では「2800人」に相当します。

日本では現在、『費用膨大、効果に限界 規制委員長「20ミリシーベルトまで許容範囲」』『「1ミリシーベルトにこだわる必要はない 」。 福島県の除染現場視察を終えたIAEA調査団の フアン・カルロス・レンティッホ 団長は 10月21日、東京都内での記者会見で語った。「 除染の利益と負担の バランス を考えて最適化を図るべきだ 」とも強調し、答えを出すために地元との対話が重要だと指摘した。』『原子力規制委員会の田中俊一委員長は 記者会見で「(1ミリシーベルト目標が)独り歩きしている。原発事故があった場合、20 ミリシーベルト まで許容した方がいいというのが 世界の一般的な考え方だ 」と追認した。』(毎日新聞 2013年11月4日)という意見の流れもあるようです。IAEAを米国主導の原子力推進団体だとストレートに考えれば、彼らの主張は、彼らの考えに賛成するかどうかは別にして、論理が一貫しています。

この意見は、「1年間に1ミリシーベルトの放射線量を受けると『8000人』の致命的な発癌患者と重篤な遺伝的影響をこうむる人たちが確率的に追加発生するが、原発事故の処理にはお金がかかる。そんなことにお金をかけるくらいなら、癌と遺伝の被害者数を増やした方がましだ。」という意味です。『8000人』くらいの被害者数などそもそもたいしたことではないという意見だと解釈できます。

他方、米国のトランス脂肪酸の使用禁止は、これを日本(の人口)に当てはめると、心臓疾患死亡者のうちトランス脂肪酸摂取による確率的な死亡者数であるところの『2800人』を救済しようという意思決定ですが、そこでは『2800人』という数字が、トランス脂肪酸関連企業群の反対などを抑え込んでも十分に意味のある大きさの被害者数だと認識されています。

『8000人』と『2800人』。『(2800人の3倍近い)8000人』が追加犠牲者のための糊代(のりしろ)を後ろにいっぱいに残した保守的な数字で、『2800人』がこれ以上の増加は我慢ができない重大な閾値(いきち)。いろいろな考え方があります。賢い生活者・消費者とそうでない生活者・消費者の差がますます大きくなる時節かもしれません。

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