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2013年12月10日 (火)

原発比率と貿易収支と牽強付会

福島第一原発の屋外で10シーベルトの放射線量が測定された、25シーベルトの可能性もあるという発表が東京電力からありましたが、そういう状況と並行して、原子力発電を推進するという政府方針が発表されていました。

「原発『重要なベース電源』」 「エネ基本計画『ゼロ』から転換」

「政府は新たなエネルギー基本計画で、原子力発電所を『重要なベース電源』とする見解を示す。民主党政権が掲げた『原発稼働ゼロ』を目指す方針を転換するとともに、・・・原発を再評価する。」(日本経済新聞 2013年12月6日)

僕は率直に、原子力発電ではなく、最新技術と最新燃料を駆使した発電コストが低く発電効率の良い火力発電を今後の『基幹電源』、『重要なベース電源』とすればいいのに、と思いますが、リスクが高くて不経済な選択肢を好む方もいるようです。

コメの国際競争力やTPPや自由化に関する議論などで参照されるコメの生産費は、農機具費・賃借料・肥料費・農業薬剤費・労働費・支払利子・地代などをすべて組み入れたものなので「全算入生産費」と呼ばれています。電源別の発電費用は

① 発電に直接要する費用(燃料費、減価償却費、保守費用など)
② バックエンド費用(使用済み燃料再処理費用、放射性廃棄物処分費用、廃炉費用)
③ 国からの資金投入(開発費用、立地費用)
④ 事故に伴う被害の補償費用

の、以上の4項目から構成されますが、爆発事故があれば(事故は実際に福島で発生しましたが)原子力発電の場合、項目④が他の電源よりも比較を絶して大きいので、④を除いた「①と②と③の合計」を「全算入発電コスト」としても、いちばん発電コストが高いのは、火力発電ではなく原子力発電です(立命館大学・大島堅一教授による分析と試算 第48回原子力委員会資料)。これは、放射性廃棄物処分のためのバックエンド費用や廃棄物処理場所をそもそもどこにつくるか(どこに押し付けるか)といった立地関連費用などをマジメに考慮したら、そうなるであろうことは想像に難くない。

1970年から2007年の発電コストの平均値が、「原子力発電」は10.68円/kWh、「火力発電」が9.90円/ kWh、「一般水力発電」が3.98円/kWh、原子力発電の運営に不可欠な「揚水発電」が53.14円/kWh、「原子力発電と揚水発電を合わせて原子力発電(改)」とすると、「原子力発電(改)」は12.23円/kWhとなり、さらに生産費の高い発電方式となります。

さて、以上を予備知識としてさきほどの新聞記事に戻りますが、感心するというか、微苦笑を誘うというか、読者をある方向に誘うようなグラフがその記事には添付されていて、その説明文は「原発比率が下がるにつれ、貿易赤字は拡大してきた」となっています(下の写真)。日本経済新聞社が作成したのか、基礎データの供給元であるところの財務省や電気事業連合会が作ったのかは定かではありませんが、それはここではどうでもよいことです。

わずかに相関はあるものの他に影響力の強い要素が多すぎて気にしなくていいような要素を、特定の結果の主たる原因としてある時間幅を切り取って強調するという方法があります。

Photo_2

このグラフで云うと、2010年から2011年・2012年における2つのパラメータ(原発比率と貿易収支)の推移だけを強調すると、読者は「なるほど、その通りかもしれない」という気持ちになります。しかし、このタイプのやり方は瞬間的な訴求力は持つのですが、残念ながら、読者がじっくりと他の相関要素についても考え始めると、その強引さと牽強付会だけが目立ってくる。僕も、そういう牽強付会を使える才能を幾分かは持ち合わせているので、このグラフの作成者の意図はよくわかります。だから、「2007年から2009年にかけて原発比率が安定していたのに、2008年および2009年の貿易収支が大幅に落ち込んだ」という「不都合な真実」の原因(つまり、原発比率以外の原因)については、このグラフや当該記事では言及がありません。

主でない要素を、ある時間の流れを切り取って、さも最重要原因の如くに取り扱う手法の一例が、地球温暖化議論に関心がある方には有名な IPCCの"Climate Change 2001" の以下の図です。このグラフに上記の日本経済新聞風のタイトルをつけると「産業革命以降、世界の産業規模と経済規模の拡大によるCO2が原因となって、地球の気温は前例のないくらいに上昇した。」

Climate_change_2001_past_140_years_

2001年から見て過去140年ではなく、日本で云えば縄文時代の昔からの地球の気温変化を鳥瞰すれば、われわれの祖先が縄文時代や平安時代に経験したほどには現在の気温は上昇していないのですが、つまり、温暖化だ、CO2だと大げさに騒ぐ必要はないと思うのですが、議論の窓枠をある主張のために都合よく切り取ると、その主張に応じた「事実」が浮かんできます。

もっとも、上の図も画竜点睛に欠けるところがあり、それは1940年過ぎから1980年の少し前くらいまでの期間です。気温は上昇していません。むしろ下がっている。第2次世界大戦の前後は、米国を除いて、当事者国の経済が戦費で疲弊していたので考慮外だとしても、それ以外は世界の経済活動・産業活動は活発でした(つまりヒトの産業活動によるCO2排出量は活発でした)。だから、温暖化傾向が継続しないのはおかしいのだけれどそういう部分は「不都合な真実」なので、シカトするというかマクロなトレンド曲線における誤差で片づけてしまっています。

現在は2013年の終わりですが、IPCCの最新レポートにもあるように、過去15年くらいは地球の気温は上昇していません。中国やその他の国で、気温上昇の主たる原因であるCO2を大量にモクモクと排出し続けているにもかかわらずです。IPCCはこの15年間の休止期間をトレンド上の誤差としています。(関連記事は「IPCCの第5次報告書(政策決定者向けの要約)に関する雑感」)。

両者に共通するのは同じ種類の牽強付会で、政治的意図が背景に潜んだ場合には、どうも似たようなグラフと似たような説明が現れてくるようです。原発が必要だという主張だけだと関係者の利害が露骨すぎるので、「原発比率が高まれば貿易収支は改善する、地球温暖化防止にも貢献する、こんないいことはないではありませんか。」

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