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2013年12月 3日 (火)

続・「農地の集約化・大規模化で収穫逓増?・補遺」、それから、海外生産の「あきたこまち」など

農林水産省から、コメの生産年ごとに「米生産費」の内訳が公表されています。その中に作付規模別に生産費を整理した表があり、それなりに役に立つのですが、層ごとの対象数を一定数以上にそろえるためか層別の幅が5ヘクタールを超えると急に大きくなり、作付規模と生産費の相関を見るには断絶があって不自然な感じがするし、読者が個別データに興味があってもその詳細がわからない。

たとえば、非常に大規模な作付面積を持つコメ農家やコメ農業法人の個別状況を知りたいと思っても、データが要約されている当該資料ではむつかしい。戸別訪問でもしない限り、手に入らない。かりにそれが手に入っても、それを公にできるとは限らない。

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しかし、たまたま11月28日のNHKのある報道番組でそういう大規模農業法人の実際の状況がとりあげられていました(ときどきは、NHKのこういう番組も、一次データの意図せざる提供という意味では役に立ちます)。おそらく日本で最も大規模な岩手県のコメ農業法人(コメの延べ作付面積が205ヘクタール)で、日本でコメ生産費のおそらく最も低い農業法人のひとつでしょう。

日本の農業に関しては「農業の規模を拡大して生産コストを低減」とか「農地の集約化や大規模化が日本の農業の生産性を高め、国際競合力をつける」といった主張がけっこう気楽にされてきたし、今もされています。気軽に、というのは議論の中身が勢いとプロパガンダだけで、どこまで規模を拡大したらどこまで生産性が高まるかということに関して、そもそも旬の食べ物や農産物に関心がないのか、聴くものを納得させるロジックに欠けるからです。日本でコメ生産の大規模化や生産性の上昇(生産費の低減)を批判的に語る場合には、この農業法人の実現値を日本でのコメ生産を考える場合の限界値とみなした上で発言した方がいいと思われます。

この農業法人の生産費の状況を最後に加えると、表は以下のようになり、それを絵にすると、そのすぐ下の折れ線グラフのようになります。

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日本の消費者が納得するレベルの品質と食味を持つコメを日本で安全に生産しようとしたら、どう頑張っても下限値は9,600円程度ということのようです。

だから、コメ生産費の下限値が60㎏あたり9,600円であると云うことを前提に、TPPや関税やコメの自由化を考えないと、『国内生産力の強化及び国際競争力の強化のためには、高い農産物価格による保護政策を取るのではなく、関税を下げ、市場を自由化することで、生産者に対し正しい価格シグナルを発信することが必要である。その価格シグナルを受け取った生産者は、自身で経営判断を行い、農地の集約や大規模経営等効率化を進める努力をするであろう。』(「我が国の「食料安全保障」への新たな視座」(2010年)の一節)といった種類の、向いている方向の判然としない、あるいは、特定の利害関係者の広告宣伝文に近い主張がまかり通り、40%を割り込んでしまった食糧自給率がますますひどい状況に陥ってしまいます。

かりに、この外務省がスポンサーになっているところの提言の中に(あるいはこの提言と並行して別枠で)、たとえば特殊法人や独立行政法人などへの特別会計を通した補助金を、国家の経費削減のために、2分の1、ないし3分の1に圧縮すると云うことが同時に含まれているなら、この9,600円という数字も温和だと云うことで再考の余地があるかもしれません。しかし、税金や国債という借金から注ぎ込まれるそうした官制グループへの多額の補助金を、「国家としての無駄の排除・生産性向上」や「国のサービス機能の国際競争力強化」のために削減しようといった提案は、上述の文書の著者たちやそのスポンサーからはないと思うので、9,600円のままにしておきます。

ところで、その9,600円の岩手県の農業法人は二期作や三期作の可能なベトナム(ハノイ近郊)で「あきたこまち」や「ひとめぼれ」を試験的に委託生産しており、60㎏あたりの生産費は4,200円だそうです。4,200円は日本の9,600円の44%です。

「あきたこまち」や「ひとめぼれ」が日本でどういう評価をされているか(相対評価位置)については、日本での相対価格位置が代替指標として使えます。下の棒グラフを参照。ただし、2011年産米のデータです。「新潟一般コシヒカリ」の取引価格を100とした場合の、その他のブランド米の相対価格を示しています。数字が大きいほど評価が高い、最終消費者に人気がある。ただし、外食産業での引きの強さは、セグメントによっては、この数字の大きさとは相関しない。

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アジアの人たちの好みのお米は長粒種のインディカ米で、短粒種のジャポニカ米は食べない。実際のところ、バンコクでタイ料理を食べ、台北や香港で中華料理を食べるときにジャポニカ米を食べたいとはつゆ思わない。良食味のジャポニカ米を好んで食べるのはほとんどが日本人で、日本人以外だと、寿司や他の日本食でジャポニカ米の味を覚えた米国人や中国人(アジア各地の華僑を含む)などです。インド人は、よほど位相がずれていない限り寿司のような生ものは食べない。つまり、野菜の天丼などを除けば、ジャポニカ米に接する機会はほとんどありません。

そういうことを考えると、このベトナム産の「あきたこまち」や「ひとめぼれ」のゆくゆくのマーケットは「日本」ということになります。関税といったものがなければ、日本への輸出諸掛などはわずかだし、ブランド認知のプロモーションコストもほぼ不要なので、外食産業のコメ市場を席巻してしまうかもしれません。「コシヒカリ」や「あきたこまち」は中国の東北地方(黒竜江省や吉林省など)でも生産されていますが、品質という点では、両方ともまだ口にしたことはないのですが、ベトナムの天日塩のおいしさを知っているので、ベトナム産の方が断然上かもしれないと勝手に想像しています。

アジアで生産された、アジアの新興国向けの低価格で機能限定の家電や小型自動車は、日本メーカー製のものであっても、ターゲット市場に日本は含みません。同様に、中国メーカーの廉価な白物家電が日本で売れているという話は聞かない。商品のそういう棲み分けが消費者の中でできています。しかし、丁寧に現地生産された日本のブランド米が日本に無関税で輸入された場合は、先ほどの棒グラフで云えば、相対価格が80前後のお米では事情が違ってきます。

関連記事は「農地の集約化・大規模化で収穫逓増?・補遺」、その前は「農地の集約化・大規模化で収穫逓増?(その1)」、「(その2)」、「(その3)」。

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