「の」で糊付けされた表現はイライラする
名手の手にかかると思わぬ効果を発揮するのかもしれませんが、「の」で糊付けされた名詞や名詞句がだらだらと続くと、読む方は読みにくいしイライラします。2012年8月に成立・公布された法律の名前がその一例です。
「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の根本的な改革を行うための消費税等の一部を改正する等の法律」。47文字の中に「の」が6回登場します。
この法律で、現在5%の消費税が、来月(2014年4月)から8%に、2015年の10月には10%に引き上げられます。だから余計にイライラするのかもしれません。「等」という区切りのはっきりとしないことを表わす語も3度現れます。
わかりやすい・読みやすい表現を企図していながら、わかりにくい・読みにくい結果になってしまうと書き手は才能の欠如にうんざりし、読む方はイライラします。しかし、書き手の目的が表現のわかりやすさではなく、必要な事項を名詞の修飾節の中にすべて押し込もうとする場合は、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の根本的な改革を行うための消費税等の一部を改正する等の法律」という表現ができ上がる。
口直しに、「三上 章」の名著「象は鼻が長い」を本棚から取り出してきました。「の」を代行する「は」についての箇所を読み返します。以下、「の」を代行する「は」に関する例文をいくつか引用してみます。
「沖縄ハ、木ノ成長ガ早イ。」
「沖縄ノ木ハ、成長ガ早イ。」
「沖縄ノ木ノ成長ハ、早イ。」
「象ハ、鼻ガ長イナア!」
「象ノ鼻ハ、長イナア!」
「象は鼻が長い」の著述目的は「はしがき」に要約されています。
(はしがき)「日本語の文法的手段のうち、最も重要なのはテニオハです。中でもハです。本書は、問題をそのハ一つに絞って、日本文法の土台を明らかにしようとしたものです。代行というのが中心概念の一つになっています。ハはガノニヲを代行する、というのです。」
当該法律の作成企図に同意するかどうかは別にして「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の根本的な改革を行うための消費税等の一部を改正する等の法律」を、できるだけ「の」を使わずに「は」で書きなおしてみると、たとえば以下のようになる。
「社会保障は安定財源が不可欠である。安定財源は根本的な税制改革が前提となる。そのためには消費税の改正も避けられない。この法律は消費税の一部を改正するものである。」
上記は名詞(「・・であるところの法律」)になっていないので法律の名称としては落ち着きが悪い。しかし、「消費税を段階的に値上げする等の法律」とすれば骨子が国民に伝わりやすい名詞表現となります。
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