最近出会った「遺伝子組み換え作物」に関する本

日本語訳のタイトルが「遺伝子組み換え食品の真実」、原題は、Genetically Modified Food: A Short Guide for the Confused(「遺伝子組み換え食品:混乱している人たちへの簡単な道しるべ」)です。遺伝子組み換え食品について、マクロの視点とミクロの視点の両方でこの主題を調査・分析した著作物をさがしていたら、この本に出会いました。
著者は、アンディー・リーズ。農家出身の環境問題の活動家なので、そういう活動家によく見られる根拠の明確でない信念や断言などがあれば、その部分ははしょって読もうと思っていましたが。そういうものはあまり感じられず、バランスのとれた内容構成になっています。一般種や在来種の非遺伝子組み換え作物の生産や有機農業で十分に世界の農産物はまかなえるという「考え方」への確信があるからでしょう。
マクロの視点とは、グローバルに展開するアグリビジネスと、それを支援するような形で絡んでいく(傾向が散見される)国連のような国際機関の動き、遺伝子組み換え作物ビジネスやそれとセットになっている農薬ビジネスの動向と分析、一方、ミクロの視点とは。遺伝子組み換え作物の実際の収量や価格、遺伝子組み換え農産物やそれを食べた家畜、またそれらを使った加工食品がどこまでわれわれの日常に浸透してきているのかという流通面の分析と、遺伝子組み換え食品の安全性とその実態調査などのことです。
原著は2006年の発行ですが、日本語訳は2013年の出版。そのタイムラグを活かして、日本語訳版では原著データの「註」として、その時点での最新データが相当な数の項目について併記されており、最近の状況に関心を持つ読者はおおいに助かります。たとえば、原著の記述「現在、栽培されている遺伝子組み換え作物の70%は除草剤耐性であり、その他、30%が害虫抵抗性である。」の下にひと回り小さな活字で、「2011年の(遺伝子組み換え作物の)作付面積は、除草剤耐性が59%、害虫抵抗性が15%、両方の性質を持つものが26%である。」と追加されています。
遺伝子組み換え農産物の種子や農薬をグローバルにプロモーションしているアグリビジネスはどういう動き方をしているのか、世界の遺伝子組み換え農産物にはどういうものが多くて、どこでどれくらい生産されているのか、それらは日本へはどれほど輸出されているのか、そして輸入された遺伝子組み換え作物や加工品に対する日本のお役所(厚生労働省など)の安全性評価や表示制度を含む取り組み状況はどうなっているのか、などについて、一応の基礎知識は持ち合わせていたので、今まで知らなかった諸外国の状況や既存知識の最整理という意味で「簡単ガイド」の役割を果たしてくれました。
「米国では、すでに三億人もの人々が何年も食べ続けてきたのだから、遺伝子組み換え作物は安全である」というのが遺伝子組み換え作物や遺伝子組み換え食品に対する米国のいわば紋切型の意見で、アグリビジネスによる農産物と農業関連技術の国外輸出が好きな米国らしい主張になっています。そんなものをスーパーの加工食品やジャンクフード仕立てで毎日食べ続けて大丈夫かなとも思いますが、2011年3月11日以降の日本の原子力行政などが「アンシャンレジーム風」へと回帰し、「食べて応援」と宣伝している様子を見ると、どっちもどっちなのかもしれません。
◇
この書物の「ガイドブック」風のポイントは、身近なものを集めると、以下のようになります。本の紹介を兼ねた記事なので、関連箇所を第4章と第5章から勝手に引用させていただきました。ただし、一部表現を変えたところや省略したところもあります。
<遺伝子組み換え作物は、安全?>
・バイオテクノロジー産業は、「実質的同等」という意味不明な言葉をつくりだし、ロビー活動によって安全性試験を回避することに成功した。「実質的同等」とは「遺伝子組み換え作物と従来の作物を、科学的な観点で比較すればほとんど似ているので、同じものと考える」という論理である。」しかし「もし遺伝子組み換え作物と一般種とが同じである」というのなら、なぜ特許権が発生するのだろうか。
・「米国では、すでに三億人もの人々が何年も食べ続けてきたのだから、遺伝子組み換え作物は安全である」という主張があるが、遺伝子組み換え食品を摂取した人々の基礎データ、リスクに関する資料、人間による接触試験の調査などは、何も存在しない。結局、遺伝子組み換え食品とは、野放しの人体実験なのである。遺伝子組み換え食品によって、アレルギー、がん、自己免疫疾患などの一般的な疾病が生じても実態を知ることさえできないのである。
・DDTに環境ホルモン作用があることが確認されるまで60年もかかった。それにも関わらず、「遺伝子組み換え食品による死者は発生していないから問題ない」と主張されている。
<遺伝子組み換え作物は、世界の飢餓を救う?>
・遺伝子組み換え作物がなくても、世界中の人々が食べるのに十分な食料が生産されている。お腹を空かせた人たちがいるのは、貧しくて食料を変えないからであって、遺伝子組み換え作物とは関係がない。
<遺伝子組み換え作物で、農薬は減る?>
・モンサント社は、除草剤耐性の「ラウンドアップ・レディ大豆」を栽培すれば、除草剤の使用量が平均22%減少すると宣伝したが、多くの調査結果は逆に増加すると伝えている。
・農薬の使用量が増えた主な原因は、遺伝子組み換え作物の除草剤耐性が、わずか数年の間に雑草に転移したためである。除草剤「ラウンドアップ」では雑草が枯れにくくなったため、つまり、除草剤耐性を持つ複数の「スーパー雑草」が発生したため、さらに除草剤の使用量が増えたのである。
<遺伝子組み換え作物の、一般種や有機農産物への影響は?>
・遺伝子組み換え作物は、何マイルも離れた土地で生産される有機農産物や野生の近親種さえも汚染する。遺伝子組み換え作物が広がれば、短期間のうちにすべての一般種や有機農産物にも混入するため、農家は、遺伝子組み換え作物しか生産できなくなる。これは、遺伝子組み換え作物の種子や農薬を販売するバイオテクノロジー企業にとっては魅力的な環境変化である。
<遺伝子組み換え作物が、途上国の伝統農業に与える影響は?>
・1990年代に入ってからの10年間でアルゼンチンの大豆生産量は3倍近くに増え(138)、2002年には耕作地の43%が大豆畑になった。現在ではほとんどが遺伝子組み換え大豆である。それ以前は作物の栽培と家畜の飼育を組み合わせた混合農業が主流だった(139)。ところが牛乳、コメ、トウモロコシ、ジャガイモ、ハーブなど、多種類の主食になる食糧を生産する農家が急激に減少し、大豆畑に代わってしまった。かつてアルゼンチンでは、全人口に必要な10倍の量の食糧を生産しており(140)、牛肉や小麦も大量に輸出していたのに、それも途絶えてしまった(141)。
蛇足ですが、上の (138) (139) (140) (141) 、それから下の (164) (165) は参照資料番号で(この項目と次の項目以外では省略)、生産量などの数字やタッチ―な議論については、この例に限らずデータソース・参照資料が明示されています。読者は、気になる場合は原データ・原資料に当たってみることもできます。いくぶん参照ソースに偏りがありますが、いちおう公平というか客観的な作りになっています。
<遺伝子組み換えをめぐるもっとも本質的な疑問は?>
・「ターミネーター技術」とは、遺伝子を導入することで植物に種子を作らせないようにする技術である。・・・ターミネーター技術は農民にも消費者にもまったく役に立たないし、自然にとっても大きな脅威である。もしも、この遺伝子が野生種に転移したら多くの植物が絶滅してしまうだろう。・・・「アストラゼネカ社」と「ノバリティス社」が特許権を取得している(164)。「モンサント社」もまた、特許権を取得している(165)。さらに恐ろしいのは、米国農務省が78か国でターミネーター技術の特許権を取得していることだ。・・・なぜ政府はターミネーター技術を禁止しないのだろう。なぜ公益よりも巨大企業の利益を優先するのだろう。・・これこそ、遺伝子組み換えをめぐるもっとも本質的な疑問なのである。
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「遺伝子組み換え作物」に関する「高いお米、安いご飯」の主な関連記事は、以下の通りです。
・ GM作物と鶏・豚・牛とTPP (その2)
・ GM(遺伝子組み換え)作物の生産状況
・ GM(遺伝子組み換え)作物の生産状況・補遺
・ 輸入小麦もそのうちGM(遺伝子組み換え)品種に?
・ 米国のGM(遺伝子組み換え)小麦
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