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2014年4月 7日 (月)

「トップクラスの気候専門家ということになっている十代の悪ガキ」

「トップクラスの気候専門家ということになっている十代の悪ガキ」とでも訳せばいいのでしょうか、原題は “The Delinquent Teenager Who Was Mistaken For The World’s Top Climate Expert” です。ドナ・ラフランボアーズというカナダの女性ジャーナリストが2011年に二年の調査結果にもとづいて出版した労作で、「十代の悪ガキ」ないし「不良のティーンエイジャー」とは IPCC のことです。IPCCの実態(報告書の作成に携わっている科学者の実態やIPCCの持つ政治性など)が細かく調査・分析されています。

すでに読んでいないといけない内容の本ですが、ぼんやりとしていました。

IPCC議長のパチャウリ氏によれば、IPCCに参加しているのは「何千人もの最高の科学者」「ほとんど四千人近くの世界で最も優秀な専門家」ですが、IPCC報告書の内容などから疑問を抱いたドナ・ラフランボアーズは、その科学者・専門家の実態(報告書の作成に関与した時の年齢、その時の学術実績、環境問題の過激な活動グループとの関連など)を調査します。その結果、「実績がある世界クラスの科学者」の中に、少なからぬ数の20歳代半ばの学位も持たない大学院生が含まれていたことが判明します。

また、パチャウリ議長によれば、IPCCが報告書作成で依拠するすべての論文は査読が行われ信頼性が保証されていることになっていますが、「IPCC 2007」で引証されている18,531本の論文 (references) が本当に査読済みかどうかも、ラフランボアーズは12か国から40人を超える仲間の助けを借りて調べ上げます(18,531本のうち、30%に相当する5,587本が査読済みでないことが判明)。IPCCの主要科学者の公表前の論文がなし崩し的に報告書に採用されていく様子も同時に描かれています。かなりうんざりする作業ですが、それが労作の意味のひとつです。

IPCCとは何なのか。彼女の調査はIPCCとUNFCCCとの関係に向かいます。UNFCCCとはUnited Nations Framework Convention on Climate Change 気候変動に関する国際連合枠組条約のことですが、分かりやすく云えば、地球温暖化防止条約、ないし温室効果ガス削減条約のことです。もっと有体に云えば、温室効果ガス削減を推し進めたい国連の官僚たちのことです。ラフランボアーズによれば、官僚は権威と資金と権限が大好きですが、国連はそういう官僚の棲家だそうです。

彼女の調査では、IPCCの議長はIPCCの設立20周年記念イベントで演説をしており、その中でIPCCの主たる目的について触れています。「そういういい方ができるのであれば、UNFCCCが我々の大事なお客であります。」つまりIPCCの目的は、「温室効果ガス削減活動」(という大事なお客)を支援する報告書を作ることです。

その結果、彼女の下した判断は、IPCCの実態は「ものごとの善悪の判らない十代の悪ガキ」「不良のティーンエイジャー」だというものです。

ミルトン・フリードマンの市場原理主義が国民経済や地域住民にもたらす悲惨を、各国の数多くの事例研究を通して批判した「ショック・ドクトリン」のナオミ・クラインもそうですが、カナダでは、既存の強権的なものに立ち向かうこういう元気な女性ジャーナリストが生まれます。カナダが、破綻しつつあるとはいえそれなりに形を保っている米国版「華夷思想」「冊封体制」の微妙な位置に立っているせいかもしれません。

本文の趣旨が最初の見開きページにきれいに要約されているので、その部分を訳すと以下のようになります。

「『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』は、世界で最も重要な仕事のひとつを行っている。気候を科学的に調査し、その意味合いについて報告書を書いている。この報告書は、公式な名称ではないが、『気候のバイブル』と呼ばれている。

この『気候のバイブル』は、世界中の政府によって引証され、その結果、炭素税が導入され、光熱費は上昇し、複数のお金のかかる新しい法案が生まれている。こうして、誰もが二酸化炭素の排出は危険だと思うようになった。簡単に云えば、この国連の報告書のせいで世界は混乱状態に陥った。

しかし、この『気候のバイブル』を生み出したのが、ビジネススーツに身を包んだ注意深くて高潔な専門家ではなく、正しいことと悪いことの区別もつかないようないい加減でだらしないティーンエイジャーであることを、私たちのほとんどが知らない。

二年間にわたる地道な調査に基づいたこの本の結論は次の通りである。『IPCCの評判は、そのほとんどが、事実ではない。』」

IPCCとは、皆さんよくご存じのように、Intergovernmental Panel on Climate Change(「気候変動に関する政府間パネル」)を略したもので、どういうわけか、とくにマスメディアが大好きな国連の組織です。記事内容(たとえば、原発の早期再稼働)の正当化のために頻繁にその報告書が引証されます。IPCCは国際連合環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)と国際連合の専門機関にあたる世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)が1988年に共同で設立しました。

なお、IPCCとアル・ゴアが、気候変動に関する世界の啓蒙活動を理由に、2007年のノーベル平和賞を一緒に受賞したのは僕たちの記憶に新しいところです。

関連記事は「IPCCの第5次報告書(政策決定者向けの要約)に関する雑感」。

だから、頭に「国連」がくる「報告書」、たとえば最近の例で云うと、「東京電力福島第一原発事故の健康への影響を分析した『国連科学委員会の報告書』」などは「国連」とあるのでその内容の信憑性を最初から疑ってかかった方がいいのかもしれません。その委員会のメンバーはどういう背景の人たちなのか。自分たちで実地調査をし、実際にデータを測定・収集・分析したのか。それとも第三者の収集データや一次分析結果をそのまま利用したのか。政治的な思惑はないのか、あるとしたらどの方向を向いているのか。

IPCCに限らず、こういう報告書は、特定のグループの経済的利得に資することが多い。いい例かどうかはわからないが、「国連科学委員会の報告書」についてのメディア記事は例えば次のような具合です。

『福島県民、がん増加確認できず 国連の原発事故報告』
  
     
朝日新聞デジタル (2014年)4月2日(水)3時6分配信

 『東京電力福島第一原発事故の健康への影響を分析した国連科学委員会の報告書の全容がわかった。福島県民は全体的に、がんの増加は確認できないと評価した。・・・(略)・・・
 報告書によると、事故後1年間の全身への被曝線量は、原発周辺も含めた福島県全体で成人は平均1~10ミリシーベルト、最も影響を受けやすい1歳児は約2倍になると推計した。1歳児でも、がんのリスクが明らかに高まるとされる100ミリシーベルトを下回った。』

低線量の内部被曝の人体への影響というものについては、「四年程度の時間経過とともに非常にリスクが高くなる」という考えの人たちと、「100ミリシーベルト以下は気にしなくて良い、それが広島・長崎の追跡調査の結果でしょう」と主張する人たちがそれぞれに存在します。一般人は1年間に1ミリシーベルトが被曝量の上限、レントゲン室のような管理区域では3か月あたり1.3ミリシーベルトを超えないこと、女性放射線技師は3月間につき5ミリシーベルトを超えないこと、いう法律はあるが、こういう場合は「それはそれとして」という感じで言及されません(上の記事の中でも参照されていない)。

低線量の内部被曝の予防に関しては個人の判断にもとづいて、食べものなどを注意深く選択するしかなさそうです。

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