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2015年10月30日 (金)

サンスクリット語のアルファベットと、仮名の五十音

英語の辞書では、単語が「a, b, c ….x, y, z」の順番に並んでいます。日本語の辞書(いわゆる国語辞典など)は「あいうえお かきくけこ・・・」の順番で、ぼくたちはそのことに違和感を持ちません。要は辞書は、ある言語がアルファベット(ないしはアルファベットに相当するもの)を持つ場合は、その言語のアルファベットの順番に単語を並べるというのがぼくたちの長い間の約束事のようです。

「abc」のようなラテン系文字で表記された言語の辞書や簡易辞書風のつくりの用語集を見ると、単語や用語の並びの順番は「abcdefg…」であり、国語辞典の様に「あいうえお かきくけこ」の順番に並んでいるとは普通はぼくたちは考えない。サンスクリット(語)も利用者の利便を考えてラテン文字で表記されます。しかし、ぼんやりとそのラテン文字表記の辞書や用語集を見ると、頭の中では自動的に「abcdefg…」が語の順番のデフォになります。まさか、サンスクリットが「あいうえお」「あかさたなはまやらわ」の順番に並んでいるとは、最初は、想像もしません。

鈴木大拙の代表作のひとつに「Studies in The Lankavatara Sutra」(楞伽経りょうがきょう研究)があります。本の最後に80数ページの「A Sanskrit-Chinese-English Glossary」という用語集があり、便利なので必要に応じてときどき参照しています。「Karma」の項を見ると「Karma、業、act ・・・」、「Dharma」の項は「Dharma、法、the truth、the law ; for various shades of meaning attached to the term・・・」といった具合に主要仏教用語が簡明に用例付きで説明されています。ところで、この二つの項目の記載順は、「abc <d>…hij <k>…」の順番ではなく、Kで始まる「Karma」が先に来て、Dで始まる「Dharma」があとに続きます。

片仮名は、九世紀初めに、奈良の古学派の学僧たちが漢文を和読するために、訓点として万葉仮名の一部の字画を省略し付記したものに始まると考えられています(たとえば、「阿」の左側部分から「ア」、「伊」の左側部分から「イ」、「宇」の上の部分から「ウ」、江の右側部分からエ、於の左側部分からオなど)。余計なことですが、この発想は、中国の簡体文字 Simplified Chinese作成の発想となんとなく似ているな、とぼくは勝手に考えています。

さて、仮名(ここではその成立が古い片仮名を例にとりますが)は、その基本要素は文字の「形」と「音」です。「形」とは、たとえば「阿」の左側部分を借りた「ア」、「伊」の左側部分を持ってきた「イ」のことで、「音」とは「ア」の場合は「a」、「イ」の場合は「i」という発音です。しかし、ぼくの興味は、個々の仮名文字ではなく、以下のような仮名四十八文字(ないしは五十音)という構成が、つまり「アイウエオ」という順番、および「アカサタナハマヤラワ」という順番からなる文字構成が、どのようにしてできたのかということの方に向かいます。

       あ段 い段 う段 え段 お段
   あ行   ア  イ   ウ  エ   オ
   か行   カ   キ   ク   ケ   コ
   さ行     サ   シ   ス  セ    ソ
   た行     タ  チ   ツ   テ   ト
   な行     ナ   ニ   ヌ   ネ   ノ
   は行    ハ    ヒ   フ  ヘ    ホ
   ま行    マ    ミ    ム  メ    モ
   や行    ヤ   ■   ユ  ■   ヨ
   ら行     ラ   リ    ル   レ   ロ
   わ行    ワ   ヰ   ■  ヱ    ヲ
                           ン

調べてみると、片仮名四十八文字(あるいは五十音)の構成はサンスクリット語のアルファベットを参考にしているらしい。サンスクリット語のアルファベットとは以下のようなものです。サンスクリット辞書(や用語集)は、単語や用語がこのアルファベットの順番で、つまり左上から右下にかけての順番で、並んでいます。

B

この表と仮名五十音図を見較べてみます。母音は、ラテン文字で表すと、a、ā、i、ī、u。ū、ṛ、ṝ、ḷ、ḹ、e、ai、o、au で、日本語が直接に対応しない母音もありますが、日本語対応母音は「あいうえお」の順に並んでいます。また子音の配列も (母音)、 k、kh、g、gh、ṅ、c、ch、j、jh、ñ、ṭ、ṭh、ḍ、ḍh、ṇ、t、th、d、dh、n、p、ph、b、bh、m、y、r、l、v、ś、ṣ、s、h となっており、当時の「ts」に近かった「さ行」や、それ以前では「f」よりも「p」に近かった「は行」の発音を考えると、また「y」が「ヤ」、「r」が「ル」(ルの「あ段」は「ラ」)、「v」が「ワ」という発音に相当することを考えると、この順番は「あかさたなはまやらわ」です。

念のために、サンスクリットのアルファベットと仮名五十音(の一部)を重ね合わせてみると次のようになります。

B

片仮名の起源は九世紀初めの奈良の古宗派の学僧たちの漢文和読だと書きましたが、当時、サンスクリット(悉曇 しったん)を詳しく知っているのは、南都六宗や密教系の僧侶の一部や仏教に造詣の深い帰化人だけでした。そういう人たちが、サンスクリットのアルファベットを参考に、「あいうえお」「あかさたなはまやらわ」「ん」という五十音(あるいはその基礎)を作り上げたのでしょう。

そして、いつのころか、この仮名四十八文字の全部が重複なく使われて、無常感の漂うきれいな歌になりました。「色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見し 酔ひもせず」。

さきほどの「A Sanskrit-Chinese-English Glossary」という用語集に関して云えば、万葉の時代の発音らしきもので「あいうえお」「あかさたなはまやらわ」と云いながらページをめくると、目的のサンスクリット語の単語や用語に楽に到達できます。

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