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2016年3月28日 (月)

先日の「国際金融経済分析会合」におけるスティグリッツ教授の提言資料に目を通してみた

先日(3月16日)、「国際金融経済分析会合」が開催され、そこで講師に招かれたのが、米国コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授です。そのときの報道を立場の違う二つのメディア(産経新聞と日本農業新聞)から引用すると以下のようになります(引用は【・・・】部分)。

<産経ニュース 2016年3月16日>

【スティグリッツ氏発言要旨 消費税引き上げ「今のタイミングは適切ではない」】

 【今の世界経済は大低迷の状況だ。まだ危機ではないが成長は減速している。2015年は金融危機以降、最悪の状況だったが、16年はさらに弱体化すると思っている。
 最も根本的な原因の一つは、総需要の不足だ。日本が今年議長国を務める主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)などで、需要を刺激するような各国間の調整策を議論してほしい。
 日本は総需要をつくり、成長を引っ張る模範を示すべきだ。非常に強い金融政策を実施し、それが景気刺激策になったが、もう限界に達している。次に財政政策をとることが重要だ。
 消費税は総需要を増加させるものではないので、引き上げるのは今のタイミングは適切ではない。炭素税や相続税、累進制の高い所得税などで増税し、一方で教育、経済を下支えする投資支出を拡大していくことで、経済を刺激する効果があると考える。】

<日本農業新聞 2016年3月17日>

【TPPは悪い協定 米議会で批准されぬ ノーベル経済学賞・スティグリッツ教授】

 【5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向け、政府は16日、安倍晋三首相らが有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」を初めて開いた。講師に招いたノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は、環太平洋連携協定(TPP)について、米国での効果はほとんどなく、米国議会で批准されないとの見方を示した。
 日本政府は、TPPの早期発効に向けて、今国会に協定承認案と関連法案を提出し、成立を急ぐ。だが、TPP発効には、米国議会の批准が不可欠。世界的に著名な経済学者がTPPの効果や批准の見通しについて否定的な見解を示したことで、日本国内でも一層、慎重な対応を求める声が強まりそうだ。
 (中略)
 この会合をめぐっては、来年4月に予定される消費税率10%への引き上げを再延期する布石との憶測も出ていた。スティグリッツ氏は「消費税を引き上げるのは今のタイミングは適切ではない」と、引き上げを見送るよう提言した。】

会合で使われたスティグリッツ提言資料は、3月18日に政府からPDFファイルで原文日本語訳(ただし「仮訳」と表記)がWEB上に公開されました。しかし、実際の会合の席上で提言資料以外にどんな発言があったかはぼくにはわかりません。当該資料には消費税への直接の言及はありませんが、会議では、需要の喚起という文脈で、そのことに口頭で触れたのかもしれません。

ここでは公開されたスティグリッツ提言を、「世界経済と日本経済の病状診断」および「病気から回復するための処方箋」という観点から、「日本語訳」を3ページだけ(ただし各ページはページ単位でまるごと)引用してみます。彼の提言骨子になると思います。

① 病状診断(症状とその原因) 44ページ

VII. 遠近法で今の世界を見る

• 30年ほど前、多くの先進国では、税率の引き下げや規制緩和といった実験を始めた。
• 変化する経済環境に対応し、経済の枠組みを調整する必要があった。
   • しかし、誤った調整がなされてきた。
• 結果として、経済成長は鈍化し、格差が拡大。
• 今となって漸く、それらの結果が全て目に見えるものとなったが、過去からずっと進行して 
 きた結果なのである。
• 現在の方向性が維持されると、状況は更に悪化するだろう。
   • 未だ語られていない政治的な帰結もある。そのうちの幾つかは分かり始めている。
• これらの実験は、大きな失敗であったと今や言うことができる。大きな失敗であったと言うべきである。
• 新たな方向性が求められる。
   • 現在の取り決めの微調整では上手くいかないだろう。

② 病状診断(症状とその原因、補足) 32ページ

機能するサプライサイドの施策(「高いお米、安いご飯」による【註】:このページに関してはページタイトルと内容が一致していません)

•効果的でない(または逆効果な)サプライサイドの施策が多く存在する。(【註】ページタイトルとしてはこちらがふさわしい)

• 法人所得税率の引下げ。
   • 例外として、投資をして雇用を創出させる企業には減税し、投資や雇用 創出に消極的な企業には増税する施策。
• 金融市場の規制緩和。
   • 投資の減少、投機の拡大、市場の不安定化につながる。
• 貿易政策においてサプライサイドの効果は期待されてこなかった。
   • 効果は常に過大評価される。
      • 米国にとってTPPの効果はほぼゼロと推計される。
   • TPPは悪い貿易協定であるというコンセンサスが広がりつつあり、米国議会で批准されないであろう
      • 特に投資条項が好ましくない-新しい差別をもたらし、より強い成長や環境保護等のための経済規制手段を制限する

要は、先進国は、過去30年、グローバル経済に集約されるところのグローバリゼーションを(グローバル企業を税制や規制緩和、自由化などで優遇しながら)懸命に推し進めてきたし、より最近ではQE(量的緩和)などの金融政策も継続的に実施してきたが、「結果として、経済成長は鈍化し、格差が拡大。今となって漸く、それらの結果が全て目に見えるものとなったが、過去からずっと進行してきた結果なのである。」というのが彼の目に映っている現在の世界(経済)です。

③ 処方箋  48ページ

世界経済:この道を進もう

•「新たな凡庸」(The New Mediocre)、 「大低迷」(the Great Malaise)、「長期停滞」(Secular Stagnation)は避けられないものではない。
   •これらは、政策の失敗による帰結。
•統合が進展する中、前進するための最善の方法は、バランスを取り戻し、総需要を増加させるために国際的な協調を行うことだ。
   •例えば、世界公共財の供給-研究、地球温暖化対策-に向けた国際協調。
   •この国際協調はとりわけ困難である。
   •G7において、日本がリーダーシップを発揮することが、前に進むための一歩となるだろう。
•しかし、そういった国際協力が不十分な状況下にあってさえ、需要の強化や生産性の向上のために各国が単独で行うことのできることは多く存在する。
   •それは、大きな好影響を他の国に対しても与えるのだ。

処方箋に関しては、彼は、実行可能な処方箋を書くのはとてもむつかしいと、処方箋に該当するページに書いたわけです。だから、処方箋は、「統合が進展する中、前進するための最善の方法は、バランスを取り戻し、総需要を増加させるために国際的な協調を行うことだ」、「そういった国際協力が不十分な状況下にあってさえ、需要の強化や生産性の向上のために各国が単独で行うことのできることは多く存在する」といった内容、バランスのとれた総需要喚起のためにそれぞれに頑張ってくださいといった感じの内容になっています。

言葉を換えれば、過去30年の間に刷り込まれてしまったグローバリゼーションという先入主からの脱却を提言しているわけです。アベノミクスというのは、そういう先入主の華やかそうな部分を描いた用紙を何枚か用意し、世界の刷り込みプロセスの最後のあたりで、それらをあわててホッチキスでパチンと留めたものだと云えなくもない。だから、結局のところ、すぐにバランスが崩れてしまう。国民消費がじわじわと落ち込んでいく、そして、たとえば、「保育園落ちた日本死ね!!!」になる。 

「保育園落ちた日本死ね!!! 何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ?・・・」は、スティグリッツ教授のいう「需要の強化や生産性の向上のために各国が単独で行うこと」のひとつです(以下は蛇足的な引用)。
  
  機能するサプライサイドの施策 (「提言資料 31ページ」)
   • 労働参加を促進する施策
      • 有効な公共交通システム
      • 育児休暇、有給病気休暇
      • 子育て支援
   •被差別層・社会の主流から取り残された層の包摂
      •女性
      •少数派・マイノリティー
      •移民

ぼくは、グローバリゼーションという仮想的な巨大ピラミッドの信奉者になるよりは、国や国民経済という小ぶりなピラミッド(そこにどんな形にせよヒエラルキーが存在するという意味でピラミッド)の一員として生きる方が、好ましいと考えています。すごく身近な言葉を使えば、日本という広がりの中で地産地消を軸に生きる方が心地よい。グローバリゼーションの推進と、国民経済の安寧な維持とは、どうもお互いになじまない。

国家戦略特区構想や法人税の引き下げは「グローバリゼーション」の推進に貢献します。しかし、国家戦略特区構想の中には、解雇規制の緩和、有期雇用契約の自由化、労働時間規制見直し・適用除外(有体に言えば残業代は払いません)などが含まれており、これは「国民経済」を棄損します。法人税の引き下げ分が、実質的には消費税の値上げ分で補填されるようなら、これも「国民経済」を傷つけます。実際、その通りになっている。

原子力発電の再稼働に関しても同じような状況が見られます。外国からグローバル企業を呼び込むための施策、あるいは国籍は日本ということになっている日本のグローバル企業を引き留めるための施策のひとつが原発の再稼働と云うことです。しかし、再稼働云々の前に、福島原発では、今でも、原子炉からメルトダウン、メルトスルーしたデブリ(核燃料の残骸)が放置されています。そこからは強い放射能を持った微粒子が漏れ出しています。 Under Control からはほど遠い状態です。こういう、いわば、知らんぷり状態、見て見ぬふり状態が今まで続いてきましたし、このお手上げ状態は今後も続きます。こうして国民と国民経済がさらにじわじわと傷ついていきます。

今回のスティグリッツ教授の提言資料は、グローバリゼーションというものの持つ意味を考え直すきっかけにはなります。

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