« 規格外野菜を利用する農家、規格外野菜は使わない農家 | トップページ | 米(コメ)のチカラで小麦粉を膨らませる »

2016年3月16日 (水)

TPP協定と、そのいちばんの受益者について

TPP協定の狙いは何かという質問をされたら、TPP協定の締結・実施で「いちばん」得をするのは誰でしょうかという質問を返すといいと思います。そこに答えがあるからです。答えはグローバル経済で活動するグローバル企業です。

グローバル企業にとって経営がもっとも効率的なのは、同じ製品や商品を、均質的な市場に大量販売することです。だから世界の市場は国境を感じさせないほどに均質化していた方がいい。関税の廃止というのは均質化のための荒っぽい手段のひとつですが、商品の流通の方法も均質化していた方が経費は少なく利益は多い。均質化を妨げるものがあれば、それを打ち砕く方策がなにかそばにあると便利です。

市場の均質化といっても、やはり文化的な違いや地域経済の特性の違いから市場ニーズには差が出ます。たとえば、インドでは軽乗用車需要が圧倒的に強い。しかし、市場ニーズに言語以外の差がないような場合も多い。たとえば、スマートフォン。

均質化から今でも一番遠い場所にあるのは、食べもの、食事です。マクドナルドやKFCといったプレーヤーによってファストフード分野でのグローバルな均質化はある程度は浸透しましたが、札幌の渡辺家の朝ごはん(鮭の塩焼きとお味噌汁)は、ロスアンジェルス近郊に住むファーガソンさんのお宅の朝ごはん(ベーコン&目玉焼きとサラダ、あるいはコーンフレークかもしれない)とはずいぶん違います。台北の呉さん夫婦の朝ごはん(揚げパンやお粥)が加えてみるともっと違う。晩ごはんになるとさらに違う。しかし三つの家庭のご主人や奥さんはともにiPhoneやWindowsを使っている。

農産物の生産は、食文化の違いが根にあるので、そもそもが国内・地域内のローカルな営みで、胡椒やコーヒーといった嗜好品を除き、農産物は国を超えた貿易の対象ではありませんでした。地域単位の地産地消が食の基本です。それぞれの地域や国が必要量を生産し、消費し、不測の事態に備えて少し蓄えておく。

資本主義が発展すると都市人口が急激に増加します。都市人口の中には工場労働者も含まれます。資本主義の成長にともなって増大する都市人口や工場労働者に食料を供給するために、資本主義各国は国内の農業生産力を高めてきました。明治以降の日本も例外ではありませんでした。多くの先進欧米諸国は(比較生産費説で有名なリカードウの母国であるところの英国などを別としても)今でも高い穀物自給率や食料自給率を維持していますが、そういう歴史遺産が現在まで存続しているわけです。そのことと食文化の違いがいっしょになると、農産物や食べものに関しては国の単位で地産地消を維持することがデフォ(デフォールト・バリュー)になります。

しかし、時代と資本主義が推移し変化し、農産物余剰国とその農産物余剰国を本籍地とする巨大なアグリビジネス(農業ビジネス)が、他国に対して農産物の販売活動、マーケティング活動を開始するようになると、農産物は、衣類や自動車と同じような経済の一要素になり、食は徐々にグローバル化します。食がグローバル化するとは、世界中の人が同じような食材を同じような調理法で食べるようになることです。ITの世界のOSや情報端末のグローバル化と同じことです。日本で生まれたカップラーメンなどもグローバル化した加工食品のひとつの例です。

そういう指向の強いグローバル企業にとって、TPP協定というのは市場の均質化を推し進めてくれる実に快適な仕組みです。ISDS条項なども「均質化を妨げるものがあれば、それを打ち砕く方策がなにかそばにあると便利」なツールに違いない。

グローバル企業は、各国に存在しています。グローバル企業は現地法人や支店を世界中に配置しているという意味ではなく、アップルやグーグルは米国のグローバル企業、トヨタは日本のグローバル企業という意味で主要各国に存在しています。TPP参加国にもそれぞれにグローバル企業が存在し、各国におけるグローバル企業の数はGDPの大きさにだいたいは比例しています。

参加国によってどういう業種にグローバル企業が多いかは各国の事情により異なります。巨大アグリビジネスは米国やオーストラリアにはありますが、日本にはない。しかし自動車は日本、医薬品なら米国です。日本の医薬品会社は世界ではいささか影が薄い。遺伝子組み換え農産物の得意なバイオテクノロジー企業も米国に集中しています。

グローバル企業の存在感が大きい国では、グローバル経済の担い手としてのグローバル企業と国民経済の担い手としての国民や中小企業との間に軋轢が生まれています。経済格差に起因する軋轢です。TPPはこの格差をさらに拡大する方向に働くので、TPP参加表明国では、米国やカナダや日本の様に、TPP協定参加への反対運動が起こっています。

TPP参加国の中でどの国にグローバル企業が最も多いかといえば米国ですが、だから米国ではスムーズにTPP批准かというと、そういうわけにはいかない。国民経済の担い手が、誰がTPPのいちばんの受益者かをよく認識しているからでしょう。

人気ブログランキングへ

|

« 規格外野菜を利用する農家、規格外野菜は使わない農家 | トップページ | 米(コメ)のチカラで小麦粉を膨らませる »

経営とマーケティング」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

農産物」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1317632/64360645

この記事へのトラックバック一覧です: TPP協定と、そのいちばんの受益者について:

« 規格外野菜を利用する農家、規格外野菜は使わない農家 | トップページ | 米(コメ)のチカラで小麦粉を膨らませる »