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2016年4月26日 (火)

TPPとニュージーランドの酪農に関する雑感

TPP協定の第三十章が「最終規定」ですが、その本文(和訳)の最後のあたりは次のようになっています。

「第三十・七条 寄託者
1 この協定の英語、スペイン語及びフランス語の原本は、ここにこの協定の寄託者として指定されるニュージーランドに寄託する。・・・後略・・・」

「第三十・八条  正文
この協定は、英語、スペイン語及びフランス語をひとしく正文とする。これらの本文の間に相違がある場合には、英語の本文による 。以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。二千十六年二月四日にオークランドで、英語、フランス語及びスペイン語により作成した。」

各国代表が署名に集まったオークランドはニュージーランド最大の都市。TPPの最初の4か国はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイなので、ニュージーランドが協定の寄託者(Depositary、書類を預かる人) および署名地に選ばれたのでしょう。

TPPへの参加を表明している国で、酪農が圧倒的に強いのがニュージーランドです。米国などもまったくかなわない。たとえば、牛乳の生産コストは、日本はニュージーランドの4倍高く、米国はニュージーランドの2倍くらい高い。しかし、平らな地面が見渡す限り広がるような国ではない。どうやっているのか。

酪農専門家の資料(酪農学園大学 荒木和秋教授の資料など)を参照すると、ニュージーランド酪農の特徴は、以下の通りです。

・牛を牧草地をローテーションしながら通年放牧、したがって牛舎は持たない
・牧草に依存した季節繁殖、配合飼料は使わない、冬季は休む
・利益を圧迫する機械設備は所有しない、契約で外注サービスを利用
・利益を生まない施設(サイロや牛舎)は持たない

たいていの米国や日本の酪農家が好きな「立派な牛舎で、濃厚な配合飼料」というのとはずいぶんと違った方向を向いています。農家のコスト意識が強く、牛は放牧地でのびのびと暮らせて幸せそうです。

北島と南島からなるニュージーランドの国土面積は約27万平方キロメートルで、日本よりも狭い。日本(約38万平方キロメートル)の71%です。お隣の巨大なオーストラリアと比べるととても狭い。しかし、主要産業は、農業(牧畜・酪農)と林業です。牧畜と酪農のための広い放牧地はどこにあるのか?

United Kingdomという括りでの英国における牧草地は、長い時間をかけて雨や風と折り合いをつけたような具合に仕上がっていますが、ニュージーランドの牧草地は、とても自然な感じとけっこう無理をしている不自然な感じが共存しているような印象です。観光目的でない写真を見るとそう思う。

国土に占める牧草地の割合を確かめたかったので、ニュージーランド統計局 (Statistics New Zealand) のサイトを訪問しました。2012年現在の数字でいうと、

・牧草地(ただし、森林を開墾して牧草地に転化したもの)の割合は39.8%
・もともとは原生の草むらでそれが牧草地になったものの割合は8.6%
・原生林の割合は23.8%
・植林の割合は7.5%
・残りの20.3%が、裸地や湖水、農地や住宅地など。

ニュージーランドは、もともとは、つまりマオリがニュージーランドを発見したころは国土の85%が森林(原生林)だったそうなので、国土の60%以上の面積に相当する森林(原生林)がなくなったということになります。森林(原生林)が開墾されて、牧畜や酪農のための牧草地へと変貌したわけです。

【註】ちなみに、FAOの国別・森林率推計(2013年)によれば、日本の森林率(国土に占める森林面積の割合)は68.5%、ニュージーランドのそれは38.5%。ニュージーランドでは原生林が伐採・開墾されすぎたので、植林をするようになった。FAOの森林の定義は少し広いのかもしれない。

ニュージーランド人と何度か仕事をしたことがありますが、農業や酪農といったものとはまったく無関係な分野だったし、その場所もニュージーランドからは隔たったところだったので、ヒトの数よりヒツジの数が多い国の人という以上の印象はありませんでした。性格の温和な人が多そうだというのがその時の印象です。

しかし、こういうタイプの、つまり、MBAの教科書に載っているような合理化・効率化の方向とは位相のずれたタイプの原価や経費の削減方法に長けているとは意外でした。ただ、原生林の相当部分を消滅させ続けてきたツケ(たとえば、山から森林がなくなると近隣の海は痩せる)がどうなっているのか、酪農との帳尻合わせという意味で、気になるところではあります。

北海道も明治以降、森林が開墾されて畑地になりました。現在進行中のものや、開墾されて間もない畑地もあります。以下(『・・・』部分)は、数年前(2009年5月)にぼくが書いた「北海道東北部の開墾地」に関する雑文から一部を引用したものです。ぼくにとってはいいものを見たという意味で印象的な光景でした。

『タマネギで有名な北見市から石北峠に向かう道路は、無加川(むかがわ)という川に沿って伸びていますが、この道路に沿って、正確には川に沿って、いかにも開墾地という光景が広がっています。どれほど前に開墾したのでしょうか。バスの窓から見た景色です。川の名前は、その場で、手元の地図で調べました。

奥行きが60~100メートルくらいの幅の畑作地が川に沿って、程よい区切りをつけながら、延々と続きます。畑作地のすぐ向こうは、高さ10メートルくらいの白樺の密集した林です。白樺林を切り倒して、開墾したのでしょう。木を切り倒すのは勢いでできそうな気もしますが、残った木の根っこを掘り起こして耕作地にするには結構な量の作業と忍耐が必要だと思われますが、その忍耐の量が伝わってきます。

そのようなことをぼんやりと考えながらバスに揺られていると、まさに今開墾中の区画が現れました。木は切り倒してありますが、木の切り株はまだそのままです。開墾を中止して打ち捨てられた一画かなとも思いましたが、そこだけが別扱いということは、その一角までの、そして、周囲の雰囲気からしてなさそうです。1~2ヵ月後にはできたての耕作地になっていることでしょう。』

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