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2016年9月 8日 (木)

本来の川筋、本来の地名、土地の記憶

今回の台風被害、大雨被害の報道で頻繁に耳にしたのが「本来の川筋」という表現です。
 
「1日午後1時すぎ、新得町内のパンケシントク川はまだ濁った水が勢いよく流れていた。本来の川筋からそれ、下流に向かって大きく右に蛇行していた。」(どうしんウェブ、2016年9月2日)
 
「専門家は、本来とは違う流れができ、国道沿いのグループホームに大量の水が押し寄せたのではないかと指摘しています。」(NHKニュース、2016年9月5日)
 
本来の川筋、本来の流れとはどういう意味か。本来の地名という言葉もあります。現在は「・・台」や「・・丘」と呼ばれている住宅地の、たとえば、50年前の地名、100年前の地名は何だったのか。古い土地の名前は、その土地の特性を凝縮しています。
 
たとえば、札幌(さっぽろ)は「アイヌ語で『乾いた大きな川』を意味する『サッ・ポロ・ペツ』」に由来します。稚内・幌加内の「内」や登別・当別・江別「別」は、「ナイ」や「ペツ」という「川」を意味するアイヌ語を(漢字の当て字を通して)受け継いでいます。登別の「登」は「ヌプル」の当て字、「ヌプル」の意味は「濁る」、つまり、登別は温泉地らしく「濁っている川」という意味になります。
 
内閣府に「防災情報のページ」というウェブサイトがあります。そのなかに「歴史災害に関する教訓のページ」(災害教訓の継承に関する専門調査会)というコーナーがあり、そのなかの調査報告書のひとつが 「【風水害】1947 カスリーン台風 (平成22年1月)」です。
 
その「カスリーン台風」報告書の「はじめに」の部分に次のような興味深い記述があります。(下線は、「高いお米、安いご飯」)
 
「利根川は坂東の太郎と呼ばれる。太郎とは入道雲(積乱雲)を指しており、空高く湧き上がる様が大男の立ちはだかる姿に似たことに由来している。そして、利根川の上流で入道雲が立つとき、利根川の水は恩恵と、時に災いをもたらすことを、江戸の人々が坂東の太郎と呼んだのかもしれない。日本最大の流域面積を持つ利根川では、流域での雨の降り方は一様でなく、むしろ局所的な豪雨が生じることが多い。」
 
「しかし、利根川右岸側の氾濫は異なり、1947(昭和22)年のカスリーン台風の破堤では、氾濫水は利根川から離れ東京湾に向かって流れた。洪水氾濫ばかりではなく、利根川中流から取水する農業用水も利根川に戻らない。農業用水は灌漑した後、その川に還元するのが一般的である。ところが、利根川中流部右岸の農業用水は、中川に排水して東京湾に流出してしまう。こうした事情は、利根川が本来、埼玉平野を南下し東京湾に注いでいた川筋を、人為的に河道を付け替えて東に追いやり、遂には銚子から太平洋に注ぐ現在の姿にさせたことによる。これは利根川の東遷と言われ、江戸時代初期から昭和初期にかけての約400年以上の歳月を費やし行われた河川事業である。カスリーン台風による利根川の氾濫水は、まさに元来の川筋に戻って災害を引き起こしたのである。」
 
だから、最初に引用した「本来の川筋からそれ、下流に向かって大きく右に蛇行していた。」は、「最近の川筋からそれ、本来の川筋をたどるように、下流に向かって大きく右に蛇行していた。」と書き変えることができるかもしれません。「本来」というものを、どれくらいの年数で考えるか。百年か千年か一万年か。
 
最近は、「観測史上初めて」という表現をよく耳にします。気象観測は、地域によっては長いところで100年と少し、短いところだと30年~40年くらい(あるいはそれ以下)の記憶しか持っていないので、そういうスパンにおける「本来」との比較です。従って、観測史上初めてという事象が頻発します。
 
北海道では、ありがたいことに、上述のように漢字の当て字を通してアイヌの土地の記憶が受け継がれています。東京の中心部も同じことです。溜池、赤坂、青山、四谷、渋谷、神泉、荻窪・・・。池、谷、山、坂、泉、窪。土地の形状の記憶です。だから、昔のいやな記憶を消すための地名変更というのも致し方ないのかもしれませんが、地名は、あまり、いじりたくないものです。

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