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2017年9月11日 (月)

「ニセコ」の民族移動

夏季は札幌で生活をし、雪のある間は「ニセコ」で暮らしているスキー関係のインストラクター資格を持つ女性とお話しする機会がありました。「夏冬棲み分け生活」を続けて既に15年だそうです。ぼくはウィンタースポーツには関心がなく、ニセコの状況にも新聞記事以上の知識はないのですが、彼女の話には興味深いものがありました。
 
片言英語のおばちゃんの経営する一膳メシ屋というか定食屋風のお店みたいなところにオーストラリアやニュージーランドからのスキー観光客が、昼ごはんや晩ごはんを食べにくる光景がテレビで報道されていたのは確か数年前くらいだったと記憶しています。だからニセコとはそういう観光地だという刷り込みがぼくの中になんとなく出来ていました。
 
ちなみに「ニセコ」というのは、尻別川(しりべつがわ)の流域に展開している、「倶知安(くっちゃん)町」と「ニセコ町」と「蘭越(らんこし)町」という3つの町が一帯となった地域をさしています。
 
オーストラリアとニュージーランドと書くのは面倒なので、ここではANZ(Australia and New Zealandの略)としますが、今やニセコにはANZからの観光客は、不動産所有者タイプの長期滞在剤型観光客も、そうではないタイプの短期滞在型も含めて非常に少ないらしい。いつの間にか消えてしまった。
 
シリコンバレーでは、勢いのあるベンチャービジネスを米国以外の出身のエンジニアが立ち上げると、彼(あるいは彼女)と同じ国の、ないしは同じような民族的な背景を持つエンジニアがその企業に参集し、やがてその周辺になんとなくエスニックなミニIT産業集積が形成されます。これをエンジニアのミニ民族移動と呼べば、そういう現象が定期的に観察できるのがシリコンバレーです。
 
パウダースノーのスキーリゾート地であるニセコでも、似たような民族移動が結構ドラスティックに進行中のようです。ANZがやってきて、そして、出ていった。あらたに入ってきたのは、東アジア・東南アジア・中華系というキーワードに関連するお金持ちの人たちと資本です。そういう富裕層や資本が入ってくると、それまでにも増して不動産価格が値上がりする。不動産が値上がりすれば、消費物価も値上りする。ホテル代は急騰するし、昼ごはんや晩ごはんの値段、人気の食材の値段もそれにつれて階段状に上昇する。夏冬棲み分け生活の女性も、最近のニセコでは気軽に外食ができなくなったと、こぼしていました。
 
下の円グラフは「ニセコ町」の平成28年(去年)の「外国人観光客入込状況の内訳」と題する統計資料の一部です。4番目のオーストラリアを途中にはさんで、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インドとアジアの国が続きます。この傾向にさらに拍車がかかっているとするなら、「ニセコ」のホテルやレストランやスキー場や通りですれ違うのは、今年はほとんどがアジア系の顔立ちの観光客ということになります(もともとANZは人口が少ないという事情もありますが、それにしても)。そういうことなら、昼や夜の札幌市街と同じです。札幌の繁華街でも、ぼくは今どの国にいるのだろうといぶかるような、外国語に取り囲まれる瞬間があります。
 
H28
 
ANZからのスキー客が気楽に滞在するにはニセコはお金がかかりすぎる土地になってしまったのでしょう。ざっくりと言って、中華系というか華僑系の富裕層の裕福度は、ANZの富裕層のそれよりも、ひと回りは大きい。ぼくたちに比較的わかりやすい感覚で例えると、遊び資金が1億円の人たちと10億円の人たちの違いです。ニセコでは、ゆるやかな雪崩れのように、1億円から10億円への民族移動がとりあえずは完了に近づいているようです。地元住民の生活に経済的な追加負担がなければいいのですが、しかし、彼女の話を聞くとそれもなかなかにむつかしい。

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