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2017年9月 7日 (木)

食べものや体における「無用者の系譜」

唐木順三の著書に「無用者の系譜」というのがあります。出版社の短い紹介文をお借りするとその内容は、「業平、一遍、秋成等から荷風に至る無用者に独自の視点を当て日本文化の底辺を探る」「業平、一遍、芭蕉、荷風ら、『文人』を追って、日本文化の底辺をさぐる」というものです。
 
ヒトや食べものにも無用者の系譜があります。無用者、役立たずと思われてきたものが、実際には、われわれの「科学的な」知性・知見の外側でとても重要な役割をはるかに以前から演じてきたらしいということです。
 
三大栄養素とは「脂質」と「タンパク質」と「炭水化物」で、以前はそれ以外は関心の対象外でした。それに、「ビタミン」と「ミネラル」が加わって五大栄養素となり、その後、無用者の系譜に属していた「オリゴ糖類(おなかの環境を整える)」「食物繊維類」「ペプチド類(血圧の上昇を抑える)」「ファイトケミカルと総称されるポリフェノール類やカロテノイド類(抗酸化作用で炎症を予防する)」が、表舞台に登場してきました。
 
腸内フローラというきれいな名前がつけられた腸内微生物叢や腸内細菌叢。これも無用者の系譜の一員でした。これに(アンチバイオティクスに対抗して)「プロパイバイオティクス」(たとえば乳酸菌やビフィズス菌など、「善玉菌」とも呼ばれている)という名前がつけられ、「オリゴ糖」などが「善玉菌」の食べものという意味で「プレバイオティクス」と称されるようになり、市民権を獲得しました。(ちなみに、生体内の微生物の総体(微生物叢)は英語でマイクロバイオーム(microbiome)。)
 
DNAの総体をゲノム(genome)といいます。ぼくたちにとってはおなじみの用語です。ゲノムの全部が遺伝子であるわけではなくて、ゲノムの中で「遺伝情報を持ったDNA」(つまり遺伝子)は、量としては数%~10%くらい、残り(残りという言い方は、残りに属するDNAにとっては失礼な話ではありますが)であるところの90%は遺伝情報とは直接の関係のない、存在理由がいまだによくわからないところのあるDNAです(だから、ジャンクDNAなどと呼ぶ礼を失した研究者もいます。)つまり、いまのところ、無用者の系譜に連なっているようです。
 
「体という自然」や「生命」には実質的な無駄やジャンクが存在しないとすると、ぼくたちのまわりに無用者の系譜がそれなりに存在するというのは、ヒトの身体や食べもの関して要はその存在理由や働きがいまだによくわかっていないものがいっぱいあるということです。
 
ぼくが遺伝子組み換え作物や遺伝子組み換え食品を避けるのは、それがたいていはRound-upという除草剤や殺虫剤やRound-up Readyと呼ばれているRound-upに抵抗性を持ったトウモロコシや大豆に関連しているからです。
 
そういう薬剤やそういう薬剤に抵抗性を持った穀物や豆は、たとえば腸内微生物叢や腸内細菌叢を殺してしまう。控えめに言っても、長期的にどういう悪影響を生体内の微生物叢に及ぼすのかほとんどわかっていない。換言すれば、「無用者の系譜」との関連がまったくわからないし、生産者側も認可する側もそれを公表しない。知らぬ間にひそかに「ジャンクDNA」の構成にダメージを与え続けているかもしれません。「君子危うきに近寄らず」です。

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