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2017年11月 1日 (水)

知的で強引な説得力

彼の代表作・傑作とされている評論やエッセイをいくつか読み直してみました。それらを最初に読んだときは、畳みかける勢いと牽強付会が入り混じったような、結果としてわかりにくい作品も少なくないという印象を持ったのですが、再読してみてぼくの最初の感じ方が(ぼくにとっては)正当だったことを確認しました。
 
彼の文章には、酔ってしまうような心地よいリズム感がある、同時に、強引である、無理をしている。強引なところは、その強引さを好む読者には愉悦なのかもしれませんが、そうでない読者には、当然のことながら、わかりにくい。
 
言葉を換えると、彼の書く文章には、歯切れのよさと歯切れの悪さ(ないしは、強引なゆえのわかりにくさ)が同居していて、政治家の街頭演説や立法府の委員会における大臣の応答に近いものがあります。
 
現役ないし最近まで現役だった政治家を引き合いに出すと、畳みかけるような口調でとても歯切れのいいところは、ノリのよかったときのJKやその息子のSKです。
 
歯切れの悪いところ、要領を得ないところは、答弁で主題からずれたことをなんども繰り返し、自分でも何を語っているのか理解していないので着地点を完全に見失ってしまい、聞いている方がうんざりするようなSAです(最初はそういう「おしゃべり戦略」かと思ったこともありましたが、複数の事例を観察するとそうではなさそうです)。
 
その二つが彼のいくつかの作品には同居しています。
 
SAの場合はイライラした記者や苛立った野党の質問、ないしは質疑応答の時間切れという物理的な制約でわけのわからないおしゃべりを中断させられることが多いのですが、「批評の彼」の場合は、SAとは違い、自分の着地点がよく見えています。しかし、着地点を定めたからと言って、着地点への具体的な到達プロセスがわかっているとは限らない。不明な場合も少なくない。そういう場合は、ロジックが三段くらい跳んで、「要するに、現実を、肉眼で見ると・・・のようになる」と断定的に結論付けます。そういう「搦手(からめて)」がお好きなようです。そして、それが心地いいリズム感になっている。
 
歯切れのよさと歯切れの悪さ(というか、ロジックのジャンプ)が同居している分かりやすい例を以下に引用してみます。その説得方法を是とするか非とするかは読者しだいです(なお、□□は、ある人物の名前です)。
 
『この新しい事態に接しては、彼の豊富な知識は、何んの役にも立たなかった。役に立たなかった許りではない、事態を判断するのに大きな障碍となった。つまり判断を誤らしたのは、彼の豊富な経験から割り出した正確な知識そのものであったと言へるのであります。これは一つのパラドックスであります。このパラドックスといふ意味を、どうかよくご諒解願ひたい。僕が、単にひねくれた物の言ひ方をしてゐると誤解なさらぬ様に願ひたい。□□の知識はまだ足らなかった。もし□□がもっと豊富な知識を持ってゐたなら、彼は恐らく成功したであろう、といふ風に呑気な考へ方をなさらぬ様に願ひたい。そうではない。知識が深く広かったならば、それだけいよいよ深く広く誤ったでありませう。それがパラドックスです。』
 
彼は、『知識が深く広かったならば、それだけいよいよ深く広く誤ったでありませう。』と断言します。その根拠や論拠は示しません。彼がそう考えるので、そうなのです。『それがパラドックスです。』と結論付けて、それでおしまい。政治家の演説ならそこで会場が納得します。拍手が沸く。
 
こういう文章術というか弁論術は、自分でそういうことを他者に仕掛ける場合にも(そういう必要があれば)、逆にそういうことを仕掛けてくる相手と距離をとりながら自分を保つ場合にも役に立つので、そういう視点で、彼の作品を、現在、いくつか再読しています。

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