« メイジャーリーグ球場の手動式スコアボード | トップページ | アピオスという油がいっぱいの小さなイモ風野菜 »

2018年4月24日 (火)

「#YouToo」という言葉のある種のおそろしさ

「井上ひさし」の小説に平成11年に出版された『東京セブンローズ』というのがあります。旧漢字遣い・旧仮名遣いのこの800ページ近い本は、あまり売れなかったらしく、今は古本でしか手に入りません。
 
この本の帯には『日本語を救った女たちの物語!』『戦局いよいよ見通しのない昭和二十年春のこと、(・・中略・・)そして敗戦、日記はつづく。占領軍は、忌むべき過去を断つべく日本語のローマ字化をはかる・・・。国家、市民、そして国語とは何なのか?』」とあり、これがこの本の主題ですが、本の帯には、同時に、『その驚倒・讃嘆すべき戦下の日常の細密な叙述には、一片の嘘もなく、まじりっけなしの真実のみ』とも印刷してあります。
 
敗戦日をはさんだ東京とその近郊の1年間の市民の日常と心理、B29の空襲警報、サツマイモの雑炊、時折り細い鋭い目をする特高刑事やうさんくさい町会長、隠匿物資の闇取引にかかわる人たちのしたたかさと抜け目なさ、混雑の極みの酒場や銭湯、新しいお上である「濠端(ほりばた)天皇」にあてた一般市民の手紙など、「日常の細密叙述」は圧倒的でほとんど百科全書の趣きです。
 
国や国民がある方向に傾斜していったときに、為政者や官僚だけでなく市民(オジサンやオバサン)の精神構造がどうなるか、日常生活における当時の具体例が満載なので、なかなか得難い資料本として手元においてあります。
 
その中から「オバサン」から「オジサン」へ向けて発せられた批判的発言の例を抜き出してみます。
 
『・・・満蒙(まんもう)は帝國の生命線、昭和維新、高度國防國家建設、非常時の波高し、國民精神總動員、擧国一致、堅忍持久(けんにんじきゅう)、代用品時代・・・』『大東亞新秩序、紀元二千六百年、月月火水木金金、一億一心、大政翼贊、八紘一宇、玉砕、どれもこれもぴかぴかの漢字、かういつた御立派な漢字で天下國家を論じて、それで日本はどんな國になりましたか。少しでも立派な國になりましたか。答えは出ています。すつかりだめな國になつてしまつた』
 
いわば当時の「#MeToo」「#YouToo」メッセージです。「パワハラ」告発メッセージとも解釈できます。
 
しかし、そういう「日本をダメにした」ところの原因であるところのオジサンから、声高なオバサンへの反論メッセージもその小説の中に含まれていますが、オジサンの反論はやや弱々しい。弱々しいのは、オバサンという集団は視野を狭めて一方向に走り始めると、けっこう恐ろしい存在になるということをオジサンは知っているからかもしれません。以下は、その弱々しい反論の例です。
 
『大日本婦人會の襷(たすき)を大袈裟にかけて<進め一億、火の玉だ>と連呼しながら、そこの不忍(しのばず)通りを嬉しそうに提灯行列してゐたのはどこのだれだ』
 
タスキをかけて「進め一億、火の玉だ」と提灯行列していたオバサンも、この文脈では、「#YouToo」の対象になります。つまり、オジサンに投げかけた言葉が自分に戻って来た。お互いに魔女狩りの状態です。
 
魔女狩りや魔女裁判について調べてみると、「マシュー・ホプキンス」という17世紀の魔女狩り活動家(イギリス人男性)が巧妙な方法を考案していました。
 
水は聖なるものなので魔女を受け入れない。つまり、魔女は水に浮く。そういう言い伝えがあった。だから、魔女と思われる人物を紐で縛り上げ、水に投げ入れる。浮かんだら有罪、沈めば無罪とする方法だったそうです。浮かんだら、そこでは死なないけれど、有罪なのであとで死刑になる。浮かなかったら無罪だけれど、縛られて水の中なので、その場合は溺死してしまう(その恐れが高い)。いずれに判定されようと、悲劇が待っています。つまり、ターゲットにされたらおしまい、とまではならないにしてもそうなる可能性が非常に高い。
 
「#YouToo」に関する報道記事を読んで、両者の類似性について考えることになりました。
 

人気ブログランキングへ

|

« メイジャーリーグ球場の手動式スコアボード | トップページ | アピオスという油がいっぱいの小さなイモ風野菜 »

女性」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1317632/73343911

この記事へのトラックバック一覧です: 「#YouToo」という言葉のある種のおそろしさ:

« メイジャーリーグ球場の手動式スコアボード | トップページ | アピオスという油がいっぱいの小さなイモ風野菜 »