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2018年9月21日 (金)

風評被害という言葉は慎重に使いたい

北海道の胆振(いぶり)東部地震のあと、「風評被害でやまないキャンセル 観光地の客足戻らず」というタイトルのマスメディア記事がありました。

北海道への観光客が激減していることを実感しようと思ったら、札幌にあるデパートの化粧品売り場と女性向け商品売り場(バッグや洋服や小物など)を数分間歩いてみるといい。地震前とは大違いで閑散としています。札幌の繁華街を歩くのもいい。今は中国語の洪水がないので、地震前のように日本語をしゃべるぼくたちはひょっとしてここでは少数民族なのかという違和感に襲われることもありません。

マスメディアが、たとえば、「風評被害でやまないキャンセル 観光地の客足戻らず」というタイトルの記事を書くのは、マスメディアの常に何かを騒ぎたてたいという性格がそのタイトルによく現れていて、変な表現になりますが、それなりに自己完結しています。突然の雷雨や豪雨の報道のときに、帰宅途中の勤め人などは平気な顔だし、しかたないなあという表情で歩いているのに、メディアのレポーターだけが大変だ大変だと大騒ぎをしている光景によく出合いますが、自己完結とはそういう意味です。ただの激しい夕立じゃん、と考えてはいけない。

困るのは、「風評被害でやまないキャンセル 観光地の客足戻らず」という記事の中で、「風評被害で迷惑している」というコメントが引用されている地震被害とはほとんど縁がなかった北海道の温泉地や観光地のホテルや旅館の経営者の発言です(「ほとんど」というのは北海道全部が一日近くブラックアウトしてその部分の被害はあったはずなので、また北海道の食べもの物流も一時停止したので、「ほとんど」です)。

二重の意味で困ります。ひとつの「困った」は、「風評被害でやまないキャンセル 観光地の客足戻らず」という記事を書きたい記者は、インタビューの中から発言全体の文脈と関係なく記事の趣旨に合った部分だけを切り取るのが通例なので、発言者の発言趣旨の全体が読者には見えないということ。

もうひとつの「困った」は、発言全体はもう少し穏やかな口調のものであったにしても、そのなかに、北海道で震度7の地震があったので、それ以降、観光客が来なくなった、宿泊予約のキャンセルが続いている、胆振東部とその周辺は被害が大きかったかもしれないが、われわれの温泉地の施設やアクセス道路に被害はなかった、北海道全体の停電(ブラックアウト)は発生したがそれも1日だけだ、ところがこの観光客の落ち込み具合はどうだ、どういうわけだ、マスコミの大げさな被害報道による風評被害だ、地震の被害のないわれわれが風評被害による経済損失を被り続けるのは納得できない、という思いが存在しているらしいことです。

「風評被害」という言葉の一般的に受け入れられている意味は、『根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが受ける損害のこと。[補説]例えば、ある会社の食品が原因で食中毒が発生した場合、その食品そのものが危険であるかのような報道のために、他社の売れ行きにも影響が及ぶことなど』(「デジタル大辞泉」)だと思われます。

しかし、「根拠のない噂」と「根拠のある事実」の境目というのは、風評被害について発言する人がどこに立つかによって、けっこうふらふらと動きます。

被害のなかった北海道の温泉地にとっては、「北海道は危ない、まだ近づいてはいけない、落ち着くまで様子を見たほうがいい」というのは「根拠のない噂」に相当するのでしょうが、そうでないひとたちにとっては「根拠のある事実」です。

北海道に7回も8回も滞在したことのあるようなベテラン観光客や、ビジネス目的で特定の場所にだけ用事のあるビジネス客は別ですが、北海道への観光客は、とくに外国からの観光客は、たいていは、北海道を全体がモジュラー構造になった一つの観光ユニット・機能ユニットと考えます。ちょうどぼくたちが、アウトバウンドの観光客の場合は、中国の四川省や中国の東北地方を、あるいは米国のカリフォルニア州を一つの観光ユニット・機能ユニットとみなすのと同じことです。定山渓や登別や函館は胆振東部とは違う、安心だなどといわれても外部の人間にはよくわからない。黒竜江省の省都がどこかご存知ですか、カリフォルニア州の州都はどこか知っていますか?まあ、同じことです。

北海道への観光客は、一部のチャーター便や新幹線利用客を除いて、新千歳空港を使いますが、その新千歳空港は「国内線ターミナルビルの3階と4階にあるフードコートをはじめとした商業スペースは9月末をめどに再開する。温浴施設や空港に併設しているホテルの復旧は年内いっぱいかかる」(2018年9月20日、日本経済新聞〈北海道経済〉)

泊まるところや行き先が急になくなって停電の新千歳空港ターミナルで複数の夜を過ごした外国人観光客と日本人観光客や彼らの家族や友人にとっては「北海道は危ない、まだ近づいてはいけない、落ち着くまで様子を見たほうがいい」というのは、観光ユニット・機能ユニットとしての北海道を考えてみれば「根拠のある事実」です。

「風評被害」などという言葉を安易に使わずに、じわじわと「大丈夫」「近いうちにどうぞ」メッセージを発信していきましょうか。

下は「中国まるごと百科事典」からお借りした中国地図です。ご参考まで。(引用については、この場を借りて御礼申し上げます)。

Chinadist_city

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