「スペンサーの料理」
「スペンサーの料理」という本が本棚にあります(昭和60年10月31日 再版)。ちなみに昭和60年は1985年。ロバート・パーカーのハードボイルド小説の主人公が「スペンサー」、スペンサーが活動する舞台は米国東海岸のボストン。スペンサーシリーズに出てくる料理と酒とレストランを、その時点までのもので整理したのがこの本です。
いろいろな料理やレストランが登場しますが、凝った料理はぼくにとってはそれほど印象的ではありません。ちょっとした食べもののほうが記憶に残ります。以下はそのちょっとした食べものや簡単だけれど気の利いた料理の例です。なおスペンサーシリーズ物の翻訳はほとんどが菊地 光氏。
・トマト・スープ
「今スープを食べているところなの」かのじょがいった、「少しどう?」
「昼食をすませた。しかし、コーヒーをいただきながらつき合うよ。また一夜をいっしょに過ごすようだ」
「そして?」
「そして、なんとかけりがつくと思う。きみは家に帰れる」
二人でカウンターに坐って、彼女はトマト・スープを食べ、私はインスタント・コーヒーを飲んだ。(『約束の地』)
「昼食をすませた。しかし、コーヒーをいただきながらつき合うよ。また一夜をいっしょに過ごすようだ」
「そして?」
「そして、なんとかけりがつくと思う。きみは家に帰れる」
二人でカウンターに坐って、彼女はトマト・スープを食べ、私はインスタント・コーヒーを飲んだ。(『約束の地』)
・フライド・エッグズ
私はトーストにバターを塗った。パティがベイコン四切れと、裏返して軽く焼いた卵二つを皿にのせ、その皿をわたしの前においた。自分の皿には卵一つとベイコンを二切れのせた。椅子に坐ってオレンジ・ジュースを飲んだ。
「これはたいへん結構な朝食だ」わたしが言った。(『初秋』)
「これはたいへん結構な朝食だ」わたしが言った。(『初秋』)
・ポテト・アンド・オニオン・オムレット
彼女が寝室から出てきた時は十五分くらいたっていたろうか。その間に私は台所にあるものをかきまわして探し、ポテト・アンド・オニオン・オムレットを作った。(『初秋』)
・フライド・グリーン・アップル
ソーセージは冷えたフライパンに入れて低温から焼き始めなければいけない。ジュージューと音がし始めると、大きな緑色のリンゴの芯を抜いて皮をむいた。厚めにスライスしたのをメリケン粉にまぶして、ソーセージから出た脂でいためた。(『ゴッドウルフの行方』)
・ピスタチオとバジリコ・ソースあえのスパゲティ
冷蔵庫にブロコリの二十オンス袋がある。青い大きなポットを取り出し、四リットルほど水を入れて火にかけると、それより小さめの蒸し底のあるソースパンに水を一カップ入れて火をつけた。水が沸くまでの間、ニンニク二かけを、クイジナートに入れてさらにパセリ一つかみ、メボウキ一つかみ、塩少々、油少々、殻をむいたピスタチオ一つかみ、を加えてブレンドした。(『レイチェル・ウォレスを捜せ』)
こういうところを原文で楽しもうとすると手作り風の「英語の基本料理用語集」が役に立つ(場合もあります)。
蛇足ですが、「フライド・グリーン・アップル」の項に出てくる「メリケン粉」とはけっこう時代がかった言葉ですが「小麦粉」のことです。国産のものを「うどん粉」と言ったのに対し、アメリカ産の精製された白い小麦粉を「アメリカン粉 → メリケン粉」と呼ぶようになったらしい。
それから「スパゲティ」の項の「メボウキ」は「バジル」の和名です。

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