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2019年1月 9日 (水)

古い観光地のタクシー運転手

古い観光地とは、ここでは、奈良や伊勢や京都などのことです。そういう地域のタクシー運転手の中には独特なものの見方や語り口を持ったかたがときどきいらっしゃる。個人旅行の場合タクシーに乗らないと行けないような不便な場所を訪れたときや、比較的長い距離を利用したときなどは運転手との会話の量が比較的多くなりますが、そういうときにそういう個性と出会えます。

「京都の仏教は死んだ人の仏教ですが、奈良の仏教は生きている人の仏教です」とおっしゃったのが奈良のタクシー運転手です。鎌倉仏教の前の日本仏教はしょせん借り物、輸入仏教だと断定した禅者もいらっしゃる。その禅者にとっては南都六宗も最澄や空海の密教も同じ穴の狢の借り物ということのようです。

タクシー運転手が云うところの「京都の仏教」は、おそらく鎌倉仏教を含んだものとしての京都の仏教ですが、その意見を聞いたのはたしか當麻寺(たいまでら、当麻寺)への途中だったと記憶しています。「當麻曼荼羅」で有名な當麻寺は7世紀の創建で、宗派は高野山真言宗と浄土宗の並立となっている不思議な寺院です。運転手の意見陳述にはふさわしい背景だったように思われます。

話題がふと名古屋になったときに「名古屋にはパチンコ以外に何がありますか」と疑問文風に断定した奈良の運転手にも出会ったことがあります。最初の運転手とは別のかたです。たしかに名古屋はパチンコ発祥の地だとされていますが、名古屋になにか恨みでもあったのでしょうか。でもそう言われたらそうかもしれない。

伊勢の個人タクシーの運転手の話も興味深いものでした。乗ったのは、以前はよく見かけた古いタイプのマニュアルシフトの古い車で、それが現役で走っている。走行距離は優に20万キロを超えて30万キロ近くに達しているかもしれません。床に小さな穴が開いていないかと心配になります。運転手は白髪の混じった頭を短く刈り込んでいる。

「今日は一緒に猟のはずだったのに連れが急に都合が悪くなって、それで仕事さ。あんまり仕事の気分ではなかったのだけれど、朝熊岳(あさまだけ)まで行ってくれるので助かったよ。山で何を獲るのかって?猪(いのしし)だよ」

「伊勢志摩サミットの時はまったく仕事にならなかったな。一ヶ月以上交通規制で検問ばかり。そのあたり全部が交通渋滞で動けないし、ホテルにいるのは警察関係ばかり。一般の宿泊客なんてほとんどいない。二週間くらいなら何とか我慢するけれど、ひと月だと干上がっちゃうよ。最初にやってきた警官は北海道警察だよ。洞爺湖サミットの警備経験があったからだな。警察官は余分な金は落とさないし、タクシーなんかは乗らないよな。自分の車を使うからな」

「伊勢神宮は内宮や外宮だけでなくこのこの辺り一帯の山まで全部含んで神宮だな。」

「金剛證寺の卒塔婆は大きいんだ。そばまで案内するから見てくるかい?中くらいの大きさのが十万円、いちばん大きいのは百万円、十年ごとに新しくすることになっているんだ」

「朝熊岳も金剛證寺も子供のころは遠足コースよ。一日がかりで、弁当は金剛證寺で食べる、家に帰ったら暗い夕方だ。猪狩りは面白いよ。犬を連れて山の中だ。俺もそろそろ70だから、足腰がいつまで猪猟に耐えられるか心配になり始めているよ」

レイモンド・カーヴァーの短編の妙に気になる場面に登場してくる妙に気になる人物(必ずしも主役的な人物とは限らない)を思い浮かべてしまうような、そういう滲み出てくる雰囲気を持ったタクシー運転手との会話は記憶に残ります。

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